住民の高齢化が進んでいくとともに、修繕の資金調達は難しくなっていきます。今回は、長期的な展望を視野に入れ、修繕積立金で給水管の改修工事を行った事例を、設計・監理を担当した事務所側からご紹介します。
このマンションは、弊社が長期顧問コンサルタントとして関与する公団分譲による大規模団地である。
平成13年に長期修繕計画を策定し、長期的な展望を視野に入れた維持保全の基本方針が設定された。住み替え意向推計により高齢者の増加が20年後には約30%に達すると想定され、将来の資金調達がむずかしくなる傾向にあるため、団地の将来的な余命を検討すると維持保全に対しては早めの対応と長周期・高耐用を狙うことが将来を保証することになると考えられ、コンセプトとして「循環を可能にする優良ストックの形成」がキーワードとされた。
住棟等給水管の更新および更生
長期修繕計画の策定当初、共用給水立て主管および枝管については、2009年(築27年次)に更新とし、専有部分内の給水管を本年に実施することを位置づけていた。
抜管等の調査結果により、標準的な計画時期で十分という評価の下に設定されたのであるが、団地の余命を考えたとき、既に20年程経過しているのであるから、後40年をとりあえず余命とした場合、40年後には建替えを実施する可能性が高いという予測から、トータルメンテナンスコストの合理性が検討された。
つまり、元気なうちに施設整備を早めに行い、年をとったときには余り手を掛けなくても良いようにしたいということや、年を重ねた時期に整備しても恩恵にあずかれないし、建物の取り壊しが近くなって整備しても合理性に欠けると考えられたからである。
そのため、共用部分に関しては、できるだけ耐用が長く修繕サイクルが長い工法材料を選定することや40年間のトータルコストの比較検討を行った結果、ステンレス管で更新することになった。
また、専有部分内の給水管については、区分所有者に委ねたのでは、実質的には改善効果が薄いことから、審査証明工法によるエポキシライニング更生を管理組合の費用負担で行うことになった。
できれば更新が望まれるところではあるが、内装リフォームを伴うことから、更新は事実上区分所有者の意思に基づくものであり、足並みが揃わないことや、住戸当りの工事中の負担も大きくなるため、影響の少ない更生工法とした。
住棟飛び込み制水弁の更新その他
給水塔から団地内をほぼループ状に配水されており、住棟ごとに飛び込み制水弁が埋設されている。今回同部位から住棟への埋設管もステンレス管に更新している。実際に制水弁を撤去してみたところ、バルブ周りにかなりの錆こぶが成長していた。
また附属施設として、管理棟の給水管を全てステンレス管に更新し、給水塔棟内の制水弁フレキシブルジョイントの更新も行った。
専有部分の更生工事にあたって
20年を超えたマンションでは、専有部分のリフォームを行っている住戸が必ずある。特にユニットバスなど水回りのリフォームを行っており、配管を新築時と異なる材料で更新していることがある。
事前調査により分かったことであるが、ユニットバスの交換に伴って給水管をポリブデン管で施工しているところがあった。問題になったことは、ライニング材の付着性、配管がパネルの裏で固定されていないこと、管経が細いことなどである。つまり、管内の研磨工程で研磨時間や圧力の調整が必要であり、考慮せず施工すると管を過剰に研磨することになる。また、管が固定されていないことから、ライニング材の曲げが過剰に働いた場合に、ライニング材が剥がれることが懸念される。施工に当っては、住戸内配管の十分な準備調査が必須である。
(設計・監理 有限会社 鈴木哲夫設計事務所 鈴木哲夫)
<アメニティ新聞254号 2003年11月掲載>