憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

見えちまった2

2022-12-05 20:46:58 | 見えちまった。

「だいたいね。あたしもうかつだったわ。だけど、もっと、言葉をえらんでほしかったわ」

いきなりの加奈子の電話にでたとたん、矢の様な文句が俺にふりそそいでくる。

「なんだよ。わかるようにいえよ・・」

かなり興奮気味の加奈子に俺は期待していない。

ただ、おぼろげに加奈子のいいたいことがなにかわかるかもしれないって、それだけだった。

「だからね、あたしと付き合いたいなら、ちゃんと、言葉を選んでくれればよかったのよ」

此処で加奈子にさからっちゃ、面倒だと思うがいささか、おっかぶせた言い方がシャクにさわる。

「俺がおまえにどういったってんだよ。それに、おまえのほうもまんざらじゃないから・・」

付き合いだしたのはお互い様で、加奈子に泣き付いてー付き合ってーもらったわけじゃない。と俺はいいたかった。

「そうじゃないのよ。あんたが、タッグくもうなんていうから・・・」

はっ?ソノ言い方のどこがわるいってんだよ。

加奈子も納得してたじゃないか・・。

OKだったじゃないのかよ?

「変なのがね、あらわれちゃってるんだよ」

加奈子の声が切り口上になってくる。

「幽霊退治のタッグだって、思い込んだ奴が・・助けてくれるって意味だと思ったんでしょうよ」

はあ?

「もう~~~~。やだあ・・・・・。あっち・・いって~~~~よ~~~」

加奈子の声がなきべそになってきてる。

俺の頭は加奈子の言葉を計算式にあてはめて、大急ぎであてはまる答えをはじき出しはじめた。

「なにか・・・?あらわれたってことかよ?お前、見えちまうようになっちまったのか?」

おそらくそうだろう。

何かが現れた。

そういうことだ。

だけど、見えないだけで、常日頃だって「なにか」はいつも自分の周りに居る。

それにおびえないですむのは、「見えない」からだけなんだ。

ま~~人間の防御本能ってのか・・

「やだ~~~~~~~」

加奈子の声が必死になってきてる。

パニックをおこしちまうのが一番よくない。

「加奈子・・おい!加奈子!!」

「うぇ・・・さわんないでよ・・」

俺の言葉なんか聴く余裕がなくなってる。

「待ってろ。今・・そっちにいくから・・」

加奈子のアパートまで車をふっとばした。

アパートのドアをひっぱるものの加奈子は鍵をしめたままだ。

ドアホーンをおしまくって、ドアをたたいて、加奈子を呼ぶ・・・。

これじゃあ・・まるで・・たちの悪いストーカーみたいだ。

俺の懸念どおり、隣のドアが開いておばちゃんが俺をにらみつける。

おばちゃんのひとにらみで立ち去らない俺に最後の手段をいきなり遂行しようというのか、

警察に電話をいれようとばかりにおばちゃんはドアの中にもどってしまった。

「おい。加奈子、あけてくれよお。このままじゃあ、俺は犯罪者扱いだ!!」

俺の声がやっと届いたのか、ドアの向こうに加奈子の気配がし始める。

なんだか、ズルズル床をすべる音がして、ドアのノブがゆっくり動いた。

「は・・は・・・はいってきて」

「はやく・・」

言いながら加奈子は完璧に動転してる。

ドアチェーンがはずれちゃいない。

「加奈子・・しっかりしろ。チェーンをはずさなきゃ・・」

俺の耳にがちゃがちゃとチェーンがこすれ、触れる音がする。

加奈子の手が振るえ何度もチェーンをはずそうとしながら外れないんだ。

「加奈子・・おちつけ・・気のせいだろ?気のせいだよ?そうだろ?そう、いいきかせるんだ」

ドアの向こうで念仏のような声が何度も繰り返される。

「気のせい・・きのせい・・きのせい・・・見えない・・見えない・・きのせい・・

きのせいよ・・・だけど・・あれはなに・・?いいえ・・みなかったことにして・・

きのせい。きのせい」

やっと、チェーンが外れると俺はドアの中に飛び込んでまず、床にへたり込んだままの加奈子をしっかり抱きしめた。

抱きしめながら、俺はあたりをみまわした。

あの日、車の横の子供の幽霊をみてから、俺は「なにか」をみちゃいない。

加奈子をこんなにおびえさせるものを俺も見ちまうのか?

