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「かもめ食堂」を観て以来、しばらくパラダイスカフェ制作の映画を観続けていた。
「めがね」「プール」「マザーウォーター」「東京オアシス」ついにはTVシリーズ「すいか」まで。
どれも淡々と現実感の乏しい街の日常を、そして優しい疑似家族のような人間関係を綴る。
印象に残ったのは京都、北山あたりの疏水沿いの街を描いた「マザーウォーター」だったか。
私自身の記憶をなぞるような街の風景と水にまつわる物語が心地よかった。
さすがにTVシリーズの「すいか」まで観てしまうと、それ以上観続ける意欲が失せた。
(後で検索しているとパラダイスカフェ制作でもう一本、「いつか読書する日」という映画があった。
この坂の街、長崎を舞台にした田中裕子と岸部一徳、主演の映画は別の機会に語りたい。とても印象に残る作品だった)
ところが、またここで「ホノカア・ボーイ」と出会った。
パラダイスカフェ制作の映画ではない。でも同じ大人の寓話のようなシチュエーション。
ハワイ島の小さな街、ホノカアを舞台にしている。
♪ハワイ~ハワイ~と行ってみたけれど、あなた恋しい~月の虹~♪
このウクレレの長閑な音にのって唄われるフォークロアなリフレーンが、いつまでも耳に残る。
風になびく打ち捨てられたサトウキビ畑や寂れた街のメインストリート。
日系移民の老人たちばかりが暮らす色褪せた街。
その街の旧い映画館で働くことになった日本人青年と街の人々とのゆるやかな時間をカメラは写し続ける。
ニューシネマ・パラダイス?いえ、この物語は、もっとフォークロアなおおらかさに包まれている。
倍賞千恵子演ずるビーさんは、おそらく土地の悪戯好きな精霊なのかもしれない。
もうずいぶん年を重ねて、くたびれてきたが精霊は、綺麗な目をした青年に恋してしまう。
孫のような背の高い青年に、ときめく彼女が、ひたすら可愛い。
(あのキッチンで買ったばかりのドレスの裾をひらめかせるシーン)
青年レオ(岡田将生)が、毎日食卓を賑わすビーさん手造りの料理をポラロイドカメラで写し撮る。
う~ん、パペットの晩餐会に始まった、人を幸せにする美味しい料理の数々。
でもレオはロコの若い娘マライアに恋してしまう。
レオの誕生日にビーさんが丹精込めて準備していたのに、レオは若い娘マライアを一緒に連れて来てしまう。
若さゆえの、この残酷さが痛い。
月の虹(ムーンボゥ)伝説が、この物語の寓意を象徴する。
レオの残酷な仕打ちに(電話でののしる声に)倒れ、失明するビーさん。
病院にかけつけたレオに病状を告げる医師が
「奇跡は本当に起こるから奇跡なんだよ」とつぶやく。
失明したビーさんに寄り添うように暮らしはじめたレオが「またムーンボゥを観に行こう」と誘う。
海のそばの小屋で満月の夜、二人は空を見上げる。
さて光を失ったビーさんに月の虹は観れたのでしょうか?
「愛に壁はないんだよ」
「年とったからといって、しちゃいけないことなんかないんだぜ」
この映画の箴言は、なかなか渋い(笑)
共演する松坂慶子(太ったというよりふくよかな感じ)や上方漫才の喜味こいしの枯れない老人(彼も好色な精霊っぽい)
劇中劇のTVのヒロイン役とラストシーン近くで映画館を訪れる観光客役で2度登場する深津絵里が笑いを誘う。
ラストシーン、谷に架かった大きな虹。0ver tne rainbow 虹の彼方へ。
そして岬の青空へと風にのって舞い上がるようなエンディング。
「この街では、死んだ人はみんな風になる」
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