昨年10月26日外壁等改修工事中の六ツ川台団地において、日住協神奈川県支部主催による工事見学会があり、8管理組合22名が参加しました。
同工事の主な特徴は、下地の全面(完全)剥離、設計監理方式の導入などです。工事内容の詳細について、同住宅長期修繕委員会元修繕委員長の佐藤博氏にご寄稿いただきました。
六ツ川台団地は竣工後30余年を経て、第3回目再塗装の時期を迎えております。初回から数えて4層目の塗膜が施されるわけです。
既存塗膜は剥離された部分とそうでない部分があって均一性を欠いています。また塗膜におおわれて、目視し難い下地の欠陥の多いことも予想されます。
未だ固まらないコンクリートは流動状態で枠内に流し込まれ成形されることは周知の通りです。水和されたセメントが水と化学反応を生じて固結するに要る水量は微量ですが、打設に必要な流動性を保持するにはセメント重量の50~60%程の水が要ります。従って固結したコンクリートやモルタルに内包された余剰水は長期にわたって乾燥し、収縮してひび割れを誘発します。このひび割れは水漏れの原因となって建築上必要な諸機能に障害を引き起こします。
躯体はコンクリート欠損が鉄筋で補われ、鉄筋はセメントのアルカリで錆の発生から保護されるという相関関係によって成り立っています。この様な事実に立脚し、工事名を「外壁大規模修繕工事」と改名、建物の長生化を目指して見直すべく、下記の現況調査を入念に行なうことから始めました。
- 大気による壁体の中性化進行状況
- 下地モルタルの亀裂や浮きの発生状況
- 漏水に基づく鉄筋の腐食ケ所
- 金物類取付ケ所の腐食状況
- バルコニー床、出庇その他の防水破損状況
- その他必要事項
これらの調査の実施とその結果に基づく大規模修繕案の作成、実施計画や工事を支障なく執行し得る体制として、熟達した専門チームである(株)インテリフォームの協力を受ける事に致しました。
I 調査
1 進め方
- アンケートによって欠陥の所在を予備調査する。
- 壁体からテストピースを取り出してアルカリ反応のテストをする。
- 足場掛けは工事と重複するので、当面目視によってできる限りの調査を行う。
- バルコニー等は居住者の許可を得られる範囲で調査する。
2 結果の整理
図面上に記号図示法で欠陥箇所、種別等を記入し、写真を添付して実状を周知し易いようにする。
II 修繕工事の仕様書作成
1 工事見積要領書
- 工事概要を下記項目に分けて一覧表を作成します。
- 区分
- 部位名称
- 下地、寸法
- 塗装範囲
- 現状仕上
- 除去仕様
- 改修仕様
- 精算工事数量の一覧表
現況調査は地上からの目視によっているので、概算とならざるを得ないため、工事の実施結果に基いた数量と提示内訳数量明細書の差違を精算することで、見積合わせに偏差を生じないようにする。
2 共通仕様書
3 特記仕様書(ディテールシート付)
4 内訳数量明細書
工事費の算出はこの数量によって算出される。
III 完全剥離試験の実施
塗膜の全面完全剥離は工事実績が乏しく積算データも不明なため、工事に先立って実験施工を行いました。
1 使用機械
- 高圧水洗浄機
- 超音波剥離器、電動カップリングサンダー
2 実施データ
- 水圧 400kg/cm2
- 剥離剤塗布後約20分でアクリル弾性塗膜は硬化を始めた。 所要人工 0.0464(人/m2)
- 剥離剤不使用部分 所要人工 0.0592(人/m2)
- 平均 0.0526(人/m2)
- 残存塗膜ケレン 0.12(人/m2)
IV 工事の実施
1 施工業者の選定
4社に見積りを依頼して入念なヒアリングの結果、清水建設株式会社と契約を致しました。
2 工程
平成14年5月25日工事請負契約締結
平成14年6月14~16日工事説明会
平成14年7月1日着工
平成15年3月15日工事完成図書引渡し
3 既存塗膜全面完全剥離の工法
完全剥離の実施については実施例も少なく、工事の難易に加えて居住者に対する弊害の多寡、養生、工期等多岐にわたる充分な確証を得ておくため実施業者とも充分な検討を重ねた結果の特質を下記の一覧表にまとめました。
工法 | 剥離剤+超高圧水洗浄(400 kg/cm2) | 超音波剥離(スクレパー) +サンダー剥離 |
---|---|---|
人工 | 0.05人/m2 | 2+α 0.067人/m2 |
騒音 | 多 | 寡 |
飛散物他 | 飛散水、漏水の危惧、剥離剤の弱毒性、廃液処理の困難 | ほこり、塗膜剥離困難なもの(セメント・スタッコ) |
下地 | 剥離後の下地面良好 | 熟練を要す(欠陥部はセチオン系モルタルにて補修) |
上記の比較表に基づき、超音波による塗膜剥離と少量水使用による無粉塵研磨器の併用を採用することになりました。
4 所見
塗膜の全面完全剥離という命題に真剣に取り組んだ事は、良好な工事の進行に対して施主、設計監理者、施工者の三者が如何に関わり合うかという基本的なテーマに就いての貴重な体験をもたらしたと思います。
当初はやや戸惑いもあってか工事の進捗ももどかしかったが、修熟するにつれスピードアップされ予定工期内に竣工をみたこと、予算内で完了することができたことは大変喜ばしいことでした。
(文責・佐藤博/六ツ川台団地地元長期修繕委員会委員長・佐藤博設計事務所)
<アメニティ新聞228号 2003年5月掲載>