草むしりしながら

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草むしりの「幼年時代」その6

2018-11-25 13:03:42 | 草むしりの幼年時代
草むしりの「幼年時代」その6

母のドーナツ 
 
 小麦粉に砂糖とふくらし粉に塩少々を隠し味にする。今の時代だったら卵の一つくらいは入れるだろうが。量は全然適当で、ふるいでふるったりはしない。水を加えたら粉が少し残るくらいに混ぜ合わせ、手で棒状に伸ばす。それが倍くらいに膨らんでキツネ色になるまで、低温の油でゆっくり揚げる。揚げたてに砂糖をまぶして出来上がる。
 
 母のドーナツは噛みしめると口の中で小麦粉の味が広まって、油の染みた砂糖がおいしさを引き立てていた。それにしても昔の油はよく跳ねた。跳ねると言うよりも、走るという表現の方が合っていた。その油で母が初めてドーナツを作った時のことである。
 
 顔や手に手ぬぐいを巻き付けて、激しい勢いで跳びはねる油を鍋の蓋でよけていた。私と姉は少し離れたところでそれを眺めていた。なんだか母が月光仮面のような恰好で、ドーナツを揚げているのが面白かった。けれども母があんまり真剣なのと、油の跳ねる音が恐ろしくて、笑いたいのを必死でこらえていた。
 
 以来母のドーナツを食べる度に、いつもクスっと笑ってしまう。油の品質は当時に比べ格段と上質になり、あんな恰好で揚げたのは後にも先にもあれ一回きりの、懐かしい思い出である。

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