ドラクエ9☆天使ツアーズ

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青は藍より出でて2

2014年12月09日 | ツアーズ SS

目の前の子どもに、嫌いじゃないけど好きじゃないです、と告白された。

 

それはミカにとって、腹を割ってうちとけてくれたらしい、という認識でしかなかったが。

(別にまあ、大人げなく、俺は嫌いだな、とかいう感情が湧くでもなく)

「貴方はひい兄のことどう思っているんですか」

と、こちらにも「だからお前も腹を割りやがれ」と無遠慮に切り込んでこられては、それなりに身構える。

なんというか。

もう、その質問自体が子供だ。

そう問えば、相手から真実の答えが返ってくると思っているところとか。

返答次第じゃ、もっと嫌いになりそうだな、とあからさまに匂わせているところとか。

大人と対等に渡り合えていると信じて疑わないところとか。

(めんどくせえ)

と、宙を仰ぎ、苦い物を感じる。

かつての自分、子供であった自分が、セイランに重なるのはどうしてなのか。

考えれば考えるほど、あまり面白くない結果を導き出しそうで、それからは目をそらすことにする。

なにしろ、至近距離で凝視してくる子供から目をそらせそうもないので、まず片付ける問題はこちらだ。

セイランを見、その視界に映ったもの、ふと視線をそれにやる。

数式の書きこまれた紙。

使う前に一応、何が書いてあるのか、と確認したが、建築の図面のようだった。走り書きと、書き損じの様。

だからまあ本当にいらない紙なのだろうとふんで、セイランの勉強の書付につかったわけだが。

「それを、ヒロがお前にくれただろう」

と、セイランにも注意を促す。これ?とセイランが、広げた用紙を手にとる。

そういう手際の良さ。相手のことを思いやって、気を配ることができる細やかさ。

そういうところ、だ。

「ヒロには俺には到底、及ばない徳がある。それは無条件で尊敬している」

ミカがそう答えたものの、セイランには少し難しすぎたのか、何度か瞬きをして不可解そうにする。

ヒロから当たり前に受けている恩恵には気づきにくいのかもしれないな、と思いなおし、

裏を見ろ、と指示する。黙ってそれに従うセイランが、図面に気付く。

「それを理解して、物資を用立てて、実際に建築できるとか」

あいつは学校なんかに行くより、一人で何でもできるだろ、と言ってやれば。

その用紙をぎゅっと握りしめて、目を潤ませ、頬を紅潮させる。

「そーです!ひい兄はすごくすごくすごいんです!」

と、嬉しそうに笑う。

(単純すぎる…)

それまで、ミカに懐柔されまいと懸命に突っぱねていた子供が、たったこれだけでこのありさまだ。

その歓喜を見ているだけで、セイランの抱える問題は正にも負にも転がるのだと解った。

ならば。

「お前の兄は学校へ入る必要がないほどに、生きていく上で優秀だということだ」

そう言ってやれば、セイランは高揚したまま、力強くうなずいた。

まあこれでヒロの威厳も保たれるだろう、というミカなりの気遣いと、ヒロからの依頼を完成させるために。

「お前はそれに及ばないから、学校へ行くべきなんだ」

そのミカの言葉に、学校、とセイランがつぶやいた。

「確かにお前の学力は高い。だが、ヒロの手に負えない問題を100解けたとしても」

今のヒロを超えることはできない。

「たったそれだけで超えたと思っていることがおこがましい」

だからお前は子供なんだ、と仲間にはおなじみの辛辣なもの言いをとがめる者がここにはいない。

それでも、言われた内容はセイランにとって重みを持つのだろう。

じっと、ミカの言葉を頭の中で考え、自分なりに理解したようだ。

「だから、ひい兄も学校に行かせたがってるっていうこと?」

「そうだな」

「ひい兄を超える為に?」

「ああ」

「弟が兄を超えることが良いっていうことですか?」

そうだな、その感覚はまだセイランには難しいだろうな、と考え。

兄を超えてしまったこと、には異論を唱えて済んだこととして、自分が越えられない人、の話に移行する。

「俺のことを超えたいんじゃなかったのか」

「え?」

「ヒロの代わりに俺を倒すんだろ、お前は」

そう言ってやれば、俄然、就学することへの意欲をそそられたらしい。

身を乗り出して、くいついてくる。

「学校に行けば超えられるんですか」

貴方の事も?と言われ、ミカ自身が誘導したこととはいえ、それにはちょっと気分を害す。

「そう簡単に超えられるか」

との返答に今度はセイランが気分を害する。

これではまとまるものもまとまらない、と気づき。仕方がないので、大人である自分の方が譲るべきか。

「可能性はある」

セイランを説得する役目は自分には向かない、と、事前にヒロに言い置いていたというのに、

何故かここにきて、積極的に説得する流れになっているのはどういうことか。

そんなミカの困惑を知るはずもなく、セイランが俯く。

「じゃあ、行きます」

その不安そうな声で、つい今しがたまで、セイランに自分の幼き姿を重ねていた事を考える。

どうして、自分の幼少を思い出したのか。

そう考えれば、自分も学校へ入ったのは、このくらいの歳だった、と気づいた。

大人たちに囲まれ、正当な後継者としての教育を受け、世のしくみを叩きこまれてから入学したそこは

大人の介入がない子供たちだけの社会だった。

大人社会の構成を教えられた自分には、子供としてただ無邪気にそこに溶け込むことができなかったが、

セイランは違う。何もない、まっさらの素材としての強み。

この狭い世界から、家族という小さな囲みから抜け出し、純粋に子供社会へ解き放たれる。

セイランがそこに飛び込むことは、自分とはまた違う意味合いがあるのだろう。

それを知りたくもあり、その未来を生み出したくもある。

(ああ、これが)

ヒロの言っていた、「自分が選ばなかった将来への希望」ということか。

先に生まれた者が、後から追いかけてくる者に、「超えていけ」と願う真意。

後から来た者に倒されなければ、先を行くものは自分を超えることができない。

「不安か」

「え?」

理解した。人として、当然の渇望として、理解できたと思う。だからこそ。

「お前が望むなら、俺が後ろ盾になってやってもいい」

「後ろ盾?」

「エルシオンは世界の学部の権威だ。辺境から一人身で飛びこんで肩身が狭いこともあるだろう」

ミカの指摘する世界のありように、セイランは少し首をかしげた。

「田舎者だから、いじめられるってことですか」

なるほど、そういうことは想像できるらしい。

「あと、貧乏だから?お金ないから、お金持ちの貴方に頼れ、ってことですよね」

子供なりに出した幼稚さは否めないが、それなりに的を射て、どうしてなかなか、というところか。

そう感心してみせれば、本をいっぱい読みました、という。

本ばかりで実際の世界を知らない子供は、でも、とミカを見上げる。

「僕の後ろ盾になっても、貴方は得しないんじゃないですか?」

そういうのって、もっと武功とか手柄とか取れる人につくものじゃないですか?という疑問に、

ミカは知らず、苦笑する。

良くできたお子様だが、やはりお子様だ。口にすることすべてが。

「そうだな、だからお前は一刻も早く、就学しろ」

いいだろう、ここからは利権の話だ。

「俺がお前の後ろ盾に名乗りを上げるのは、お前がヒロの弟だからだ」

「ひい兄の」

「ヒロには一目置いている。俺が見込んだ男の弟なら、それなりに未来があるだろうと思う」

先行投資だ、と言いおいて。

「それが、ひとつ」

そうして、指を立てる。

「先にも言ったが、エルシオンは学部の権威だ。そこに、俺の家の名前を売り込む」

一国で名高い貴族の名を、学院の内部へと刻み込むことでそこに介入する機会を見出す。

外つ国と関係を持ち、つながりを強くするための伝手。

そうして国外に権力を置くことで、王室にも貢献するための地脈となる、それがひとつ。

「そうして外国の権威とつながりを持つことで、国内での侯爵家の基盤を強化する」

国内の貴族間の水面下での抗争は、一瞬でも気を抜けない日常だ。

均衡が崩れぬよう、どの家が力を増したとしてもそれらを圧し、抑え込まなくてはならない。

国内の安定、外からの目、それこそが繁栄の確約。

「それが、ひとつ」

三本立てられた指に呆気にとられ、何かを申し立てる気力もなさそうな様子に、ちらりと笑い。

「お前一人の入学で、一国を左右するほどの権力が後ろ盾になるんだ」

世界は。

そんな風に、複雑に絡み合い、うごめき、刻一刻と変動している生き物だ。

「そこに身一つで立ち向かう為に、お前には何がある?」

この3本の指に見合うだけものを、セイランは手にすることができる。

可能性という名の未来。

「僕に、あるもの?」

「ああ」

ミカにとって、この3本の柱は、本音をいえばどうでもいいことだ。

先行投資も、外国の権威の掌握も、国内での爵位の基盤も、複雑な世界なんてどうでもいい。

ただ、ヒロが助けてくれと言い、それに力を貸したいと思っただけだということを、

今のセイランに言って、心から理解を得られるとも思えないから言うつもりもない。

だから。

ミカを真実動かしたのは、ただ友人であるから、というそれだけのこと。

たったそれだけの単純な世界がある事を。

「お前の誇りはなんだ?」

その決意ひとつで、見てくればいい。

そうすれば、きっとセイランにも解ることがあるだろう。

ミカの示す三本の利権の柱を見据え、セイランは、用紙を握ったままの手を、さらにきつく握りこんだ。

「僕は、兄が誇りです!」

その答えに。

セイランは、あの場所で戦えることを確信するミカ。

「いいだろう、合格だ」

後ろ盾になってやるよ、と、一国の権力に言わしめた小さな子供の運命は。

今、動き始めた。

 

 

 

* * *

 

 

 

「ひい兄は、ミカさんの何が好きなの」

様子を見に来たヒロに、開口一番、「学校へ行く!」と宣言したセイランの、次なるは問いかけ。

何が好きなのと問われた本人を隣に座ったヒロが、ええ?とミカに視線をよこす。

何この流れ、という困惑に、知らねえよ、と目線を返すミカを見て、うん、とセイランに向き合う。

「けんかしてもすぐ仲直りするところかな」

 

な ん じ ゃ そ り ゃ ー !!

 

とは、ミカの脳内絶叫。

そんなとこかよ!!と二の句が継げない。

いや、別に何を期待していたわけでもないが。特に期待するような、自惚れがあるわけでもないが。

それにしたって、それかよ!という思いが拭い去れないまま、セイランを見やると。

「うわぁ、そーかー、へー、そーなんだー」

なんてはしゃいだ声を出しながら、何度もうなずいている。

え?いいのか、それで。そんなことで納得できる程度の話か。ていうか納得されたらこっちが納得できん!!

