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切られお富!

歌舞伎から時事ネタまで、世知辛い世の中に毒を撒き散らす!

『悪童日記』 アゴタ・クリストフ 著

2008-05-12 00:54:23 | 超読書日記
あまりに有名な80年代を代表する世界文学だけど、読み逃していたんで、読んでみました。フランス語を母国語としない作者がフランス語で書いているということもあって、簡潔な文章でかつ、一章あたりが短かくて読みやすい。電車の中ですぐ読み終えたんだけど、通勤電車で読むには刺激的だったなあ~。というわけで、簡単に感想。

時間、場所、名前が一切伏されたこの物語は、第二次世界大戦中の東欧を連想させる<小さな町>を舞台に、戦火を逃れて老婆に預けられた双子の兄弟の、まさに“悪童”なサバイバル生活が描かれている。

まず、淡々とした筆致で過酷な状況を描いたこの小説の特徴は、一切の感傷が省かれていること。

最近のファンタジー・ノベルの子供像とは百八十度違う、この小説の兄弟の不気味さは、何が起きても感情が動かされない人間の不気味さなんですよね。

ところで、乾いたシンプルな文章で語られる「生活の知恵」というと、ヘミングウェイの『老人と海』なんかを連想する人がいるかもしれないけど、わたしにいわせれば、『老人と海』の説教臭いジジイの知恵の対極にあるのが、この小説の「子供の知恵」なんだってところですかね。

とにかく、残酷、冷酷、計算づくなこの子供たちの<子供っぽくなさ>は、本当に小気味いい。

わたしが特に面白かった箇所は、文房具屋さんでの子供っぽくないやり取り、「解放軍」がやってきたときに第一次世界大戦を経験した老婆がみせる冷めた姿勢、そして、終盤に登場する母親や父親に対する兄弟の態度ってあたりかな~。

それと、大国の侵入に曝される国とそこで暮らす人々の「国家」に対する冷めた態度というのは、最近話題のチベットのことなんかも連想してしまうシチュエーションなんだけど、気をつけなければいけないのは、チベット支持の日本のネット右翼みたいな連中は、国内問題については案外簡単に国家主義になびくような連中だってこと。

この小説後半の展開を読んだら、簡単に「国益」なんてフレーズを、たかが一介の市民が使うことについて、<国家の罠>を感じるんじゃないかな~。

というわけで、最後は面倒な話になっちゃったけど、現代必読の名著。はっきり言って、村上龍の戦争物に全然勝ってます。

オススメ!

悪童日記 (ハヤカワepi文庫)
アゴタ クリストフ
早川書房

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文盲 アゴタ・クリストフ自伝
アゴタ・クリストフ
白水社

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