俺はその答えを探るためにあたりをみまわした。

俺にすがりついたまま、加奈子は玄関の続き間にあるキッチンのほうを指差した。

そこに居る?

俺は目を凝らした。

・・・・・・。

俺は・・・・。

俺にも・・見えた。

キッチンの隅に女の生首だ・・。

その生首の横の床から手がはえている・・。

その手が・・・。

俺がきがついたと、俺もみえるときがついた女の生首が・・・

床からはえた、手をすりあわせはじめた。

一定の距離を保って、俺には近寄ってこようとしない。

加奈子が叫んだ「さわらないで!!」とはうってかわった生首の様子をながめながら

俺は加奈子に尋ねた。

「つかまろうとしてたのか?あいつ・・おまえに?」

ううん、ううんと加奈子は俺の胸の中で首を振った。

「て・・・のばしてきた・・の」

「ふ~~~ん」

加奈子になにか伝えたかっただけかもしれない。

加奈子がおびえるものだから・・・。

と、いったて、誰がどう見たって、不気味でしかない。

俺だって、この前の子供の幽霊のことがなけりゃ、腰ぬかして、ちびってたと思う。

俺は加奈子にほれてる。

突然、何を言い出すのかっておもうかもしれないが、まあ、聞いてくれ。

加奈子が縁結びの女神さまに思えてきたって、俺は思った事が在った。

そこなんだ。

俺は加奈子のもつなんていうんだろう、包容力?っていうんだろうか、

友人のことを何とかしてやりたいって思う心の優しさっていうのかな。

ここにぐっときちまったんだ。

だから、あっけなく加奈子に陥落してしまったわけだけど、

こういう加奈子だから。

俺がほれた加奈子だから、

生首だって、そこに惹かれてあらわれたんじゃないかな?

って、おもうわけだ。

それがこの前の子供の幽霊もそうだとおもうわけだ。

なんとなく、俺は加奈子をいい奴っておもってる。

だから、漠然とした思いでしかないが、

生首にもそれがわかってるとしんじちまえた。

だから、俺は不気味でありながら、不思議と恐れをかんじなかった。

「おい!おまえ!!」

俺はそれだけ言うのが精一杯だった。

恐ろしく無いというのは、

こいつが加奈子や俺に危害をくわえそうにないということだけであって、

その外見たるや、惨憺たるもので、

不気味以外のなにものでもない。

生首はすり合わせている手をとめた。

どうやら、俺の言葉がきこえてるようだ。

「お・・・おお・・お、おまえ。俺のいう事がわかるか?」

生首だって耳がついてるんだ。きこえて当たり前かもしれない。

耳がついてる上に口だってある。

「おまえ・・・なんで、ここにきたんだ?」

こう言う場合、本人・・いや、本幽霊が一番、事情をわきまえてる。

「う・・・・あ・・・・・・」

生臭い臭いとともにもれてきたのは、うめき声にしかならない声だった。

と、いうことは・・。

「しゃべれないのか?」

なんともはや、やっかいな。

問題解決どころか、原因究明さえ定かじゃない。

どうするか?

思い当たることを並べてたずねてみるか?

「お・・おまえ・・殺されたのか?」

俺の質問に生首は急にうしろをふりかえり、左右をぐるりと見渡し始めた。

どうも、ほかに誰かいるとおもったようだ。

つまり、俺の質問が全然的外れで、

ほかの誰かにはなしかけたと想われたということじゃないか?

れ?待てよ・・・。

と、いうことは、もっと言えば、こいつ、死んだことを判ってない?

まずてはじめにそこを伝えなきゃいけないのだろうか?

