修繕工事においては、劣化の進行によっては思い切った工事が必要になる場合もあります。今回はPC版パネルの撤去を行った事例を、施工監理を行った設計事務所に報告していただきます。
このマンションは、民間デベロッパーの分譲によるコの字型大規模高層マンションである。現在22年を経過し、第1回目の改修を平成3年に設計施工方式で実施しているが、工事推進のあり方の反省から今回は設計事務所による設計監理方式が採用された。
数社の見積り提案とヒアリングを通して弊社(有限会社 鈴木哲夫設計事務所)が選定され、第2回目の総合改修を実施するため建物診断から工事監理までの一連の業務をお手伝いすることになった。
建物劣化の重点課題
前回の改修工事では、外壁塗装をはじめ躯体改修等総合的な補修等を行っていたが、根本的な改善処理を行っていなかったため、経年とともに躯体にひび割れが再発していた。
そのため、躯体関連の重点改修が目標になったものの、一方ではバルコニー側に取付けられた外観の特徴を決めるプレキャスト版デザインパネル部(PCパネル)の劣化があった。前回の改修工事で表面的な補修にとどまったこともあり、ジョイント部の腐蝕劣化が烈しく将来的には耐力上の問題や脱落の危険性も懸念され、現時点で撤去するかどうかが課題になった。
その他、経年劣化等に対して総合的な改修提案を行い工事に至ったが、本建物の場合は、第1回目の修繕が、当時ではやむをえない技術レベルであったとしても、修繕のグレードや見立ての程度によって、その後の劣化量に影響して格差が生じ、最初の工事が如何に重要な位置づけにあるのかを物語っている。
プレキャスト版デザインパネルの撤去
建物の外観を構成するバルコニー側のPCパネルは、各階のバルコニー鼻先で留め付けられ、アンカーされた鉄骨部の納まりの問題により腐蝕の進んだ部位が散見できた。
これを根本的に補修あるいは補強しなければ耐力的に課題を残すことになり、また直すにも多額な費用を計上することになるから、撤去して将来的な不安の解消を優先するよう提案した。
撤去は共用部分の重大変更に該当することから、定期総会に諮り共用部分の変更決議を提案し、区分所有者の合意形成を図っている。
実際に工事を始めて分かったことであるが、予想を上回る劣化状況であったため、皮肉にもそれが後押ししてか撤去作業は手間取ることなく順調であった。つまり見方によっては末恐ろしい状態が隠されていたことを暗示している。この点については管理組合関係者も、撤去するという改修方針に間違いはなかったことを改めて確認するに至った。
また、撤去方針の理由のひとつに、撤去時期がいずれはやってくることを鑑みると、撤去処分費が現在と比べ将来では、管理組合の実質的な費用負担増を強いられることが懸念されたからでもある。
設計・監理 有限会社 鈴木哲夫設計事務所
<アメニティ新聞245号 2003年2月掲載>