切られお富!

歌舞伎から時事ネタまで、世知辛い世の中に毒を撒き散らす!

切られお富が選ぶ、06年歌舞伎ベスト・アクト&アクター!

2007-01-03 04:18:07 | かぶき讃(劇評)
本来は年末に発表予定だったんですが、結局、今頃です。去年は全然芝居の感想を書いていないのですが、その分の溜まったモノをここで吐き出しましょうか!独断と偏見全開で!!

<わたしの選んだ06年ベスト・アクト>

①藤娘(海老蔵)
②関八州繋馬(魁春)
③天守物語(玉三郎)
④二人椀久(菊之助・富十郎)
⑤伽羅先代萩(菊五郎)
⑥道明寺(仁左衛門)
⑦寺子屋(吉右衛門・幸四郎)
⑧伽羅先代萩(藤十郎)
⑨小栗判官(段治郎)
⑩魚屋宗五郎(梅之助)

次点
夏祭浪花鑑(藤十郎)
荒川の佐吉(仁左衛門)
元禄忠臣蔵(10月/吉右衛門・富十郎)
元禄忠臣蔵(11月/藤十郎・梅玉)
忠臣蔵・六段目(仁左衛門)
輝虎配膳(竹三郎)
曽我梅菊念力弦(菊五郎)
河内山(團十郎)


一年を通して考えると、低調な年だったという印象なんだけど、リストアップしてみたら、「あれもあった、これもあった」ということで案外選ぶのに困りましたね。でも、やっぱり決め手に欠ける一年ではあったかな・・・。

それでも、一位の「藤娘」は、わたしの観劇生活のなかでも記憶に残る一幕で、所作事に関するわたしの考えを変えるような凄みがありました!

そもそも、幕が開くまでの雰囲気が異常だったし、幕が開き女形姿の海老蔵が登場したときの異様な盛り上がりは、わたしの観劇生活のなかでも特異な体験でした。

はっきりいって、兼ねる役者の女形舞踊としては勘三郎や三津五郎、菊五郎、菊之助の方がうまいに決まっているし、海老蔵自体、必ずしも美しい女形姿でもなければ素晴らしい踊り手でもないにも拘らず、何かまがまがしいものを見たというのか、海老蔵がただ女の姿で指を廻しているだけで、舞台に釘付けになったし、技量というより、存在感の変な呪術、美の魔力に魅入られたという感じ。今もって、アレはなんだったのかわからないというのがわたしの感想なんですね。海老蔵、恐るべしだったな、これは!

二位「関八州~」は、魁春の傑作だし、歌右衛門の名前を継ぐべきは、本来この人なんじゃないかと考えさせられた舞台姿でした。

三位「天守物語」は、舞台でも映画でも演じている玉三郎にとって余裕の舞台。海老蔵も素晴らしかったし、舞台が終わって欲しくないような、幻想的な名舞台でした。ただ、この素晴らしさは、玉三郎が自家薬籠中のものとしている作品だからであって、未消化な他の鏡花作品の舞台の物足りなさとは対照的だったということは、指摘せざるを得ないでしょうね。

四位「二人椀久」は、この演目のイメージを一新するような、スピーディーでめくるめく舞台という印象。富十郎、菊之助コンビは今後も注目ですね。(神霊矢口渡」もよかったし。)

五位、菊五郎の「先代萩」は充実した大舞台。仁左衛門の八汐があれほど深化しているとは!先代勘三郎や二代目鴈治郎までも思い出しました。

以下では、梅之助の「魚屋宗五郎」が老練な名舞台で、一度見といてよかったなあと思いました。床にこぼれたお酒を舐める仕草なんかはこのひとだけの芸でしょう。

で、次はベスト・アクター!

<06ベスト・アクター>
①片岡仁左衛門
②中村梅玉
③尾上菊之助

一年分のチラシを眺めていると、なんだかんだで仁左衛門の充実振りが今年も光ったという感じ。美男役者から一段も二段も深化していると思いますね。「道明寺」、「伊勢音頭」、「荒川の佐吉」、「身替座禅」、「一條大蔵」(大阪松竹座)、「勘平腹切」、「先代萩」。なかでも、「道明寺」の菅丞相、「伊勢音頭」の福岡貢、勘平、荒川の佐吉、「先代萩」の八汐だな~。

二位の梅玉さんは、『元禄忠臣蔵』の浅野匠頭や「御浜御殿」の綱豊卿など、『元禄忠臣蔵』連続公演で一番得した人なのではと思える舞台でした。他にも「先代萩」の八汐、「毛谷村」の六助、先月の「出刃打ちお玉」の正蔵は異色な役で面白かった。「籠釣瓶」の栄之丞はもはや定番ですね!