「おい・・・お前はすでに死んでいる!!」

拳士郎みたいな科白をはいて、俺は幽霊に決定的な引導を渡してやった。

筈だった・・・。

生首の奴は俺の言葉にきょとんとしていた。

そして、なにか、考え込むような顔つきにかわった。

やがて、まじまじと、俺をみつめ・・加奈子をみつめた。

その瞳から、大粒の涙がおちてきた。

ー幽霊が泣く?-

やっぱり、なにか伝えたい事があるんだろう。

死んでさえ涙を流すなんて、よほど、悲しいことがあったんだろう。

「おまえ?自殺したのか?」

生首は俺の言葉にいっそう目をみひらいた。

やっと、自分が死んで幽霊になってしまったと,きがついたんだろう。

「失恋か?」

原因をずばりと聞かれれば、生首もいっそう、辛いだろうけど、

その表情で、失恋自殺だとわかるってなもんだ。

ところが、生首は顔を左右にぶんぶんとふりまわした。

ふりまわすと、自分の姿をながめようと必死に首をかしげていた。

まだ自分が幽霊になってることにきがつかないんだなと俺は生首にてまねきした。

玄関に細長い姿見がおいてある。

加奈子が出がけに自分の姿をチェックするためのものだろう。

生首の姿が鏡に映るかどうかわからないが

人の目にみえるくらいだから映るかもしれない。

加奈子は俺と生首の会話・・いや、一方的な俺のしゃべりだが、

それを聞いて、だいぶ、おちつきをとりもどしていた。

それでも、やっぱり、生首が傍らによってくるのは、気味が悪い。

俺にいっそうかじりついていたけど、

加奈子も幽霊が鏡に映るのか疑問に想っていたのだろう。

俺の胸にうずくまりながら、そっと、生首をみつめていた。

宙をうくようにしてよってきた生首に俺は鏡をゆびさしてみせた。

軽く顔全体がかたむいたところをみると、うなづいたってとこだろうな。

おずおずと、鏡を覗き込む生首の浮遊した姿はいっそう不気味だったが、

俺と加奈子は生首のうしろから、生首が鏡に映るかどうかを確かめ半分でのぞきこんでいた。

鏡には生首の姿が映っていた。

だが、俺も加奈子も大きな叫び声をあげた。

予想に反し、鏡は綺麗な女性の姿をうつしだしていたからだったが、

俺が驚いたのとは違う理由で加奈子は驚いていた。

「う・・・うそ・・・」

加奈子が目を疑うのもむりがないだろう。

おどろしい真っ青な顔。白い目も血走って、皮膚も腐った豆腐のようだ。

生きていたときが美人だったなんて誰だっておもいつけない。

くらべたら、白雪姫のように、「一番美しい」と、いわれたっておかしくない

綺麗な美人・・・ん?

「あ・・・あ・・・相田さ・・・ん?理恵ちゃん?」

え?

俺の目が点になってることだろう。

「加奈子?それって?」

「会社の同僚・・だ・・・けど?なんで?」

加奈子は生首と鏡の中の理恵ちゃんとやらをかわるがわるに何度もみなおしていた。

「あっ!!」

加奈子が何かに思い当たったんだろう。

それからが、大変だ。

やおら、加奈子は命令口調を再開しだす。

「剛司・・すぐ車だして!!」

ああ、言っとくけど、俺の名前は剛司だ。

俺に対してあんたじゃなくなったのは嬉しいが、命令口調での剛司は素直によろこべない。

「なに、ぐずぐずしてるのよ!!早く」

加奈子の叫び声に二つの変化があった。

一つは俺の抵抗だ。

「なんで、おまえが運転しないのさ?」

な~~んで、俺が命令されなきゃいけねえんだよ。

物、頼むのになんだよそれ?

もう一つは生首だ。

加奈子の呼びかけにもう一度手をすりあわせると、

その姿がきえた。

「とにかく、剛司・・はやくしてよ・・・あたしは、足がもつれちゃってるから

運転する自信がないの・・」

なるほど。

ひとつの変化はとりあえず収まった。

だが、もうひとつの変化。

「なんで?生首がきえたんだよ?」

俺の鈍さをなじるかのように、加奈子がいきりたつ。

「いいから、はやく、車用意して!!

