「あのね・・あたしが、里美に言ったんだよ。
相談にのったげるから、おいでってね」
わざとえらそうな口調でいうのは、加奈子の優しさだ。
頼りがいのある加奈子さんだから気にせず気楽にはなしなよ。
って、わざとえらそうにいって、みせる。
「だってねえ。あたしも約束したしぃ~~~~」
里美が首をかしげた。
「約束って?」
うふふと笑うと加奈子は以下の科白だ。
「里美と浩次がハッピーになったら、剛司とつきあってあげるって!!」
おいおい、その言い方は俺が泣きついたみたいじゃないかよ。
だけど、俺は判ってる。
「だからね。剛司のためにも、まあ・・私の為にも・・
貴方たちは幸せになる義務があるわけよ」
自分たちだけの問題じゃないのよ。
私たちの幸せもかかってるの。
だから、頑張ってほしいの。
こういう風な自分勝手な科白にきこえるかもしれない。
だけど、加奈子がいいたいのは、
貴方たちが幸せになれば、自分たちばかりでなく、まわりをも幸せにできる。
それぐらい幸せってすごい力を持ってるのよ。
みんな、貴方たちが幸せになるのを祈ってる。
って、ことなんだ。
「うん」
里美も浩次もうなづいた。
俺もうなづいた。
だから、俺が後から呼ばれたってことに納得したからだが・・・。
だが、問題は里美の発作だ。
どうやら、この原因は里美にくっついてる前世のせいに違いない。
里美に発作の原因が見当たらないってことからして、
「そいつ」のせいに違いない。
だが・・・。
どうやって、この前世のもつ・・多分・・・トラウマを解決するかだ。
どうするか・・・。
思い切ってこの事実を里美にはなしたほうがいいのか?
子供の幽霊のことをすんなり、うけいれるくらいだから、
そのあたりもうけいれるだろうか?
だが、この前世のせいで、子供までながしちまったってなりゃ、
う~~~~~む
自分で自分を憎んじまうってことになってしまわないか?
前世からの差配?
今まで二人の霊をみてきたわけだけど、
それは、生きてる人間を変えていきゃよかったわけだ。
だけど、今度はまあ、いわば、死んだ人間をかえなきゃどうにもならんのじゃないのか?
話し合えるんだろうか?
だが、それは里美にはなしかけるってことになってしまうわけで・・。
そうすると・・やっぱり、「そいつ」のことを里美に浩次につげなきゃならないか・・。
俺は里美が、浩次が前世の仕業をどううけとめるか、
いや、憎まないように、どううけとめさすかをまず考えなきゃいけないと思った。
俺はまず、里美に尋ねてみた。
「加奈子から、きいたんだけどさ・・。
今、おまえ、あれ・・見えてる?」
里美はのびあがって、俺の見ているちびっこを見つめた。
丁度、前世がいた高さくらいに里美がのびあがると、
「うん」とうなづいた。
妙なことがおきた。
里美の動きとおなじに前世もいっしょにうごきはじめた。
里美が俺にむきなおると、前世もむきなおる。
差配や乗っ取りでなく、同調している。
そんな感じがして、俺は別のことをたずねてみた。
「里美は今、自分の傍にいるものがみえるか?」
里美は自分のまわりをみまわす。
前世も一緒になって、見回す。
「ううん・・」
里美には前世はみえないのだ。
まあ、そうだろう。
見えるってことは、自分の外界にいるんだ。
里美の内界にいるものをみることができない。
内界にいるからこそ、差配できるってことでもある。
里美と前世のパイプがつながると、前世の感情が里美にながれこんで
発作がおきる。
発作をおこしていない状況の時は、里美と前世のパイプはつながっていない。
だから、里美がきがついていない幽霊を前世がみつけたり、それぞれが、自由な行動を起こしている。
ところが、今、発作をおこしていない状況で、前世と里美のパイプがつながってると考えられる状況だ。
里美がみれば、前世が追従していく。
これって、逆に里美が前世に感情を送ってるってことにならないか?
だとするなら、里美にはなしかけることで、前世に話すことが出来る?
この機を逃しちゃまずいぞ。
俺は矢継ぎ早に里美に畳み掛けた。
「里美は幽霊がみえるから、俺のいう事が判るとおもうんだけどな。
前世ってのがあるんだよな。
どうも、そいつがおまえにのっかってるんだ。
前世ってのはな、そうだなあ・・・。
まあ、言えば一卵性双生児みたいなもんだ」
里美が俺の話をじっと聞いている。
きこえてるのか、どうか知らないが前世も俺を見てる。
「よくきくだろ?
双子の一方が病気になると、片一方もなんだか、体がだるいとかさ。
違うところに居ても同じものを食いたいと思う、ソノ時間まで一緒ってのがさ」
うんうんと里美がうなづく。
前世も・・・これまた、うなづきだした。
「どういうのかな・・。
片一方が本当に困ることがあると、もう片一方が肩代わりするってこともあるんだよな」
俺は遠まわしに前世のもってるトラウマを里美が肩代わりしたということをつたえようとしていた。
もちろん、里美に対してでなく、前世に対してだ。
だが、里美の顔つきが変わった。
「あのこを死なせちゃったのは・・そういうこと?
私がもっと、しっかりしていれば、あのこを・・」
里美はキッチンの隅のちび幽霊の座っているだろうほうをむいた。
やっぱり、前世も里美とおなじ、悲しい顔をして、むこうをみた。
「あたしが・・あたしが・・・もっとしっかりしていたら・・・」
里美が茫然自失の様相をうかべはじめた。
ま・・・まずい・・。
前世のほうが主導権をにぎってしまう。
里美の感情が認めたくない事実を拒否しようとして、心がどこかににげだそうとしてる。
前世の感情に差配されてしまう。
「もう・・・やだ・・死にたい・・」
ぼんやりと里美の口から漏れてきた言葉に、浩次は里美をだきしめていた。
「ばか・・いうな。里美・・しっかりしろ・・里美・・里美?」
「あ、あ・・あんたなんか、大嫌いよ。あんたの子供なんか生みたくなかった。
うちにかえりたい・・うちにかえりたい・・」
「里美?」
浩次はまたも、自分が里美を追い詰めるのは、自分だとおもうだろう。
だが、前世に差配されてしまったとしか、思えない状況を打ち破ったのは加奈子だった。
「ちよっとまちなさいよ。あんた、誰?生みたくなかった?そういったよね?
里美は・・もうしわけないいいかただけど、生んじゃいない。
あんた、生んだって、きこえるよ?
だとしたら、あんたが嫌ってる男って誰よ?
浩次じゃないよね。
あんた、自分を里美だとおもってるんじゃないの?」
里美も前世も「え?」って顔をしてた。
前世の感情が里美に流れ込むのがとまったとも見えた。
お互いがお互いを「誰だろう?」とかんがえているとも、
自分を自分だと認識しなおそうとしているようにもみえた。
里美の顔つきも少し和らいでる。
自分をとりもどしはじめているんだ。
「あんたは、里美じゃないんだよ!!」
加奈子の一喝がとどろいたとき、
里美が小さく・・つぶやいた。
「お・・おねえちゃん?」
え?
それどういうことだよ。
だが、俺も頭の回転はいいほうだ。
すぐに新しい情報から古い情報を訂正する考えをはじき出す。
里美にそっくりだと思ったから、前世だと思い込んだだけで、
姉?
と、いうことなのか?
「私のせいだったのね・・」
静かな抑揚のない声が里美の口から漏れ始めた。
一瞬、俺は里美がこわれてしまったのかと思った。
だが、加奈子と浩次がすぐにそれを訂正してくれた。
「里美じゃない・・」
「ああ、里美じゃない・・」
「お姉さん?」
加奈子の問いかけに里美、いや、里美の身体にはいりこんだ、姉が応えた。
「里美を・・里美の子供を・・私が・・私のせいで・・」
どういうことなんだろう?
お姉さんとやらにいったいなにがあったというんだろう。
俺の疑問をたずねてみるまでもなかった。
「かけおち同然で、あの人といっしょになったのに、わたしにはもう帰る場所も無いのに・・」
お姉さんはやっと、自分の感情を冷静にしゃべることができたのだろう。
自分の思いを内にとじこめて、おしころして「あの人」と一緒に暮らししていたんだ。
思いが行き場をなくし、里美が肩代わりした。
肩代わりしなきゃ、お姉さんは本当に死んでいたかもしれない。
「あの人」がやったことは、どうせ、DV沙汰だろう。
それでも「あの人」を愛してるお姉さんは、自分の感情をおしころした。
子供ができた時も半分は生みたくないと思い、
半分は子供の存在に賭けたんじゃないだろうか?
押し殺した感情を解放したら、お姉さんが子供を流していた。
里美はお姉さんの感情を一手にひきうけ・・。
俺はじっと、ちび幽霊をみた。
ー辛い役目をおまえはひきうけたんだな?ー
それもこれも、里美のためだ。
加奈子をみてたら、判る。
加奈子は里美たちが幸せになるまで、自分の事なんかあとまわしだ。
そんな加奈子の友人の里美だってにたようなもんだろう。
そして、
ーちびすけ・・。おまえ、里美にお姉さんが死んだなんて、そんな目、みせたくなかったんだよな。おまえのことなら、まだ、諦められるだろうけどさ。お姉さんが死んだってなったら、里美がどんなに悲しむか・・。お前と里美でお姉さんをいかせようって、必死だったんだなー
そうか・・。
って、俺は思った。
だから、里美が家に帰ったら落ち着いたんだ。
お姉さんの「帰りたい」って、感情を叶えてやっていたからだ。
「なあ、お姉さん。いったん、家に帰ってきたらどうだ?
