流れのままに。

いろんなことを好きに語っております。

宣告の日。

2009-07-10 19:12:37 | Weblog

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到着を告げる車内アナウンス。

僕を含めた数人の乗客は、心なしか重い足取りでバスを降りた。

五月にしては暖かな日差しが降り注ぎ、僕は眩しさに目を細めた。

僕はこれから告げられるであろう宣告を感じながら、一度建物を見上げるとゆっくりと入り口の自動ドアをくぐった。

入るとそこが入り口ロビーになっており、左手に総合受け付けカウンターがあった。

総合病院としては、全体的にこじんまりとした造りだった。

僕はそこをスルーすると、同じフロアーにある消化器内科へ赴き、受付で来意を告げる。

今日は胃の内視鏡検査を受けることになっていた。

15分ほどして、消化器内科待合室の一角に儲けられたカウンターから、名前を呼ばれる。

僕は椅子から立ち上がると、カウンターで名前を告げた。

傍らにテーブルが置いてあり、そこの椅子に腰掛けるように言われた。

待つほどのこともなく、1人の看護師が前に座った。

「○○さんですね、これから内視鏡検査ですが、その前に検査手順と注意事項をお話しします。よろしいですね?」

僕は頷く。

前夜から食事していないことを確認すると、多分40代と思われる看護師は、淡々と淀みなく説明を始めた。

僕は時折頷きながら、じっと説明に耳を傾ける。

事務的ではあるが、理解しやすい説明だった。

最後に「ご質問はありますか?」と言われたが、そもそも内視鏡検査自体初めてなので、何を訊けばいいのかも分からず、僕は「いえ、特には」と答えるしかなかった。

多分検査を受けてから「訊いておけば良かった」と思うことが出てくるだろうが、今は思い浮かばなかった。

一通り説明を聞き終えると、どこへ赴けばいいのかを告げられ、僕は頷くと受付票を手に席を立った。

告げられた場所に内視鏡検査室のプレートを確認し、僕はそこの受付に置いてあるケースに受け付け票を入れた。

通路にある長椅子には既に2人ほどが順番を待っていた。

不安なのか幾分表情が暗く、一様に手元へ視線を落としていた。

その一角は誰も存在していないような静寂に包まれている。照明は意図的なのか光量が絞られている。

僕も2人からちょっと離れて、空いている椅子に腰を下ろした。

中から検査を終えた人が出てくると、入れ替わりに1人が呼ばれ、30分ほどして僕の順番が来た。

中へ入ると前室で血圧を測るように告げられ、僕は自動計測の血圧計に腕を差し込み血圧を測った。

次に椅子に座るように言われ、検査着に着替えると、ゼリー状になった喉の麻酔薬をゆっくりと溶かすよう告げられる。

僕は呑み込まないように気を付けながら、ゆっくりとゼリーを溶かしていく。

やがて喉と舌に痺れたような感覚を感じた。

喉の感覚が鈍くなっていく。

平静を装っていたが、やはり緊張していることは否めない。

ゼリーを全て溶かし終わった頃、検査を受けていた男性が、検査室から前室へ出てきた。

少しして僕が呼ばれる。

僕は暗い検査室へ入ると、言われたとおりベッドへ左を下にして、横向きに寝そべった。

先日外来で診察を受けた医者に看護師が1人補助に付いている。

口に筒状の器具をくわえた。

「では検査を開始します。内視鏡を挿入していきますから、動かないでくださいね」

僕は「はい」短く答えた。

するとおもむろに内視鏡が挿入されていく。

挿入される時は特に嘔吐感は襲ってこない。

しかし先端が胃に到達し検査が始まると、器具の動きと共に激しい嘔吐感に襲われ、幾度となくえづく。

その都度「あ、危ない!ガマンして下さい」と言われるが、器具によって強制的にえづかされているので、ガマンのしようもない。

「早く終われー!」と心で叫びながら、苦痛に耐える。

やがて組織採取を終えると、ようやく器具が抜き取られた。

僕は思わず「はあーっ」と一つため息をついた。

と同時にもう内視鏡検査は受けないと、強く心に誓っていた。

検査を終えた医者は、備え付けの手洗い場で手を洗いながら、唐突に告げた。

「○○さん、胃ガンですね」

は!?このタイミングで言うの?

普通は別室に呼ばれて重々しく告げられるんじゃないのか??

その疑問はしかし、あまりの唐突さに声にならず

「はぁ、そうですか・・・」

と間の抜けた返事を返すのがやっとだった。

ただガン宣告されたというほどのショックには見舞われず、その事実だけを淡々と受け止めていた。なぜなら、この病院へ初めて足を運んだ時から、いやその前から胃ガンであることは確信的に予感出来ていたからだ。

食欲不振、吐き気、唐突に襲い来る動悸、極度の貧血、身体のだるさ、明らかな黄疸・・・・・etc
それだけの症状に襲われれば、容易ならざる事態なのは想像に難くない。

だからこそ、僕は手前にある市民病院ではなく、がんセンターを名乗るこの病院を選択したのだ。

つまり予想していた答えを告げられたに過ぎない。

その後デスクのある狭い部屋へ移動し、改めて胃ガンであることを告げられた。

僕はまず手術出来るのかどうかを最初に確認する。

医者の答えは進行ガンだが、まだ手術できる状態だということだった。

ただしきりに早めの手術を勧めたのには、進行度がぎりぎりの状態であることを匂わせた。

それから各種検査を受けるように言われた。

前室へ戻ると着替えを済ませる。看護師は幾分僕を気遣っているようだった。

ガン宣告を受けた哀れな男にでも見えたのだろうか?残念ながら看護師が思っているほどのショックは受けていないのが、却って申し訳なかった。

僕は看護師にこの後の検査場所を確認して、内視鏡検査室を後にした。

その日は更にレントゲンとエコー検査を受け、翌日CTとバリウム検査を受けるための予約をしてもらい、僕は支払いを済ますと病院を後にした。

外へ出ると気温は確実に上がり、長袖では多少汗ばむほどだった。

僕は病院の中へ引き返すと、自販機で飲み物を買い、病院の敷地内にあるバス停のベンチに腰を下ろした。

飲み物を口にして「ふうー」っと一つ息を吐いた。

心が少し重くなった分、身体も重くなったような気がした。

郊外の高台にあるせいか、風が心地よく肌を撫でていく。

やがて駅前行きのバスが来た。

僕は乗り込んだ。

来たときは無かった重荷を一つ背負った身体を引き摺るように・・・。


FIN・・・





※実際の状況を小説風にしてみました。内容はノン・フィクションです。









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