「つまるところ、翡翠の呪力は、太陽信仰に勝てないとおっしゃるわけですか?」
ぬながわひめの苦渋を思い量り大国主命は返事を濁した。
「精神力の問題であるとおもいます」
精神力とは、術を使うものの能力をいうのではない。
民衆の信仰心をさす。
大きな根源力が、術者の能力を増幅させる。
仮に成らぬ予測であっても、根源力が集結すれば、ならぬ筈のものが成る。
「アマテラスのほうが、民の心をつかんでいるということですか?」
やむなく、大国主命はうなずくしかなかった。
「せんだっての、日食に、乗じたのです」
「・・・・・・」
翡翠の呪力による、宣命より、如実な現象が目の前で起きたのだ。
アマテラスに対する反逆心をもってしても、否定できない太陽神とアマテラスの合一は、民の心に可逆的な畏れを抱かせる。
「それでは、私は・・・」
ー貴女を信奉するものの墓標になるしかない。ー
それぞれがそれぞれの覚悟をきめた夫婦は、娘である、美穂須々美を呼んだ。
ー貴女は、この美穂の地に残りなさいー
母さまは?と、つぶらな瞳がぬながわひめをみあげたとき、
ぬながわひめの瞳からふいにひとしずくの涙がこぼれおちた。
「この社は、いずれの和の国の天皇のあとをつなぐものの由緒になっていきます。
それが、証拠に・・・」
確かに社の千木のさまがそれを語っていた。
天津神と国津神が共にならび添う姿は、即ち、夫婦の横の筋をあらわしていた。
「天と地が融合していく、そも、最初の契りの場所です」
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます