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じつはある知り合いに「是非読んで感想を!」と頼まれて読んでみたのですが、これがとても面白かった。この本、保守系論壇誌(例えば『諸君』とか。)のオヤジの説教より百倍説得力がありますね。
この本の筆者は元・風俗嬢なんだそうで、彼女の「現役」時代であるバブル期と現在を比較したところで、現在の風俗事情を描いている。つまり、男性側からのものでもなければ、フェミニズム系の女性学者の見解でもない、限りなく現場に近いところから「売春」の問題を捉えているというところが、とても新鮮。で、わたしがこの本で気になったところは以下の3点。
①いまや、風俗産業は不況業種であって、女性にとって究極の商品である「身体」を売ってもけしてそれほど儲からない。
②「自分を商品にする」場所である以上、嫌というほど「自分のレベル」を思い知らされることになる。
③言いかえれば、成功するにはある種の「才能」が不可欠。
以上3点に加えて、人にバレるリスクというものもあるわけで、「それでも、あなたは売春しますか?」という話になるわけですが・・・。
つまり、「何もできないから身体を売る」という発想がリアルでなくなってきているということなんですよね。これは、フリーター問題や若年層の就職問題とどこかリンクしている現象なのかもしれない。
それと、この本の面白いところは、巧みに女性心理を説明している部分で、特に印象的だったのは、「売春すると夢がなくなる」という言葉。筆者によれば「借金があって売春しているコは別の見方をすれば幸運なのかも知れません。」とのこと。(詳しくは本文をどうぞ。)
要するに、わたしはこの本を日本の社会を語る一冊、もしくはある種の産業レポートとして読みました。『負け犬の遠吠え』や『希望格差社会』、『ニート』なんかと案外繋がるような本かもしれないし、おおげさに言えば、現代の「忘れられた日本人」について書かれた本ともいえるかもしれない。(全然、関係ないけど、宮本常一の『忘れられた日本人』の中に収められている「土佐源氏」はもっとも美しい不倫物語だと思う。)
念のために、なんでこの本を取り上げたのか言っておくと、歌舞伎だ落語だ古典芸能だといっても、うわべがなんとなく「ハイソ(?)」にみえるだけで、日本の人身売買文化や売春文化を前提にしたものだったという点をなおざりにしてはいけないと普段から思っているから。(若衆歌舞伎なんて一種の新宿二丁目文化みたいなものだったんだし。)突拍子のない言い方をすれば、古典芸能研究家が「慰安婦」問題を語るような視座があってもいいんじゃないかと思っているくらい。いつかまじめに取り上げようと思っている井田真木子の『湯河原温泉芸者一代記』によると、「人身売買によるある種の女系家族のような存在の淵源は鎌倉時代の白拍子にまでさかのぼる」そうだ。つまり、権力が変わっても続いてきたはずのネットワークや文化として捉える必要があるんじゃないかということ。(でないと、芝居や落語でおなじみの実在したといわれる花魁、夕霧や高尾に関する想像力が細ってしまう。)
<花魁ネタのマンガ二冊>
・『難波鉦異本(なにわどらいほん)』①、② もりもと崇 著
・『さくらん』 安野モヨコ 著
万人にはお薦めしませんが、表紙の装丁も綺麗だと思いません?
なお、このブログを始めた当初、どうも勘違いされたらしいコメントが届いたりして、驚きました。こういう本を紹介すると、またあらぬ誤解を受けそうなんですが・・・。
この本の筆者は元・風俗嬢なんだそうで、彼女の「現役」時代であるバブル期と現在を比較したところで、現在の風俗事情を描いている。つまり、男性側からのものでもなければ、フェミニズム系の女性学者の見解でもない、限りなく現場に近いところから「売春」の問題を捉えているというところが、とても新鮮。で、わたしがこの本で気になったところは以下の3点。
①いまや、風俗産業は不況業種であって、女性にとって究極の商品である「身体」を売ってもけしてそれほど儲からない。
②「自分を商品にする」場所である以上、嫌というほど「自分のレベル」を思い知らされることになる。
③言いかえれば、成功するにはある種の「才能」が不可欠。
以上3点に加えて、人にバレるリスクというものもあるわけで、「それでも、あなたは売春しますか?」という話になるわけですが・・・。
つまり、「何もできないから身体を売る」という発想がリアルでなくなってきているということなんですよね。これは、フリーター問題や若年層の就職問題とどこかリンクしている現象なのかもしれない。
それと、この本の面白いところは、巧みに女性心理を説明している部分で、特に印象的だったのは、「売春すると夢がなくなる」という言葉。筆者によれば「借金があって売春しているコは別の見方をすれば幸運なのかも知れません。」とのこと。(詳しくは本文をどうぞ。)
要するに、わたしはこの本を日本の社会を語る一冊、もしくはある種の産業レポートとして読みました。『負け犬の遠吠え』や『希望格差社会』、『ニート』なんかと案外繋がるような本かもしれないし、おおげさに言えば、現代の「忘れられた日本人」について書かれた本ともいえるかもしれない。(全然、関係ないけど、宮本常一の『忘れられた日本人』の中に収められている「土佐源氏」はもっとも美しい不倫物語だと思う。)
念のために、なんでこの本を取り上げたのか言っておくと、歌舞伎だ落語だ古典芸能だといっても、うわべがなんとなく「ハイソ(?)」にみえるだけで、日本の人身売買文化や売春文化を前提にしたものだったという点をなおざりにしてはいけないと普段から思っているから。(若衆歌舞伎なんて一種の新宿二丁目文化みたいなものだったんだし。)突拍子のない言い方をすれば、古典芸能研究家が「慰安婦」問題を語るような視座があってもいいんじゃないかと思っているくらい。いつかまじめに取り上げようと思っている井田真木子の『湯河原温泉芸者一代記』によると、「人身売買によるある種の女系家族のような存在の淵源は鎌倉時代の白拍子にまでさかのぼる」そうだ。つまり、権力が変わっても続いてきたはずのネットワークや文化として捉える必要があるんじゃないかということ。(でないと、芝居や落語でおなじみの実在したといわれる花魁、夕霧や高尾に関する想像力が細ってしまう。)
<花魁ネタのマンガ二冊>
・『難波鉦異本(なにわどらいほん)』①、② もりもと崇 著
・『さくらん』 安野モヨコ 著
万人にはお薦めしませんが、表紙の装丁も綺麗だと思いません?
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gooの不具合のせいでご迷惑かけたようでゴメンナサイ。私もストレスが溜まるので、夜はコメント書くのを控えてるんですよね。重複分は削除しておきましたので、ご安心を。
「椿姫」に限らず、フランスの近代小説は、当時の結婚制度や高級娼婦というものの理解が不可欠ですよね。私も後になって、鹿島茂さんの『悪女入門』(講談社新書)を読むまで、まったく誤読してたなあと思います。
それと、「売春論」に関して言うと、「話下手だから水商売でなく風俗」ということが、風俗嬢にも客の側にもあるというようなくだりがあって、ニートのコミュニケーション意思の不在とどこかで繋がってるのかななんて気もしているのですが・・・。