魔術師、辻原登の熊野を舞台にした壮大な物語「許されざる者」上下の文庫新刊。 贔屓の作家の作品が文庫化されたときの愉しみは、その後書き解説を誰が書くか? 近頃では湯本香樹実の「岸辺の旅」(文春文庫)の解説を平松洋子が書いていた。 . . . 本文を読む
こういう本の登場を待っていたのだと思う。 ただし、この本が書かれたのは1993年。およそ20年前。 20世紀が、やがて終わろうとしている時期、「世界の終わり」終末をキーワードにして綴られる論考。 それは巷に溢れた扇情的な世紀末論とは一線を画する。 人という種を、そして人という種が創り上げた文化を多岐にわたって論証してゆく。 私たちの立っているこの足元を、容赦なく白日の下に晒してゆく。 それは正直、とても辛い体験だった。 でも途中でページをおくことような真似はできなかった。 「眼を背けるな」という声が背中を圧し続ける。 それは震災以来、ずっと私たち日本人を叱咤し続けて来た内なる声だったと思う。 . . . 本文を読む
この本も東北の旅からの帰途、東京駅での待ち時間に八重洲ブックセンターの店頭で目に留まった。 いつものようにパラパラ流し読む過程で引っ掛かるものがあった。 あまりジャンルに拘らず読み散らす私が、「あれは本ではない」と手にしないビジネス本の類だった。 . . . 本文を読む
東北の旅に持っていった二冊の本のうちの一冊。 まだ旅の最中、この本の語り口が、すんなり入ってこなかった。 むしろ帰宅して、うだるような陽射しの午後、扇風機のぬるい風に吹かれながら読み始めたら、 惹きこまれ、そのまま部屋が夕暮れの闇に落ちるまで読み耽った。 . . . 本文を読む
梨木香歩の文章を読む悦び(よろこび)を、どう表現したら好いのだろう?まだ目覚めたばかりの夏の朝、露をまとった植物たちが朝陽に輝き始める瑞々しいあの瞬間… そんな風景を喚起するシナプスがスパークするような言葉が立ち上げる悦び。 . . . 本文を読む
確かに、どんどん心が萎えてきている。 それに伴って視野も狭まってしまい息苦しさを覚える。 今日は少し気分を変えて、私が風景写真(自然写真)の師と仰ぐ高知在住の写真家、高橋宣之氏について書いてみましょう . . . 本文を読む
久しぶりの梨木香歩の新作児童書。 遠い昔に置き去りにしてしまった、かけがえのない感情や輝かしい瞬間を鮮やかに蘇らせてくれる、 いしいしんじや湯本香樹実と共に私にとって愛すべき作家のひとり。(児童文学という特殊なジャンルの枠を超えて) . . . 本文を読む
この一週間、NHKの3・11特集番組を観続けてきた。
突然あの日、津波によって家族を失った(未だ遺体が出ない)残された人々の癒しようもない日常を追った大槌町の映像。
福島第1原発による立ち入り禁止区域20km圏と境を接する南相馬市で今も暮らし続ける人々の「棄民」を強く意識する言動とその現状。
津波先進モデル地区ながらも、まったく無力だった南三陸町の「高台移転」にかける復興への不屈の努力と挫折の一年。
どれも強く心に響いた。そしてこの一年間は何だったのか?と無力感ばかりが募る。 . . . 本文を読む
それは旅の話で始まる。 D・H・ロレンスは旅の放蕩を繰り返した挙句、ニューメキシコの乾いた不毛の高原へ辿り着く。 そこは8千年前、風の足をもってアジア大陸から移住してきた寡黙な人々が、 土地に対する独自の倫理観をもって、ひそやかに暮らす場所だった。 . . . 本文を読む
昨夜からのインターネット閲覧や今朝の新聞を読むと国際社会の介入で、
やっと福島第一原発の危機的状況にも、明るい兆しが見えて来始めました。
それは発表されているような政府の要請というよりも、余りもの危機管理能力の無さに
国際社会が痺れを切らし、事態収拾のために介入してきたというのが
正解ではないでしょうか? . . . 本文を読む
母の死んだ翌朝、新聞にたくさんの死亡告知が並んだ。
そして、その7割以上が90歳を超える年齢だったのには驚かされた。
日本は有史以来、未曽有の超高齢化社会を迎えているという。
福祉先進国である北欧を始め世界各国から高齢化会のモデルケースとして
注目されているらしい。
さらに細胞を初期化させるというIPS細胞等の発見応用による
再生医療という現代の錬金術が、益々死なない身体を助長する . . . 本文を読む
めっきり冷え込んだ朝、遠くの山並みも白く雪化粧。
午前中に役所へ赴き、母の医療限度額適用の更新手続きを済ませる。
午後から病院へ寄るために母の居室へ。
少し外界への興味を示し始めた母のために
何か読み聞かせるのに好い本はないかと書棚を物色。
背表紙を眺めていて、1冊の本が目に留まった。
「冬樹々のいのち」柳澤桂子 歌、赤勘兵衛 絵 (草思社)
懐かしい…ずいぶん昔に私が母に送っ . . . 本文を読む