と、ミカが一人で葛藤していると、あ、とセイランがミカを見る。

「僕ミカさんのこと好きじゃないって言っても怒らなかった」

「おいおい、そんな事言うとか、…刺されるぞ」

すぐ仲直りするところ、といった口でそれを言うか。

思いっきり冷やかにヒロをにらみつければ、まあまあ、なんてあいまいになだめてくる。

何が、まあまあ、なのか。

そんな男二人の無言の応酬など子供に解るわけもなく、セイランはヒロにべったりだ。

何言ってんだ、セイがミカに懐いてるから兄ちゃんだって寂しかったんだぞ、と聞かされてからずっと。

「ひい兄は、この図面で家建てられるからスゴイって褒めてた」

「ああ、これな」

セイも学校行けばすぐできるようになるよ、と何でもないことのようにかわす。

人がせっかく持ち上げてやったというのに、この野郎。

「でもひい兄は学校行ってなくても出来るって」

「まあな、兄ちゃんは学校に行かない分野のことなら大体、そこそこやれる」

「なんで?」

「学校に行ってないからな」

「学校に行ってないから出来る?」

「うん、学校に行かないことはな、学校に行かなくてもできるもんだ」

「へええええ」

あほか。

あほの会話か。

と、脱力していると、だからな、とヒロの声が真剣味を帯びる。

「兄ちゃんそっちで手が一杯だから、セイの勉強見てやれねえんだよ」

その言葉に、セイランが出す答えを、ミカも人ごとでもなく見守る事になる。

この数日で、こんなにも関わりが深くなるとは思わなかった存在。

セイランはヒロの言葉を考え、少し黙りこんでから、いいよ、と言った。

「ひい兄は、手が一杯だから学校に行かないんでしょ」

「うん、そうだな」

「だから、僕が代わりに学校行って頑張るよ」

そうしたらひい兄の手助けになるでしょ、と胸を張って、答える。

「そーか、セイは兄ちゃんの手伝いをしてくれるかー」

「うん」

そう言った顔は誇らしげだ。

「いや、セイはセイの好きなことやってくれていいんだけどな」

そう言いかけるヒロに、別にいいんじゃないか、とミカが声をかける。

「お前のことが好きで、お前の役に立ちたいっていう、好きなことをやるわけだから」

「え?そうか?」

それが、近衛を反逆で飛び出した俺の見解だ、とミカが言えば、ヒロが得たり、というように黙る。

一人親元を離れ、遠い異国の地で勤勉に励むには、それを支える誇りがひとつあればいい。

「それが力になる」

だから安心して世界に出せばいい、そのミカの意見を、ヒロはしっかりと受け止める。

「うん、ミカがそういうならそうかな」

「今は何もないからそう言ってはいても、そのうち自分で自分の道を見つけるだろ」

セイランの今はヒロの存在だけで一杯だ。

自由を知らない子に自由にやれとも言えない、そう言っていたのはヒロ自身ではなかったか。

「まずは世界を知ってから、それからでも言ってやればいいんじゃないか」

セイランが自分の進むべき道を選択するときに、この村が、兄の存在が、足かせであると思うほど

自由を切望した時に。

初めて、自由と言う言葉が重要性を持つ。

「なるほど、ミカがいうと重みが違うな」

「お前なあ」

「いや、真剣、真剣。俺には自由しかなかったからさ」

と、ヒロがこれまでの道のりを振り返る。

村を離れることも商隊を出ることも、どこへいこうともそれを制限するものは何もなかった。

それに不安を覚える事もなく、当然のこととして世界をめぐり、正反対の道のりを歩んできたミカと出会った。

「ああ、そうか」

自由と束縛。反する世界に属するものとして、対立することなく同じ地点に立った。

そうしてきたからこそ、今がある。

「どうなるかなんてわかんねーもんだな」

「そうだな」

自分より年上の会話を頭上で聞いて、それにどう口をはさめばいいのか、と二人の顔を見比べている、小さな存在。

それを見て、ヒロが笑った。

「よし、じゃ、ちょっくら行って見てみるか、世界!」

そう言って、何かを言いかけたセイランを抱え立ち上がり、何、何、と驚くセイを家の外に出す。

「母ちゃんに言って来い、まずセイが母ちゃんを説得しないとだなー」

「今?」

「今、今。兄ちゃんがいる間にな」

今のうちなら兄ちゃんが援護してやれるだろ、と、水場の方を指さして、行けと身振りする。

「母ちゃん反対するかな」

「反対はしないだろうけど心配はするだろ。安心させてやらないとさ」

それが息子の勤めってもんだ、なんて説明するヒロの声に、セイランの声が重なる。

「ミカさんに後ろ盾になってやるって言われた」

だから大丈夫、と報告している。

「え、まじか!すげえ、そりゃ確かに最強だ、それも言ってこい」

やったな、と手を打ち合わせている兄弟の後に続いて、ミカも外に出る。

何もない村だ。

標高が高すぎて、木さえも生えない。

それでも、この場所に立ち、関わりあいになっていくことは素晴らしく貴重だと思えた。

行ってくる、とセイランが家の向こうへと駆けていくのを見送る背中に、声をかける。

「つまりこいつら全員、俺たちが選ばなかった未来の象徴ってことだろ」

母屋の周りに集う子供たち、その遊び声。

それらを見やりながら、ヒロが笑う。

「な?世話焼きたくなるだろ」

「まあ、お前のはどう考えても行きすぎだが」

「ミカの後ろ盾、ってのも結構な過干渉だと思うけどな」

「いや、あれは…」

と言いかけ、特に本人に言うべきことでもないか、と口を閉ざす。

「あれは?」

「あれは」

言い淀んだミカを珍しそうに眺めるヒロを見て、咳払いをひとつ。

「先行投資だ」

「おいー!だからなんでそう俺の貴重な人材を引き抜こう引き抜こうとするかな!」

「お前が、弟には好きにさせるって言ってただろ」

「だからって、今の内に根回しするとか汚ねえ…」

「汚いやり口が俺の十八番だ」

「うわっ、開き直ってるし」

いいよいいよ、俺は太陽のように温厚な仁徳でもって、ぬくもりを与える慈善事業に徹するよ、なんて言う背中に。

「…自分で言うな」

と、呆れた一声をかけておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

↓「なんじゃそりゃー!!」のアレを大人向けに言いかえれば、懐が深いってことですよ、のぽちっと♪

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コメントにお返事のコーナー

■Unknownサン

初めましてですね、コメントアリガトウです

書いてる方としてもミカとヒロのSSは安定の軽快さなのでついやりすぎてしまうほどです(笑)

そして王様ヒロ&大臣ミカの将来像、ままごとで終わらせてしまわないためにも

何が何でもここまでは書いておかなくては!という、数年越しに果たせた執念のSSだったので

そんな風に反応してもらえると、嬉しくてベランダから羽ばたきそうです!!

ミカとヒロはおじいちゃんになっても、縁側で将棋指しつつ、こんなしょうもない言いあいばっかりしてると思います

そんな二人を楽しんでいただいて、ありがとうございました



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