Q
Aさんが住む居室の天井から水漏れがありました。管理組合で原因を調査したところ、上階のBさんの浴室の老朽化が原因とわかりました。そこでBさんは速やかに応急工事を行い、水漏れは止まりました。しかしAさんは、水漏れが始まってから収まるまでの間の管理費と修繕積立金の支払いを拒絶しており、Bさんが負担すべきだと主張しています。応急工事で水漏れが収まったあとに発生した管理費等は、Aさんは毎月支払っていますし、特にお金に困っていることはないようです。管理組合として、どう対応すればよいでしょうか?
A
管理費等の負担は、区分所有者の最低限の義務といわれています(東京地裁平成19年11月14日判決/判例タイムズ1288号286頁)。この費用がなければ、マンションや団地を維持管理していくことができないからです。区分所有法19条は、区分所有者が、共用部分の負担を負わなければならないことを定め、標準管理規約(単棟型)25条は、区分所有者が管理費等を管理組合に納入しなければならないと定めています。
このように、管理費等は極めて重要な管理組合の財源ですから、たとえある区分所有者が、管理組合に対して債権を持っていたとしても、これと管理費等の負担を相殺して、その支払いを拒むことはできないとされています(東京高裁平成9年10月15日判決/判例時報1643号150頁)。
本件では、そもそもAさんは、管理組合に対して債権を有していません。水漏れの原因は、Bさんの専有部分である浴室の老朽化ですので、水漏れにより受けた損害は、Bさんに賠償して貰うのが筋であり、管理組合は何ら責任を負いません。つまり、仮に管理組合に対して債権を有している場合ですら、管理費等との負担と相殺することは認められていないのですから、いわんや、管理組合に対して債権を有していないAさんは、水漏れを原因として、管理費等の支払いを拒むことはできません。
私は、ちょうど昨年の7月号の当欄で、管理費等の滞納問題は、そもそも、管理組合と組合員の内部的な問題で、本来的には敵対関係にはないはずであるから、督促をする際も、一定程度、組合員の実情を踏まえた上で対応していくのが望ましい、と個人的な見解を書きました。滞納者の経済状況の悪化が滞納の原因である場合は、滞納解決策を、管理組合と滞納者で協議していくことが重要であるとも書きました。
では、本件ではどうでしょうか。Aさんの主張は、全く法的な根拠のない、単なる言いがかりに過ぎません。しかも管理費等が支払えないほどの経済状況の悪化もうかがえません。であれば、管理組合としては、区分所有者の最低限の義務を果たしてもらうべく、毅然とした態度で臨むべきです。具体的には、Aさんとの協議にあまり時間をかけず、早々に管理費等請求の訴訟を提起すべきです。裁判で和解するとしても、分割払や遅延損害金の免除など、滞納者が支払いしやすくなるために管理組合側が度々行う譲歩は、本件では必要ないと思います。
回答者:NPO日住協法律相談会 専門相談員
弁護士・内藤 太郎
(集合住宅管理新聞「アメニティ」2021年7月号掲載)
集合住宅管理新聞「アメニティ」は、1982年創刊、39年間の歴史を持つマンション管理とメンテナンスの専門情報紙です。1都3県などの分譲マンションを中心に10万部発行。見本紙ご希望の方は、ホームページからお申し込み出来ます。
https://www.mansion.co.jp/mihonshi
Aさんが住む居室の天井から水漏れがありました。管理組合で原因を調査したところ、上階のBさんの浴室の老朽化が原因とわかりました。そこでBさんは速やかに応急工事を行い、水漏れは止まりました。しかしAさんは、水漏れが始まってから収まるまでの間の管理費と修繕積立金の支払いを拒絶しており、Bさんが負担すべきだと主張しています。応急工事で水漏れが収まったあとに発生した管理費等は、Aさんは毎月支払っていますし、特にお金に困っていることはないようです。管理組合として、どう対応すればよいでしょうか?
A
管理費等の負担は、区分所有者の最低限の義務といわれています(東京地裁平成19年11月14日判決/判例タイムズ1288号286頁)。この費用がなければ、マンションや団地を維持管理していくことができないからです。区分所有法19条は、区分所有者が、共用部分の負担を負わなければならないことを定め、標準管理規約(単棟型)25条は、区分所有者が管理費等を管理組合に納入しなければならないと定めています。
このように、管理費等は極めて重要な管理組合の財源ですから、たとえある区分所有者が、管理組合に対して債権を持っていたとしても、これと管理費等の負担を相殺して、その支払いを拒むことはできないとされています(東京高裁平成9年10月15日判決/判例時報1643号150頁)。
本件では、そもそもAさんは、管理組合に対して債権を有していません。水漏れの原因は、Bさんの専有部分である浴室の老朽化ですので、水漏れにより受けた損害は、Bさんに賠償して貰うのが筋であり、管理組合は何ら責任を負いません。つまり、仮に管理組合に対して債権を有している場合ですら、管理費等との負担と相殺することは認められていないのですから、いわんや、管理組合に対して債権を有していないAさんは、水漏れを原因として、管理費等の支払いを拒むことはできません。
私は、ちょうど昨年の7月号の当欄で、管理費等の滞納問題は、そもそも、管理組合と組合員の内部的な問題で、本来的には敵対関係にはないはずであるから、督促をする際も、一定程度、組合員の実情を踏まえた上で対応していくのが望ましい、と個人的な見解を書きました。滞納者の経済状況の悪化が滞納の原因である場合は、滞納解決策を、管理組合と滞納者で協議していくことが重要であるとも書きました。
では、本件ではどうでしょうか。Aさんの主張は、全く法的な根拠のない、単なる言いがかりに過ぎません。しかも管理費等が支払えないほどの経済状況の悪化もうかがえません。であれば、管理組合としては、区分所有者の最低限の義務を果たしてもらうべく、毅然とした態度で臨むべきです。具体的には、Aさんとの協議にあまり時間をかけず、早々に管理費等請求の訴訟を提起すべきです。裁判で和解するとしても、分割払や遅延損害金の免除など、滞納者が支払いしやすくなるために管理組合側が度々行う譲歩は、本件では必要ないと思います。
回答者:NPO日住協法律相談会 専門相談員
弁護士・内藤 太郎
(集合住宅管理新聞「アメニティ」2021年7月号掲載)
集合住宅管理新聞「アメニティ」は、1982年創刊、39年間の歴史を持つマンション管理とメンテナンスの専門情報紙です。1都3県などの分譲マンションを中心に10万部発行。見本紙ご希望の方は、ホームページからお申し込み出来ます。
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