あんたのだんなもあんたに「感情」ぶつけすぎてるんだ。
あんたも自分を押し殺す。
結果、里美が全部それをひきうけてさ。
結局、あんたもまわりまわって、「感情」ぶつける亭主と一緒じゃないか?
素直に一番底の感情を出さないから、ごまかし、ごまかしでおかしくなる。
あんたの一番底の感情は「家に帰りたい」「結婚をみとめてほしい」ってことじゃないか?
認められないから、帰りたいって感情まで曲げちまう。
家に帰れば、亭主に自分のしたことを考え直すチャンスを与えられる。
だけど、あんたは帰らない。
帰らないから、亭主は「こいつは俺のところにしか居場所が無いんだ」ってあんたにいっそう甘えていく。なにしたって、こいつは出て行かないんだってね。
あんただって、おふくろさんに愚痴ってちっとは心が軽くなるだろう?
亭主も反省するだろうし・・。
そんな折り合いのチャンスをつくれる場所に帰りたいって当たり前の感情じゃないか。
だからなあ。
まず、自分の感情をすなおにだしていく。
この心機一転のために、一端、家にかえってくる。
そうすりゃあ、もう里美にかたがわりさせるなんてこともしなくてすむ。
あんただけの為じゃない。
里美のためにもそうしてくれよ」
な~~んか、加奈子のいってた科白の二番煎じだとおもいながらも、
俺はじっと、里美・・いや、お姉さんの返事をまっていた。
「うん・・わかった」
返事がそのまま号泣にかわった。
「里美・・里美・・ごめんね・・ごめんね・・」
これは奇妙な光景ではあった。
里美が里美にごめんねと謝っている。
里美がなにかいいたげにしている。
だけど、おねえさんがはいりこんでいるせいで、里美はなにもいえないんだ。
「あねえさん・・。もうすんだことは、いいんだ。里美がねがってるのはこれから先のあんたの幸せじゃないかな?あんたが幸せにならなきゃ、里美も幸せになれない。そう考えてさ、まず、体制をたてなおすために家にかえってくるんだ」
「あ・・あの人のことを・・あの人と別れろって、そうじゃなくて?
あの人のことを認めてくれる・・の・・ね」
「ああ。あんたが、そうやってまで、自分を押し殺してまで、里美が肩代わりしてまであんたたちを護ってきたんじゃないか。それを大事に育てなおすのはあたりまえだろ?親だって、そこ、判ってくれるって」
一番、それを願ってるのはちびすけ、おまえだよな。
もう一度、ちびすけを見た時もうちび幽霊はいなくなっていた。
それって、ちびすけの願いが叶ったってことか?
俺が里美と前世にそのことを告げようと振り返った時
前世・・あ、お姉さんの「感情エネルギー体」であるエレメントもきえていた。
浩次が里美をだきしめて、
俺と加奈子はお邪魔虫は退散とばかりにキッチンをでて、
外にでた。
「どうする?」
加奈子が俺に聞く。
「なにが?」
「これから・・」
「んなこと、きまってんじゃんか、加奈子は約束を遂行する」
「そうじゃなくて・・」
「なんだよ?」
「今・・これから・・」
里美と浩次。しばらく初めての二人きりを満喫させてあげたほうがいいだろう。
で、その間、俺たちがどうするか・・だ。
「俺ん家、来ない?二人きりを俺たちも満喫するってのは?」
俺の提案に加奈子が怒り出した。
「なに、いってんのよ。そんなこと、まだ、早いわよ」
なにいってんだよ?俺ん家で二人きりなんて今まで何度もあったことだ。
ただ、バックグラウンドが違っていた。
前までは、友達。
「はあ?加奈子?そんなことって、どんなことだよ」
「え?」
「なんだよ・・言ってみろよ、俺、よくわかんねええ~~~~」
もちろん、それが余分な一言だったのは間違いない。
なぜなら、
「ばか!!」
って、突然、加奈子に叩かれた。
「なんだよ。おまえ、いつも突然、いきなり、なんだよな。
え?だいたいさ、突然、俺のハートの中にはいってきちまいやがるし・・」
加奈子は俺のことをにらみつけてた。
にらみつけてた目元が可愛く笑ったようにみえた。
あとは、またも加奈子の突然・・・・。
ー今頃は里美と浩次もキスしてるかなー
俺の頭の中、ちらりと二人をかすめたけど、
やっぱ、俺は加奈子の突然に夢ん中・・・・・。
おしまいにしておこう。^。^v
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