「ところでの、おまえは
なぜ、銀狼が、邪な神だというか、
わかっておるのか?」
「先にいわれたように、憑りついて・・・」
法祥の言葉を半分も聞かぬうちに
白銅は違うと首を振った。
「憑りつくと守護するの違いは判るか?」
「憑りつくは、憑りつく側の身勝手で
相手を利用している。
守護は、相手の為だけを考えて守っている」
「ふむ・・・おおかたは合っているがの
大きな違いは、相手の . . . 本文を読む
もう小半刻たつだろうか。
法祥も白銅も言葉を交わす事なく
魯をこぐ音と水音だけが、
舟のうしろへ流れていた。
悟るとは、さあと取れる事を言う。
法祥は考えても考えても
さあ、と、取れるものを掴めずにいる。
考えるだけ、無駄と言っても良い。
「法祥、おまえは、なにを考えるか判っておらぬ。
わしが、いうたのは、 自分で ということを
考えろというたのじゃ」
転がりだした岩を止めて . . . 本文を読む
白石からもやいを解くと、
いよいよ、白銅が舟をこぎ進めていく。
座り込んだまま、白銅の魯さばきを見つめる法祥になる。
「手慣れたものですね」
「いや、わしは、これで二度めじゃ」
勘が良いのか、一度めでよほど漕いだか
二度めとは思えぬ魯さばきと思う。
自分と比べるからそうであって
漁師と比べれば 違うのかもしれない。
「必死だったからの」
必死で漕がねばならなかったという故は
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白銅と法祥である。
長浜の浜で舟を一艘借り受けた。
長浜の青龍を護る陰陽師、白銅であれば
と、舟こそ貸してくれたが、
いつ帰れるか判らないと告げたため
漕ぎ手を断られた。
漁師に任せたほうが、よほど早いのだが、
無理をいえぬと
二人で交代しながら、魯を漕ぐことにした。
のは、良いのだが・・・
白銅は、竹生島に草なぎの剣を探し求めたときに
ほぼ、一人で漕いだ。
不知火は、
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「建御雷神という、雷神から
やはり、いづなを考えてしまうのだが・・・
考えてみると、奇妙だと思える」
なにが、奇妙だというのだろう。
善嬉がしゃべりだすのをじっと待つ澄明に成る。
「奇妙だと思うのは、
いづなが 銀狼に転生していながら、
なぜ、元々の一族に、憑かなかったか、と、いうことだ」
「それは、雷神の呪詛が・・あったせい・・あ?」
澄明がなにおかに気付く。
「だろう?雷神 . . . 本文を読む
「竈の神は、八代神の娘婿だという。
ある時、竈の神は、八代神の怒りにふれて、
地上に落とされた。
なにをしでかしたのか判らぬが、
それから、竈の神となり、
人間の行状を八代神に伝えるように成った。
と、いうことだ」
それが、なぜ、銀狼との因になるというのか?