あの生首は理恵ちゃんの生霊なのよ!!」

俺はぽかんと口をあけたに違いない。

「車の中で話すから。

理恵ちゃんのアパートにはやく・・・はやくしないと

理恵ちゃんが、死んじゃう!!」

あれは、幽霊でなくて、生霊だったのか。

生首に

「お前はすでに死んでいる!!」といったて、効き目があるわけがない。

まだ、死んじゃいない・・・。

いや、死にかけてる。

加奈子がそう想った理由は車の中できくとして、

その考えがあたっていたら・・・・・。

これは、えらいことだ!!

玄関脇まで車をよこづけにして、加奈子をよびにいくと、

加奈子は携帯電話を手にもっていた。

「えっと・・相田さん?に?」

俺は自分をつくづく、いい男だと思う。

どっちかというと、理恵ちゃん!!ってほうが頭にのこってるけど、

気安げに理恵ちゃんなんてよんだ日にはまたあとで、加奈子になにをいわれるか。

加奈子への優しい配慮も忘れず、ちゃんとよたついた足元も庇って

助手席のドアをあけてやった。

「だめだ・・・でないよ・・」

加奈子は呼び出し音が留守録音にもどると、またコールをいれる。

「で、どこにいきゃいいんだよ?」

「えっと、まず、沖多賀にいって」

こっから、20分はかかるだろうか。

「コンビニがあるじゃない。ガススタの角のところの・・」

まずはそこをめざすとして、

俺は加奈子の勘があたってないことを密かにいのっていた。

理恵ちゃんとやらが無事であればいいなんていう殊勝な心がけじゃない。

この先加奈子と付き合っていく上での・・・。

もちろんそんなことは計画して無いし、予定はしていない。

だが、俺も男だ。

ちょっと可愛い女の子とちょっとだけ、いや、本当にちょっとだけ、

デートできるチャンスがころがってくるかもしれないじゃないか。

このチャンスをのがしたくはない・・。

あんたもそうだろ?

だけど、加奈子の勘つ~~のが、かなりのものだとするとだな、

俺はデートの約束をとりつけただけでも、

ーちょっと、剛司!!-

って、・・・・・・。

ばれちまうことを考えると、俺はこの先、ほかの女には縁がないってことになるわけだよな。

だから、いっそう俺は加奈子の勘なのか、考えたらわかることなのかをさぐってみたかった。

「なんで、相田さんが死ぬっておもうんだよ」

「理恵ちゃん、彼氏とうまくいってないみたいだった。彼氏といっても、不倫だからね。

あたしも何度もとめたんだけど・・。ぎゃくにさ。あたしに話したら、また反対されるとおもったんじゃないのかな」

なんだか、うまく話が繋がらないところは俺の想像力でおぎなっておいて、

「で、相田さんの様子がおかしかったとか?」

俺が聞きたいのはここだ、。

ここで、勘といわれりゃ、俺も考え直そう。

だが、おかしな様子をしていたんなら、かんがえつくことだろう。

だとしたら、俺は・・上手に浮気を・・・。

「剛司。馬鹿な事かんがえてる場合じゃないよ」

「え?」

「だから、勘じゃなくて・・理恵ちゃん・・なんか、妙に沈んでいた・・。

あたしがもっと、気をつけてたら・・・」

俺の驚きなんていったら、生首や幽霊をみたときどころじゃない。

加奈子は興奮状態のせいもあるんだろう、

感覚がするどくなりすぎてるんだろうけど、今、間違いなく俺の心を読んだ。

そのことに加奈子自身きがついていない。

俺はちょっと、まずいって思ってた。浮気ができないなんてことじゃない。

加奈子が一種、霊界よりになっちまってるんじゃないのかってことに。

それは、確かに加奈子の言う通り、理恵ちゃんが死にかけてるせいに違いない。

理恵ちゃんが加奈子をひっぱってるんじゃないか?

俺はぞっとする思いを加奈子にけどらせないように、

加奈子にといかけて、加奈子がしゃべったり、かんがえたりすることで、

加奈子の意識を拡散させないようにつとめだした。

「でもさ、なんで、生首と手だけの生霊なんだよ」

加奈子は手の中の携帯でまたコールをはじめていた。

「たとえばさ・・・。首をつりかけてるとか・・」

「だったら、首だけ、くるんじゃないのかよ?」

加奈子は手の中のコール音に耳をすましている。

でも、頭の中でなんで、首と手だったんだろうと考えている。

嫌な想像が俺の頭の中にまでつたわってくる。

たとえば、風呂の中でリストカット?

湯船の湯の上という現実世界に残ったのが顔と手?

死が水のなかにとけこみ、

湯の中の体に浸透圧で死を含ませていく。

だから、

なんとか、命をつないでる手と顔が・・加奈子に助けを求めに来た?

と、加奈子が考えた?

だから、死にかけてる?

「剛司・・そこのコンビニのほうにまがって・・

そこから、次の信号を左に入ってすぐ一本目の路地・・」

車はいつのまにか、沖多賀についていた。

加奈子の指示通り車をはしらせていけば、道沿いに

1ルームマンションがみえた。

駐車場の空き場所に車をつっこむと、加奈子がすぐさま、車をおりた。

まだ足元がふらついてるけど、そんなことにかまっていられない。

小走りで一階の端の玄関までかけよると、俺よろしく

ドアホーンを押し、ドアを叩き、理恵ちゃん・理恵ちゃんって、呼んでいた加奈子の顔が

ひきつってる。

「た・・剛司・・ガスの匂いがする・・」

俺は車の中からスパナを一丁ひっつかむと、マンションの横壁に向かってはしり、

玄関と反対側にでた。

窓があるはずだ。

こそ泥よけの小さなフェンスをこえて、窓の傍ににじりよったが・・。

カーテンがぶあつくひかれている。

加奈子が俺に遅れてフェンスをこえると窓を叩いて理恵ちゃんの名前をよぶ。

が、

「剛司・・テープで・・」

隙間をふさいで、いよいよ、ガス自殺か。

まかりまちがって、爆発でもしたら、てめえだけじゃすまねえってのに。

まったく、思い切って相談するとか、

段階をふみやがれ!!

俺の怒りがスパナにこめられて、ガラスががちゃんと音をたてて、

カーテンにひっかかりながら、床におちていった。

途端に窓から噴出してくる異臭。

俺も加奈子もそんなことにかまっちゃいられない。

手探りで鍵をあけて、部屋の中にはいっていった。

「電気・・つけるなよ」

スイッチがスパークするかもしれない。

とにかく、窓をあけて、換気。

それから、問題の理恵ちゃん。

ベッドの中でぐっすり眠り込んでる。

どうせ、睡眠薬かなんか、のんだんだろう。

薄暗い部屋の中に目がなれてきて、

俺は理恵ちゃんが生首と手の生霊で現れたわけを理解した。

布団の中から、でているのは、顔と手だった。

ガスに触れて、最初に死を予感した場所が死を食い止めるためにあらわれたんだ。

「おい。おい」

「理恵ちゃん!!」

薬がきいてるんだろう、理恵ちゃんはまともなへんじさえよこさない。

ガスは遮断装置がはたらいて、あたりいったい、ガスくさくはしていたが、

おそらく、致死量にはいたってない。

だが、しっかり目張りした1ルームで、朝まで寝入っていれば

死ななくたって、死んだに等しい状態になっていただろう。

俺は救急車を呼ぶために携帯をもった。

だけど、此処がどこか、よくわかっていない。

加奈子に携帯を渡すと俺は部屋の中をみわたした。

うすぐらい中に生首が見えた気がしたからだ。

俺の目がそいつを見つけたとき、

俺は理恵ちゃんはもう大丈夫だと思った。

そこには、

鏡に映った白雪姫みたいな紅いほほの可愛い理恵ちゃんがいたから。

そして、顔だけの理恵ちゃんは

ゆっくりと手をあわせると、しっかりとおじぎをして、

そして、消えた。

「意識なんてわかるわけないでしょ。ぐっすり眠ってるのよ。

返事?返事?

そんなことどうでもいいから、早く、救急車よこしてよ!!」

加奈子のどなり声をききながら、

生首がしゃべれなかったわけも俺の腑におちた。

あとは、綺麗に胃洗浄してもらって、

体が回復したら、加奈子がちゃんと相談にのるだろう。

一件落着だなと俺は煙草を吸いに外にでた。

遠くから救急車の音がきこえる。

加奈子は理恵ちゃんの手を握り締めてる。

そして、俺は、やっぱ、加奈子にほれてる。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