『出絞と花かんざし』 佐伯泰英著 光文社文庫
連日の暑さとオリンピックの声援と啼き始めた蝉の声からすこし離れて文庫本へ逃げる。一冊読みきりなので取り組みやすい。
京都北山の北山杉の里・雲ケ畑で、六歳のかえでは母を知らず、父の岩雄、犬のヤマと共に暮らしていた。従弟の萬吉に連れられ、京見峠へ遠出したかえでは、ある人物と運命的な出会いを果たす。京に出たい、芽生えたその思いが、かえでの生き方を変えてゆく。母のこと、将来のことに悩みながら、道を切り開いてゆく少女を待つものとは。光あふれる、爽やかな物語。
出絞とは北山杉のなかでも特別に値打ちのある杉で一山に三本くらいしか育たない。萬吉はその北山杉を使って宮大工に、かえでは祇園の舞子のかんざしを作る道へとそれぞれが進んでゆく。二人にかかわる人たちの暖かさが身に染みる。
以前、左右に林立する北山杉を見ながら冬のドライブをしたことがあった。
冬は雪に埋まる寂しい北山。
北山杉を砂で磨くのは女性たちの仕事だ。ツキノワギマ、鹿、猪、サルの野生動物が生息する。通り過ぎる車は数台しかなかった。
日中は体を動かすのも億劫になりクーラーの部屋でゴロゴロする日が続く。
散歩は言い訳程度にほんの近くだけ。向日葵が今日の暑さに耐えてやっと咲いている感じだった。