三位は迷ったけど、地味ながら舞踊劇でよい成果を出した菊之助。「二人道成寺」「二人椀久」「保名」「神霊矢口渡」と充実していたし、「八重桐廓噺」もわたしの目には悪くなかった。個人的には、一昨年の「十二夜」や「児雷也」よりこういう路線の方が好きなんですけどね。

因みに、いつも誉めまくっている吉右衛門ですが、もちろん今年もよかった。でも、わたしのこのひとに対するハードルはとても高いので、今年はあえてランク外。でも、「先代萩」の荒獅子男之助は見たことのない凄さだった!

そして、最後にオマケ!!

<06ワースト・アクター>
①中村福助
②松本幸四郎
③市川段四郎

福助については、今までもいろいろ書いているので繰り返さないけれど、「伊勢音頭」の万野、「吉原狐」のおきちがあまりに気持ち悪かったし、期待した「道成寺」も花道の出がない、気の抜けたもので大いにがっかり。野田歌舞伎くらいから始まった男の地声を出す芝居はやめて欲しいし、福助の万野みたいな仲居は、江戸時代にも絶対いなかったに違いないと断言できる。(二世鴈治郎や歌右衛門が演じたような女だったら、今もいる!)ぼちぼち、義兄・勘三郎から離れた方がいいんじゃないかな?(大袈裟さをやめるためにも。)

初役に意欲的に取り組んでいる幸四郎だけど、成功作ってありましたか?迷える大人っていう感じがして気の毒でさえあるんだけど、どの芝居でも、幸四郎流の心理主義で演じるのなら、初役をやる意味がない。それでも、心理主義でいくのなら、黙阿弥物より近松物の方がいいんじゃないかという気もするんだけどなあ・・・。(「筆屋幸兵衛」や「暗闇の丑松」の花道の気迫を見てそう思った。)

三位は、あえてというか、愛するが故の苦言。段四郎は大好きな役者だし、今までも散々誉めているのだけど、五月の新橋演舞場「夏祭浪花鑑」は酷かった。わたしは初日に見たんだけど、あれほど台詞を覚えていない舞台ははじめて見た!段四郎が公演の前半で台詞が入っていないのは珍しくないのだけど、ほとんど台詞を覚えていない壮絶な舞台で、それでも、堂々としているのがある意味凄いとは思ったけど、吉右衛門の団七を楽しみしていたわたしにとっては、重要な脇役・釣船三婦役の段四郎が崩壊寸前なために、「夏祭」という芝居を純粋に楽しむことなどできなかった。真剣に「金返せ!」と思っちゃったなあ、あの時は!

今後はお願いしますよ、澤潟屋!!

というわけで、言いたい事を書きましたが、なんだか全然言い足りな~い感じ。今年は毎月感想書くぞ~。では、お粗末様でした!!一部贔屓筋の方々、平にご容赦を!

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4 コメント

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Unknown (Unknown)
2007-01-10 21:28:56
筆屋幸兵衛は本当にひどかった。
ほかには獅童の「油地獄」も見られたもんじゃなかった。
福助は「籠釣瓶」が好かった。勘三郎のコクーンの「四谷怪談」は、最低だった。
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コメントありがとうございます。  (切られお富 )
2007-01-14 17:18:46
いろいろご覧になっているんですね。

「筆屋」は花道脇で見たのですが、幸四郎、迫力はありましたよ、花道では。でも、歌舞伎としては・・・でしたね。

獅童の「油地獄」は見てないのですが、この芝居は文楽の方がわたしは断然好きですね。歌舞伎だと、若手役者が油にまみれているだけって感じで、あんまり面白いと思ったことがないなあ・・・。

それと、勘三郎のコクーンの「四谷怪談」は録画したっきりで観ていません。何しろ、役者が嫌いなもので(笑)。

またお越しください。では!!
返信する
Unknown (まつこ)
2007-02-24 12:03:21
はじめまして!
今さらの投稿ですが、ベストの①③④を観ました!
というよりも、昨年はそれくらいしか観ていないのにそれがお富さんのベストに入っていて嬉しいです。
今後も参考にさせてくださいませ。
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コメントありがとうございます。  (切られお富 )
2007-02-26 02:15:17
はじめまして。

「藤娘」、「二人椀久」、「天守物語」どれもよかったですよね。海老蔵や菊之助が絡むと溌剌としていいですよね。

こちらこそ、今後もヨロシクです!
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