切られお富!

歌舞伎から時事ネタまで、世知辛い世の中に毒を撒き散らす!

『怪談』 中田秀夫 監督

2008-05-01 23:59:59 | アメリカの夜(映画日記)
去年公開した尾上菊之助主演のJホラー映画。やっと見ました。とりあえず、感想。

原作はご存知(かどうかは知らないけれど)、三遊亭円朝の「真景累ヶ淵」(しんけいかさねがふち)で、落語や芝居では通常「豊志賀の死」という部分くらいしかやらないんだけど、もとの落語はとっても長~い噺。なにしろ、完演した三遊亭円生のCDで8枚ですから、8時間以上という代物なんですよね!(今、全部聴いてるところ!!)

さて、映画のほうですが、女性の脚本家が書いているだけあって、「おんな目線の累ヶ淵」って感じではあります。

話は、男嫌いだった39歳の富本の師匠・豊志賀(黒木瞳)が21歳の新吉という男(尾上菊之助)との愛に溺れるんだけど、顔の右側が醜く腫れる病気になり、新吉を取り巻く女に嫉妬して・・・、といった感じですかね。

(この設定って、よく考えてみると『人のセックスを笑うな』を先取りしてるんだけど、女性が弱者なんだよなあ~。このあたりが、作者・三遊亭円朝の時代の限界ってことか?)

わたしが感心したのは、監督の演出が黒木瞳をかなり追い込んでいるってこと。

個人的なことをいえば、黒木瞳って苦手な女優で、<すました若作り女優>っていう印象しかなかったんだけど、この映画では、徹底して、<少し年増の女性の盲目で生っぽい恋愛>を演じさせている。

つまり、キレイキレイに黒木瞳を撮ってないところに、わたしは感心しました。

他の女優陣もそれぞれまずまずなんですが、特に瀬戸朝香の演じた悪女役は着物の柄も含めてよかったですね。(ただ、もっとうまい女優が演じていたらもっと凄かったんだろうけど・・・。)

そして、いよいよ、われらの尾上菊之助丈について。

なかなか好演してますね。いやみのない若旦那的な雰囲気(もともとそういうひとですが!)を醸し出しているし、ちょっと長めに映ってしまう顔立ちも、カメラがうまく撮っていて、美しく見える。(まあ、ちょっと、白塗り過ぎるけど。)

とにかく、モテモテの役ですがいやみを感じさせないところが、さすが生まれながらの御曹司という感じで、尾上菊之助を知らない人にはよい入門篇になるかもしれないですね。ただし、歌舞伎座の舞台での彼の方が、もっと魅力的だと思いますけれど・・・。

作品としては、Jホラーのパターンみたいになっている、脅かし調の音楽や効果音の使い方と白塗りの手で脅かすパターンはあんまりわたしの趣味ではないんだけど、久々にちゃんとした端正な時代劇映画を見たという感じ。(最近酷いのが多いですからね~。たとえ、京都で撮影していても・・・。因みにこの映画は東京の某スタジオで撮影したようですが・・・。)

個人的には、中田秀夫監督作品では『女優霊』以来の作品という感想です。いわゆる「目線の演出」という言葉があるけれど、この人の演出って、「目つきの演出」という印象で、ワンカットの中の女優の目つきの芝居が結構効いていましたね~。

さて、どうも興行的にはいまいちだった映画みたいだけど、歌舞伎ファンや時代劇好きにはいいんじゃないでしょうか?(歌舞伎座にもしつこくポスターはってありましたよね!)

というわけで、一応、オススメ。

PS:なお、落語の方に興味を持った方は、古今亭志ん朝の『豊志賀の死』あたりから入ることをオススメします。そのあとで、三遊亭円生の完演版というのはいかがでしょう?

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