かかる雲を怪しく透かす月。
こんな時間に光る街。
そんな夜に車を流す。
ひとりの夜。
車窓はやがて漆黒に沈む。
それは最高の刻。
やめられない彷徨。
静かな暗闇の楽園。
光り輝く郊外のスタンドに入る。
明日のために。
いつも明日のために。
そうやって生きてきた。
セルフ。
世界中にひとりだけのような錯覚。
遠い街の夜景だけが生きている。
やめられない彷徨。
見えない星をさがして。
今夜。
給油口からの車の眺めは、遠い過去の甘い残り香がした。
帰りたくないという衝動。
このままずっと。
今夜。
やめられない彷徨。
きっとこんな夜もあっていい。
痛む胸をおさえながら、ハンドルを切る。
オーディオから流れる“イエローキャブ”。
きっとこんな夜は訪れると知っていたような気がする。
かかる雲を怪しく透かす月。
そんな夜に車を流す。
ひとりの夜。
やめられない彷徨。