おせったい
当地には「おせったい」という風習があります。弘法大師(空海)の入寂した日を縁日とし、その偉業をたたえ、平和と繁栄を願うおまつりのことです。
早い話がその日赤い旗の上った家にいき、縁側に安置された弘法大師像にお参りをすると、お菓子などがふるまわれるのです。
今ではほとんどスナック菓子の小袋ですが、昔は「おせったい菓子」と呼ばれる吹き寄せ菓子やポン菓子でした。草むしりの時代はポン菓子の中に吹き寄せ菓子が気持ち程度でしたが、それでもお菓子がもらえるので、普段は行ったことのない地区まで歩いて行っていました。
ある時姉に連れられて近所の子供たちと一緒に、隣の地区まで行ったことがありました。たぶん姉と姉の友達が一番年かさだったのではないでしょうか。私より一つ上の女の子や男の子もいた気がします。このメンバーは遠足の時もお弁当を食べたりする仲良しメンバーでした。
ただその日はおむつが取れたばかりの小さな女の子がついてきました。いったい誰が連れてきたんだなどと言いながら、それでも知っている子なので仕方なく連れていきました。
ところが困ったことにその子が途中で「おしっこ」と言い出しました。まだ小さくて大人に抱えてもらわないと、自分では座ってできないようです。しかし誰も抱えてさせたことなんてありませんでした。
「いいかい、こうやるんだよ」
などと言いながらかがんでするおしっこの仕方を教えてはみるのですが、できそうにありません。どうしたものかと困っていると、姉の友達の女の子が、自分がやってみようと言い出しました。
姉の友達は中腰になってその子を抱えて「シーシー」と口笛を吹きました。大成功でした。なんだか姉の友達が、とても大人に見えました。
それが姉と一緒に行った最後の「おせったい」だったような気がします。どんなお菓子を貰ったとか全然覚えてないのですが、姉の友達が小さな子を抱えて、おしっこをさせたことしか覚えていません。
今年の「おせったい」は四月二十三日でした。