佐々木先生に呼ばれた私達は玄関の脇にある
個室に入った。
ここは、患者さんの家族に入院手続きなどを
説明したりする、いわば、応接室なんだけど、
今は本来の目的でつかえるわけもなく、
医師というか、男性陣の私室になっている。
と、いっても、
ほとんど治療室に立てこもりの状態で
先生二人がココで並んで睡眠をとるなんてことはない。
まあ、そんなことは今かんけいのないことだけど、
話し場所として、ここを選んだのは
単に患者に話がつつぬけにならないという部屋の
位置によることでしかない。
「しってのとおり・・・」
いいながら、
佐々木先生はかすかに、明美をみたようなきがした。
「搬入トラックが随分おくれている・・」
そうなんだ。
佐々木先生の言うように搬入トラックは
予定の日にちより5日もおくれているのに、まだきてない。
でも、薬品も食料の備蓄も問題がなかったから、さほど、きにせずにすんでいたし、
倒壊した家の下敷きになりながらも、右腕骨折と額のかすり傷だけですんだ、源次郎さんを
説得するのに私達はやっきになっていた。
ココから撤退してくれというのに、
源次郎さんは「てつだいをするから」と、片手を三角巾につらせたまま、
こまごました用事をしてくれる。
その源次郎さんを説得するのに、搬入トラックの遅滞はある意味好都合だったから。
「けれど・・・」
佐々木先生は今度こそシッカリと明美を見た。
「もう、搬入トラックは来ない」
佐々木先生の言葉に
え?っと息をのんだのはみな同じだった。
すぐさま佐々木先生はつけくわえた。
「搬入の必要がなくなるんだ。
今朝、政府から撤退命令がはいったんだ」
つまり・・・。
それは・・・。
あたしは、やっと佐々木先生が明美を見た意味がわかった。
やってくるトラックは搬入でなく、私達をむかえにくるということだ。
そして、それは、
治療を続ける人間を新たな安全な病院にうつすためにつれかえるということと・・・。
哲司・・・・。
哲司はもう・・・前戦に戻れる所まで回復している。
その口をぬぐって哲司を連れ戻す事が可能かどうか?
ううん。
それより先に哲司は自分から前戦にもどるだろう。
つまり・・。それは・・・。
明美と哲司の別離を意味する。
「3日後に・・・トラックをよこすとのことだ」
あと、3日。
3日後。
哲司と明美の二人の時間は終わる。
明美がくすりと笑っていった。
「これじゃあ、源次郎さんもここにいられないわね。
説得しなくても、よくなったじゃない」
明美の強がりでしかないのはわかっているし、
皆の気持を引き立てようとしているのもわかった。
だけど。
明美・・・・?
あたしの心配がわかったんだろう。
明美は小さな声でいった。
「初めからわかってたことだよ」
どの道、離れ離れになるしかない哲司との恋。
「まだ・・・。眼の前でしなれちゃうより・・・いいかもしれないよ。お互いにね」
命の危機は同じ。
いつかそういってたのに、
明美は危険に命をさらさずにすむ場所に戻る。
同じ立場じゃなくなる事も運命からも二人の別れを宣告されているように思えた。
それが、明美には一番つらかったんじゃないのだろうか?
「の・・残るなんて・・・いわないよね?」
あたしは、思わず明美に尋ねてしまった。
「馬鹿ね。そんなことしたら、源次郎さんだって
ココに残るっていいだすわよ」
明美の行動一つに源次郎さんの命もかかっているんだ。
明美は馬鹿じゃない。
自分の感情のままにおぼれてしまいたいのを
ぐっとこらえてる。
あたしはこのとき源次郎さんが
明美を救い出すために
本部に連れ戻すために
神様がつかわしてくれた「はからい人」におもえて、
心底源次郎さんに感謝したんだ。
でも・・・。
戦いは私達や政府がいうよりも
もっと、深刻な状況になっていたんだ。
それを知る事になる。
そのときになってはじめて、
搬入のトラックが遅れていた事の重大さをしることになったんだ。
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