イノベーションの幻想

イノベーションは意識改革である。

　本来であればイノベーションに金も労力もかからない。大胆で画期的な発想のもとで、新しい考え方とビジョンを生み出してゆくのがイノベーションである。また、イノベーションは過去を否定するものではない。過去に積み上げられた膨大な知識と資産を元に作り上げてゆくものでもある。全くゼロから始めるのがイノベーションでもない。過去の実績がなければイノベーションは成立しない。過去の知識なり資産なりを生かしてより画期的で実現可能なやり方を案出するのがイノベーションだと思う。

それなのに、イノベーションに膨大なお金と労力をかける人がいる。

　ある時は最新のＩＴ機器であったり、高額なコンピュータシステムであったり、斬新な設計のオフィスであったり、これまでと全く違う組織や働き方を追求したり、自由闊達な風潮を醸成したりである。いかにも見た目にはこれまでと違う何かを期待できそうだが、よく考えてみると、大胆で画期的は発想をもたらすのは「人間」である。この「人間」が全身全霊をこめて試行錯誤を重ねて生み出すものそのものの中にイノベーションがある。いくら環境や道具や働き方を変えてみても、それが果たして新しい発想に結びつくかは別の話である。

反対に言うと、今までのままで、これまでの延長でもイノベーションは可能である。

　要は考え方を変えるのが主体である。考え方そのものは特異解的なこれまでに考えもしないようなアイデアを生むことも可能である。これを目指すのがイノベーションである。そして、イノベーションはコツコツと積み上げるものでもない。Ａ地点からＢ地点まで一挙に移動するくらいの変化をもたらす。時には根本から発想を変えるほどのものでもある。だからと言ってただの思い付きであってはならない。それを裏づけるのがこれまでの過去の実績である。よくても悪くてもこの過去の膨大な実績資料を方針を定めて分析し、方針案を示して、周囲を説得させて決心し、結果に責任を取る覚悟で実行に移さなければならない。

イノベーションの一番最初の発想は一個人である。

　この発想を大事に取り上げてくれるかが極めて大事である。新入社員でもベテラン社員でも古参の年輩者でも平社員でも係長でも部・課長さんでも社長さんでも会長さんでもいい。とにかく各個人の斬新な発想を取り上げて汲み上げてくれることが大事であり、これがない限りイノベーションは何も始まらない。そして、汲み上げたものは組織を挙げて分析・検討して実行案を捻出して実行可能な実施計画を見出していかなければならない。この段階で前向きで建設的な正当な議論がなされない限り実施計画に至ることはない。何回も言うが、ここまでは何も必要としない。大胆で画期的な発想に基づく考え方とビジョンを生み出し、これを実行に移す段階まではお金もかからない。頭の中で思考するだけである。

イノベーションは一度やればいいものでもない。

　躍起になって一挙に何もかもイノベーションしようと社員の尻を叩く経営者がいるが、イノベーションは常に継続的に行うものであり、これまでイノベーションのなかった会社は、イノベーションができなかったそのものが問題なのであり、そこの問題を解決しない限り未来永劫イノベーションは無理であろう。組織かも知れないし、人材かも知れないし、会社の風土かも知れないし、イノベーションの手順さえ見えていないのだろう。そして、イノベーションは次から次に独自のものを継続的に行うものでもある。そうでなければ会社は取り残されてしまう。

もっと足を地につけた自分なりのやり方を追求すべきなのだろう。

　どこかで成功したイノベーションを模倣して、二匹目のドジョウを狙ってもまず失敗することは目に見えている。労働環境を変えればイノベーションができると思うのも間違いのような気がする。要は組織の構成員の各人の頭の中の思考回路と技術とノウハウがあるかないか、適切な組織活動がなされているかが問題なのだろうと思う。in（中に）noba（新しくする）ation（行動・状態）がイノベーションである。是非、過去から未来へワープできるような革新的で特異解的な解決ができることを目指して意識改革をしていただきたいものである。