夜からの雨が
木立に辺りそとはしとしとという音をたてている。
レトルト食品を温めただけの食事を皆にくばりおわると、
仮眠ベッドに横たわったあたしの耳にかすかな銃声の音がきこえた。
「ちかくなってきたね」
隣のベッドに身体を横たえた明美はベッドの中で息をころしている。
「大丈夫よ・・・ここは」
病院への攻撃は禁止されている。
だけど、実際のところ、不可抗力にせよ、
病院は砲撃をうけて、片屋根をふっとばされている。
「わかってるよ」
明美は小さく息をはいた。
「第一・・・銃弾の音・・・だもの」
仮に間違っての攻撃があっても自動小銃くらいじゃ、病院はこわれやしない。
「そうだね・・」
明美がふっと、ため息をついた。
そうだよね。
自動小銃がねらうのは、
建物じゃなくて、人間だ。
明美の不安は哲司にむすびついてゆく。
明美はユックリとベッドからおきあがった。
「いくの?」
哲司の所へ・・・?
「う・・うん」
まだ、皆ねちゃいないだろう。
まして、銃撃の音が夜闇から、ひびいてくる。
ベッドに身体こそよこたえているだろうけど、
耳はきっと小さな音さえ逃さない覚醒をたもっているだろう。
「もう・・・皆しってるから・・・」
3日後にここを撤退する。
そのニュースは夕食の前に佐々木先生の口から、
みなに伝えられた。
「そうだね」
明美が哲司と一緒にいられる時間はほとんど無い。
皆、それも理解している。
「皆にあまえるけど・・」
明美はこの恋に最後まで浸りこむ事にしたようだ。
そうすることで、明美は
哲司との恋を昇華させようとしているんだ。
「そうだね・・・。かわいがっておもらいよ・・・」
あたしも、明美が思い通りにすることを祈るだけ。
野卑なあたしのせりふに明美は少してれた。
「ばか・・」
そういったけど、
「いってくる」
あたしにつげると、ベッドをすりぬけていった。
夜の闇の中、
人の命を奪うために放たれた銃撃の音を耳の端に止めながら、
哲司と明美は精一杯今をいきるんだろう。
二人で生きている証に酔いながら、
二人は命をかがやかせるんだろう。
「そうだよね・・。かわいがっておもらいよ」
それだけしか、共有できないふたりだから。
精一杯愛を奏でるしかない。
それだけしかないから・・。
二人の性をひとつにとけあわすことしか、
それだけしかできないから・・・。
そうだよね・・・。
ココが、ここが、戦場じゃなければ・・。
あたしの喉の奥でひりついてくる叫びをこらえて、
出来るだけ、静かに
あたしは二人を祈った。
「いっといで・・・」
残された時間は短い。
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