やっと昨日、梨木香歩の「水辺にて」を読了した。
読み難くて時間を要したわけではない。
まったくその逆…愛おしくて一篇いっぺんを慈しむように
言葉の紡ぐ美しく豊饒なイメージの広がりを
立ち現われてくる世界のパースペクティブな臨場感を…
字面をなぞるように少しづつ読みすゝめた。
まず表紙の写真、朝靄の湖面に浮かぶカヤックの静かな佇まいに惹かれる。
そのまま湖面に映る鏡の世界に惹き . . . 本文を読む
やっと待望の三浦さんの第2写真集が届いた。
前作「石鎚の詩」では、その40年以上通い続けたという「石鎚キャリア」
の実力を遺憾なく見せつけられた圧倒的な作品群だった。
特に瓶ヶ森から望む厳冬期石鎚の風景は迫力があった。
(あの鷲の羽根のような氷雪樹のデフォルメ)
残念ながら、この第1写真集は完売して入手不可です。
(弥山の山頂小屋の本棚には、まだあったような?)
. . . 本文を読む
カートヴォネガットが、人生において知るべきことのほとんどが
ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」に書かれている言い、
村上春樹が、最も影響を受けた3冊の本として本作を挙げ、
オーム真理教信者も「カラマーゾフの兄弟」を読んでいたら
こんなことにならなかっただろうとインタヴューで発言したという。
世界文学史上最も高い評価が定着したドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」。
山に . . . 本文を読む
入院は10代の骨折以来、あれも中学最後の暑い夏だった。
但し今回は、入院前あれほど苦しめられた刺すような痛みと膨張感が
あっけらかんと消え失せ、静かにベットに横たわり一日4本の点滴が
体内に流れる長い時間をやり過ごす。
いっさい食事を摂れないので、図らずも絶食状態による腸内洗浄と
ノンアルコールで、長年疲弊した臓器を心持ち養生できたような気がする。
60kg前後だった体重も54kg . . . 本文を読む
どうして、この本を文庫化されるまで手に取らなかったのだろう?
星野道夫の死の直前に出版されたアフリカの旅は、
その突然の死が、まだ頭の中でうまく理解できていなかったのと
星野とアフリカという場所が同様に頭のピースにうまく収まらなかったように記憶している。
太古から現在に至る生命の繋がりを夢想して、その現場が辛うじて残る極北の大地
をフィールドとしてきた星野道夫の遺したものは、
失わ . . . 本文を読む
本屋で手に取った瞬間、「これは買い」と思った。
もちろん湧き上がる積乱雲のインパクト!
写真家、垂水健吾と作家、池澤夏樹の強力タッグは
これで何度目だろう?
互いにオキナワに惹かれ住み着いた二人。
(現在、池澤夏樹は10年暮らしたオキナワを離れパリ近郊に移住)
この二人のオキナワを題材とした仕事、「やさしいオキナワ」PARCO出版も
のびやかな気持ちになれるフォトエッセイだ(書棚 . . . 本文を読む
折口信夫…まれびと、民俗学者、釈迢空名義の優れた歌人。
けっこう、私の折口信夫(おりぐちしのぶ)に対する認識は貧困だ。
本屋でぱらぱら本をめくっていて、この本と出くわした。
「古代から来た未来人、折口信夫」中沢新一(ちくまプリマー新書)
中沢新一の著作は、「チベットのモーツァルト」から
その科学と精霊が交感するような刺激的な言説に惹かれて読み続けていた。
本書の序文から「 . . . 本文を読む
日本は環境先進国であるという幻想が、近頃怪しくなってきた。
「地球温暖化」と共に「生物多様性」は、現在世界が取り組まなければならない緊急事案
の大きな2本の柱になりつつある。
今まで当たり前のように消費してきた天然資源が、急速なスピードで枯渇してゆく。
60年代まで年間1種程度だった生物種の消滅が、現在は年間4万種が消滅するという。
それは、そのままの数字ではない。
地球上の生 . . . 本文を読む
紹介した、いがりまさし氏の写真集が品切れで入手困難なようなので、
氏の著作権に触れないように一点だけ作品を掲載して、
私の花撮影のお手本とする氏の作風を解説してみます。
第2写真集「風のけはい」文一総合出版に掲載された「かわらなでしこ」の写真です。
如何ですか?
草叢に咲くカワラナデシコの佇まいを見事に表現した一枚です。
茅(かや)の、しなやかな曲線を前景や背景にあ . . . 本文を読む
梨木香歩「沼地のある森を抜けて」(新潮文庫)の再読。
一度単行本で買った本を、文庫化されるとまた買ってしまうことがある。
よくあるのが心に残った本を、お気に入りの作家が末尾で解説文を書いている場合。
例えば沢木耕太郎の「凍」を池澤夏樹が解説とか、
いしいしんじの「ポーの話」を堀江敏幸が解説とか…
普通の感覚なら解説文だけ読めば済む事なのに、なぜか買ってしまう?
ファン心理というか… . . . 本文を読む
父の死に伴なう弔いの儀式の渦中で、
すべての日常的な営為が中断された。
やっと読みかけの本を手に取るようになったのは、いつ頃からだったろう?
私は一冊の本を、読み上げるまで他の本は、いっさい手に取らないという
集中的な本読みではない。
結構、同時進行的に何冊かの本を読み散らす落ち着きのない読み方をしてしまう。
そのため途中で興味を失って、栞を挟んだまま埃を被り忘れ去られる運命の積読 . . . 本文を読む
昨日の夜、やっと村上春樹の「1Q84」book3を読了した。
発売日の4/16の夜からだから意外に600ページを越える厚みに時間を要した。
本を閉じて、しばらく放心した。
これで終わりなのか?…思い掛けないエンディングに頭が混乱している。
作品の評価は、読者それぞれの心の有様…
読み終わった本の他人の評価には、あまり感心を抱かなかったのだが、
深い諦念や喪失感が、ある種の快さとな . . . 本文を読む
日曜日の朝は天気予報に反して春の陽射しが溢れた。
父母を起こして「お花見に行くよ」と宣言。
父は賛成するが母は浮かぬ顔。
朝食後、案の定「眩暈がする」と眉をしかめる。
日一日と春めく陽気に、少しづつ快方に向かっている
と思っていたが、まだまだ気持ちが外へとは向かないようだ。
薬を呑ませ正午過ぎまで寝かせることにした。
正午前から、やっぱり予報通り雨が降ってきた。
車椅子2台で出 . . . 本文を読む
今日も雨が一日降っています。
私は、けっこう雨の日が好きだ。
春の雨は、新しい命を育む雨、芽生え萌ゆる草木を慈しむ雨。
父の退院後、少しづつ生活のリズムが戻ってきた。
母も心なしか表情に明るさが見え始め、簡単な意志の疎通も可能になった。
今日は少し本の話をしましょう。
しとしと軒を打つ雨音に耳を傾けながら本のページをめくる時間は
抱えて来た一週間分の屈託(心の澱)をきれいに . . . 本文を読む