切られお富!

歌舞伎から時事ネタまで、世知辛い世の中に毒を撒き散らす!

『累犯障害者』 山本譲司 著

2006-10-18 02:03:22 | 超読書日記
これは今年読んだ本のなかでも出色の一冊で、とにかく、読んでいて"痛い"本。障害者の犯罪を取材する中で、日本の福祉の貧困が浮き彫りになる。先日、CS朝日の宮崎哲弥の番組で筆者がゲストで登場、あまりに衝撃的な内容だったので、翌日、本屋さんで手に取ったのだけど、まったく必読の書です。ところで、メディアの犯罪報道では、加害者が障害者だと分かると報道を自粛してしまうってご存知でしたか?

オウム事件や幼児殺害事件など、マスコミをにぎわす事件で話題になる加害者の責任能力問題(刑法39条心神耗弱)。しかし、こうした派手な事件を除けば、知的障害者といえども、実刑をくらい刑務所に送られているという実態は、テレビやネットの「厳罰」支持派にはあまり知られていない。

結局、マスコミの報道自粛が事態を見えにくくしてしまっているのだけど、この本で取り上げられえた下関駅の放火事件やレッサーパンダ事件の犯人が障害者だったということは、わたしもはじめて知った。

他にも、知的障害者の冤罪を生む刑事訴訟法の問題や、障害者を食い物にしているヤクザなど、知らなかった事実が次々と語られる。

ただ、「知らなかった」とは書いたものの、個人的なことを言えば、知的障害者とヤクザの関係や売春問題、ろうあ者の方々のコミュニティーの強固さなどは、わたし自身、「なるほど、そういうことなのか」と腑に落ちることが結構あり、何か、ぼんやりと考えていた点と線が繋がったという印象もあったりはする。

特に、ヤクザが身寄りのない障害者を抱えたりする理由が、障害者年金のネコババや鉄砲玉として使うためだというのは、あまりに惨いし悲しすぎる話だとわたしは思う。

個人的に印象に残ったのは、売春をする知的障害女性たちについてのくだりで、彼女たちの「異性」や「恋愛」に対する執着の強さが逆に喰いものにされている一方、福祉の現場では、福祉関係者は障害者の恋愛を極度に嫌っているという。

ヤクザに食いものにされ、現在更生中で福祉作業所に通っている女性の言葉、「でも、いまのあたしって本当の人間なの?」というは、なんとも痛いなあとわたしは思う。「自由恋愛」というのは、近代が産み落とした呪縛だし誰もがかかる病気だといえなくもないけれど、いったい「本当の人間」らしい暮らしって彼女のような人にあるのだろうか?

というわけで、騙されたと思って読んでください。オススメ!

累犯障害者

新潮社

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