このマンションは、東京都下の既存住宅地内に立地し、約10年を経過している。劣化の程度は経年相当の不具合があったが、新築時の施工の良さがうかがえ劣悪な状態ではなかった。ほとんどが躯体に起因する劣化であり、改修工事の重点課題とされた。
また前面道路が一方通行で狭く、生活道路の役目を持っていることから、工事中の搬入車輌や足場の架設には十分な配慮が必要であった。
工事中の駐車場使用規制
マンションの駐車施設として、前面道路に平行した飛び込み型駐車場と空地を利用した駐車場があり、利用しながら工事を実施することは足場の架設などに影響が著しく、設計段階から問題点を指摘し管理組合で検討を重ねて来た。
一部使用と移動を繰り返しながら工事を進める案もあったが、利用者の公平性に欠けることや工事中の管理面を含めてトラブルに発展することが予想されたため、工事期間中は工事を優先し、定期総会で敷地外に仮駐車場を借り受け全車両とも移動することになった。
たまたまこの管理組合では、駐車場利用に関して毎年抽選によるため、工事中を含む1年の利用条件を、工事期間中は利用できない前提で抽選することを総会で事前に周知したことにより、トラブルに発展することなく工事中の居住者用駐車問題を回避した。
改修の重点目標
はじめての改修を経験することになった管理組合は、当初は化粧直しという感覚でいたようであったが、建物診断を踏まえ改修の方向を探る中で、問題は躯体にあることが理解できたようである。
最初の改修工事だからこそ、躯体の不具合や劣化に対して的確に直しておくことが、将来的に有効な性能確保につながるため、ひび割れをはじめ徹底した止水注入や切付け部の処理および手摺支柱のアンカー部の注入処理を行うことが目標になった。
特に外壁の石材調吹付け塗材であった部位は、管理組合の希望で当初同質の塗り直しで仕様を組んだが、化粧目地の問題や予算配分の都合もあって、既存のイメージをできるだけ変えない前提で見積もり時点にフッ素樹脂塗材に仕様変更を行うことになった。
アルミ手すり支柱根元処理
当社の標準的な重点改修部位にアルミ手すりの支柱根元処理がある。どこのマンションも根元が埋め込みの場合、基部のほとんどに空洞部が形成され、支柱根元の納まり上の問題を発見することが多く、的確に処理しておかないと不具合の原因をつぶすことができない。
このマンションの場合も例外ではなく、支柱内部に蓄水が発見され全数の支柱基部に防錆効果と補強を兼ねた無機質系の特殊防錆グラウト材を注入している。この工法は、工法特許出願を済ませたところである。
(設計・監理 有限会社 鈴木哲夫設計事務所)
<アメニティ新聞244号 2003年1月掲載>