「アマテラスさまはおおなもちの願いをかなえてくださるのですよ」
おおなもちの願い?
おおなもちがなにをねごうたのか、ことしろぬしの口からきかされるだろう。
はたして
「おおなもちは、天まで届く社をねがったのです。
それは莫大な人力と時間がかかることでしょう。
それでも、アマテラスさまはおおなもちの願いをかなえてくださる」
ーなるほどー
にぎはやひの胸にぬながわひめの推量とおなじ考えがわいていた。
ーー天まで届く社を交換条件にだしたのはおおなもちにまちがいない。
それほど、むごく、スサノオを惨殺したのだから、
その怨念をしずめるに、天まで届くものにしなければおそろしいことになりますよとおおなもちは言下ににおわせたにちがいない。
そして、後世、
逆にその社の存在こそが、いかにスサノオをむごく死においやったかを語る。ーーーー
おおなもちの真意をはかりとると、にぎはやひは、
アマテラスの刀から身をひき、その場にひざまずいてみせた。
「私の暴言をどうぞゆるされよ」
ぬかづく恭順の徒を討ちてしまうのはたやすかったが、
にぎはやひという男、そのうしろだてがうるさい。
敵にまわせば、物部一族が反旗をひるがえす。
物部一族は卜(占い)にたけており、巫のごとき技術をみにつけているもがおおかったうえに、
灌漑や治水にたけた技術集団でもある。
今に残る占部という名前などは占いに従事したもののなごりであり
はしご高(変換できないのでこう書く)は、文字通り川に橋(はしご)をかけたりなど、建築や土木に精通したものの名前のなごりであるといわれている。
まだまだ、出雲族やそれにかかわるもの、たとえば、ぬながわひめなどの存在があり、そちらの平定が急務をようする。
いまはまだ時期尚早と、アマテラスは刀をおさめた。
「それで、おまえはこれからどうする」
アマテラスの問う意味は、ふたつある。
ー虜囚にならずにすんだとありがたく思えー
ー自由にうごきまわってもかまわぬが、大和の地にて、おとなしくしていることだ。おとなしくしておれば自由をうばわぬー
「もしも、ゆるされるなら」
にぎはやひは、アマテラスの表情にゆがみがでぬか、くいいるような眼でアマテラスをみつめた。
「なんだという」
「スサノオとおおなもちの墓前に手をあわせたい」
「なんだ。そんなことか」
亡骸をみられるわけではない。
その余裕だろうか、アマテラスははあっさりと応諾をみせた。
にぎはやひはまたも自嘲をくりかえすだけになった。
ー墓だというて、本当に亡骸をうめておらぬかもしれぬー
うろっぽの墓に手をあわせすだけでしかないのかもしれない。
「亡骸は・・」
口では何とでもこたえられることでしかない。
尋ねたにぎはやひにアマテラスはしのびなさそうにこたえた。
「国ゆずりに応諾した以上、スサノオもおおなもちも
敵ではない。亡骸をさらすようなまねはせぬ。
手厚く葬った」
尻尾をださぬアマテラスはさらにつけくわえた。
「できうれば、自害などせず、国つくりに加勢してほしかった。
私もおしい人物をうしなってしまった」
あとの御託はききたくもない。
「案内していただけますか?」
にぎはやひは、うやうやしく頭をさげた。
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