憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

白峰大神・17   白蛇抄第3話

2022-12-08 11:32:36 | ー白峰大神ー   白蛇抄第3話

「かのと・・・かのと」
呼び起こされる声に、かのとは目を覚ました。
が、夫てある政勝は今宵のかのとにおおいに満足したのであろう。
かのとの中で果つるとそのまま深い眠りの中に落ち込んでいた。
「はい?」
うろんげに政勝を見やりながら小さく返事を返したが
やはり、政勝はぐっすりと眠っている。
「かのと・・政勝を起こすでない」
潜めた声が響くと、かのとの目の前に男が現れた。
ぐっと後退りをしながらかのとは、男を見た。
が、こんな夜中に夫婦の部屋に忍び入った男であるのに
不思議と恐ろしくない。
むしろ、なにか温かく、懐かしい感じさえする。
「かのと。覚えておるのだの。わしじゃ。黒龍じゃ」
「はい?」
懐かしげに語りかける男に面識などない。
が、男の口振同様、
ひどく懐かしい気がするのはかのとも同じであった。
「案ずるな。伝えおきたい事があってな。人の姿を借りて現れただけだ」
男の口ぶりで男が人で無い者であると、解る。
「かのと。おまえは、九代前の世にわしの妻であった」
「は?。」
「黙って聞くが良い。その頃のお前はきのえという名であった。
わしがきのえを見初めて、夜毎、通い詰めるようになった。
同じ頃にな、白峰が
やはり、きのえに懸想しておったのに気がつかなかった。
やがて、きのえの奪い合いで争いは天空界に及んだ。
そして、地上はあふりを食らい、酷い様になった。
わしはその頃は、水竜として
近江の琵琶の湖についえを構えておったのだが、
争いの度に瘴気を帯びた血が琵琶の湖に流れ込み、
その水を受けた稲も枯れはて
朝霧なぞ立ちこめたら瘴気が浮遊して、
湖の廻りに住む者がばたばたと倒れはてた。
白峰も同じでな。
あふりが上がった後に雨なぞ、降ろうものなら
廻りの木も畑も牛や馬、瘴気に当てられて
無事な姿を留める物なぞおらぬかった。
その時に、勝源が・・・かのとのててごの九代前である。
その勝源が仲裁に入った。
人間の分際でと、思うたが
地上の様を考えると、取合えず話しを聞いてみる事にした。
勝源が言う事には、八代神に差配を任せると言う。
きのえの死した後、魂を二つに分ちて
一方をわしに一方を白峰に与えると言う。
其れで折り合いをつけるしかなかった。
やがて、きのえは、わしの子を孕んだ。
それでの・・・わしは、きのえの思いに全てを託した。
年が明けて、きのえは玉のような男の子を産んだ。
其れで決めた。
きのえのわしへの思いは本物じゃ。
ならば人として生き抜かせてやろうとな。
わしは天上に帰りこの血を人の中に流し込む事で、
きのえとの事は成就したのだ。
きのえの血とわしの血は融合し、それが子孫が政勝である。
八代神の差配でお前は生まれ変わる度に竜の子孫の妻となりた。
そのうえ、魂が引き合うのだろうの、必ず双生で産まれた。
そして、そのどちらかが白峰にくじられた。
きのえの魂を分かちておる。
どちらも竜に曳かれながら一方は妻に、
一方は白峰に、その繰り返しだった。
七度、生れ変っても同じこと。
だが、白峰はわしのように成就できぬかったせいもあるのだろう。
己自身がどうしても、きのえと添い遂げたかった。
あ奴は、八代神に願をかけた。
七度生れ変った後。
百夜をまぐわう。人とのまぐわいは、七日七夜が限度。
それ以上は性を変える故ゆるされておらぬ。
が、反れでも白峰は、きのえの魂と添遂げる事を選んだ。
きのえの性を蛇の性に変えてしまう契りを交わす。
きのえの魂を分かちた者と、何度、まぐわっても、
白峰の精が思いの中にどうしても入らぬ。
そうと判ったゆえの願じゃ。
必ずへびの姿で産まれる様に白峰自身もくじっておる。
宿った子は七度、白蛇の姿で生れ落ちた。
その度白峰自身がその子の中に身を移した。
そうする事でその身を千年、この地におかしめる事が出来たのじゃ。
百夜の契りで満願成就したあと、白峰の姿は地上から潰える。
ひのえは性を蛇に変えられておる。
次に生れ変る時白峰と同じ姿で生れ落ちようとする。
蛇神として生れ落ちたひのえを白峰が娶りたいのじゃ。
だが、その生れ落ちるに元がいる。
その元を、此度ひのえ自身に産み落とさせるのじゃ。
そこに白峰は入らぬ。
ゆえに地上より潰えるのだが。
できれば、ひのえと今の世を分てる者を探してが
生まれおつる白蛇をこの草薙の剣で立ち殺すとよい。
でなければ、次の世にはひのえは、蛇に身を、魂をおとしてしまう。
ひのえを子殺しの大罪から逃れさす為にもひのえを護るものが欲しい。
さすれば、大儀が立つ。
やがての妻でありとても、その身をけどった者の子を夫が絶つは正義。
元因が無くなれば、ひのえが、やはりこなたと双生として生まれてこぬだろう。
が、その時には、もう白峰のあふりはない。
・・・しかし、わしの血は濃すぎるのだろうの。
精が強すぎて、どうしても男は一人しか授からん。
もう、ひとり、生まれておればの」
「・・・」
「そうだろう?政勝は強かろう」
「あ、はい・・・」
かのとは、思わず返事を返したものの自分の言った意味に気が付いた。
「あ、いえ・・・は、はい」
「其れでは、これを・・・良いな。政勝には、話すなよ」
かのとの手に草薙の剣を重たく沈むこませると黒竜は消えた。
かのとの手の中に錆び付いた剣がある。
が、芯はしっかりしている。もいちど、研ぎ直せば。
かのとは剣をしっかりと胸に抱いた。



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