「銀狼が、なぜ、ある一族のみに、憑いているのか、
それは、手繰れぬ。
だが、銀狼からすれば伴侶といっても良い相手を
結 . . . 本文を読む
「この前の銀狼、いえ、いづなの件は解決したのですが
どうやら、新しい銀狼が、でてきたらしいのです」
首領格がいなくなれば、
次の者が台頭してくるのは、自明のことよ、と、善嬉が頷く。
「その銀狼の出現に気づけずにいたところに
法祥と竈の神が、銀狼が出てきたと伝えに来たのです」
法祥は、心中の片割れだった伊予と木乃伊の関藤兵馬に八十姫と重臣孝輔をさらえて、成仏させている。
あの水枯れの騒 . . . 本文を読む
白銅と法祥は、京にむかう。
おそらく、舟で大津ちかくまでいくだろう。
旅支度も手慣れたもので、ささと、整えると
銭をくれと、白銅が手を差し出す。
戸袋にあるといいおくと
澄明もまた、家を出た。
行き先はすでに決まっている。
九十九善嬉 白虎を祀る善嬉を尋ねる。
銀狼を手繰る事は出来ないと考えてはいたが
法祥に答えているうちに
見えてきたことがある。
それを、まず、善嬉に尋ね合 . . . 本文を読む
はやも、たちあがり、
それぞれのめどうに向かおうとする
二人に法祥は、遅れを取った。
当然、口入屋の男の顔も判らぬ白銅を
あないせねばならぬと、判っている。
「あ、私は・・」
おずおずと言葉を継なぐ法祥に
二人が動きを止めた。
「あ、私には、なぜ、銀狼は、塞ぎをしなかったのかと・・
竈の神は、法力もあり、銀狼は塞ぐことが出来なかったのだろうと
思うのですが・・・
お話を伺って . . . 本文を読む
竈の神が、法祥を伝手にするのが、
法祥自ら、判らない。
それは、法祥の心の在りようが変わったせいかもしれない。
「あなたに、因があるからです」
「私に?」
しばらく、瞑目すると、考え付いたのだろう。
「伊予・・・ですか?」
「そうです」
憑りついていたという言い方は申し訳ないが
伊予は、法祥に憑りついていた。
「憑りついていたものとの、えにしを切る。
この通り越しが、因になっ . . . 本文を読む
ーすでに、銀狼が、出現しており
それは、雌ということになるのだろうか?ー
黙りこくる白銅とひのえの胸中をはかるすべもなく、
法祥も、また、黙る。
このまま、立ち去った方が良いのか
どうにかならぬかと、陰陽師頼りのふがいなさに
いたたまれぬ思いがわいてくる。
「あ、私は・・つい、あの男をどうにかしてやれぬかと・・」
白銅・ひのえの都合も聞かず、勝手にしゃべり
かつ、
おまえら、ど . . . 本文を読む
誰の、てはずか、
ひのえが、表の気配に、でてみれば
そこに居たのは法祥だった。
白銅の手招きに応じて
ずいっと、中に入ってくる。
どうやら、
伝え事が有ると、見えた。
「息災か」
白銅に問われ、頭を下げると、
いきなり、話し始めた。
都で、その日暮らしのもの達をあつめ
働き手を求める者に、口を利く。
いわゆる口入屋と、いって良いのだが
口入れの利鞘を多くとらない代わりに
. . . 本文を読む
澄明は澄明で、考えている。
既に、銀狼が現れ、元の一族の誰かを差配し始めている。
影は、そういう事だと言っている。
だが、もっと、恐ろしい事が後ろにある。
影が、竈の神であるなら
澄明の行いを、閻魔に伝えにいく。
澄明により、銀狼が誰かを差配したという「悪行」
この澄明の悪行を、伝えにいくということは、
銀狼が、誰かを差配すること を 変えられない
だから、「悪行」として、閻魔帳 . . . 本文を読む
鍋をかかえ、板敷きの食間にあがれば
白銅も心得たもので、卓に鍋敷きはおいてある。
椀と匙をとりに、くどに戻り
切った菜づけをともに、卓に置く。
やっと、と、椀に雑炊をつぐと
「箸もいりますね」と、気付く。
「そぞろじゃの」と、白銅が笑う。
「菜漬けは、匙で掬うから・・」
気がかりを話してしまえと、言う。
白銅の言葉に甘え、澄明・・いや、ひのえは、
白銅の向かいに、座ると
「食 . . . 本文を読む
白銅と二人、黒犬からおりたてば
そこは二人の住まいの外
裏庭におろされた。
「念のいったことだ」
白銅がつぶやく。
「念がいっている?」
「そうだろう。裏口におろしよるのだから」
なにが念入りなのか、やはり、わからない。
「わしは、はらがへった」
「ああ・・」
裏口をあければ、そこはすぐ、くどである。
確かに念入りだとおもうが、やはり、気にかかる。
「うまく . . . 本文を読む