憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

―洞の祠―   6 白蛇抄第16話

2022-09-08 16:03:50 | ―洞の祠―   白蛇抄第16話

「水じゃろう?蛙?たがめ?鮒?鯉?山魚?山椒魚?
蛍、かわにな?鮎?亀?」
あてずっぽうに並びたて始めたきのえにくびをふり
「どれもちがう」
白峰はきのえのひとみの奥に住む女を刺し貫くように瞳を覗き込んだ。
「あ」
きのえを見る白峰の瞳の底に異様な妖しさがある。
『まるで、蛙をにらむ蛇のようじゃ』
ぞっとする思いを抱き込んだきのえがきがついた。
「へ、蛇か?」
「よう・・・わかったの」
きのえの逆撫でされた思いにきがついた白峰は胸のうちでにやりとわらうた。
きのえが白峰を蛇だと気が付いた裏は
きのえが自分を蛙だとおじけさせられたからだ。
きのえの中の女が白峰の前で蛇ににらまれた蛙同然といってみせた。
上っ面のきのえはその恐れが何に起因するかさえつかめない。
男を知らぬ少女が気が付くわけもない。
だが、いずれ、きのえの中の女が白峰に屈服する事だけはたしかなことだった。
だが、その前におおきな邪魔者がいる。
上っ面のきのえは黒龍をしたっているとみえた。

少女は帰ろうともせず、やがて黒龍にもたれかかったままうつらとねむりはじめた。
「おまえの側が一等きにいりのようじゃの?」
「うむ。それでよわっておる」
「などか?」
「とつぐあいてがおるに、いうことをきかぬ・・」
嫁ぐ?みよや。他にもきのえを見定める者がおるのだ。
「端からあおうともせず、ここに逃げてきおる」
「おまえがよいのだろう?」
「子供のいう事じゃに、直ぐ変わると思うてみておるのだが・・・」
初めて異性と意識した相手に子供は直ぐに嫁になるとか、嫁にするとかいう。
「たしかにの」
あんちゃんのよめさんになる。
父様のよめになる。
成らぬ事だとは判らず、知った感情をどう表してよいか判らず童はよく口にだす。
それは恋とは違う。
だが、他にあんちゃんを、父様を好きだと言う感情の言い表し方が判らない。
きのえもそうだという。

注意深く言葉を選んだ。
言霊をしかせるためにも。
「そうまで、慕われておるなら、かまわぬでないか?」
おまえの手で女にしてやれ。
「ば・・ばかをいうておれ・・」
童と言えど人である。
人である上になおかつ童だ。
「そのきはないか・・・」
むっとした黒龍である。
「わしをこけにしにきたか?」
「いや・・・」
白峰が腹のそこでほくそえんだのは無理はない。
人だというて、童だと言うて、己の恋情に目をそむけた。
この言霊が本意でなかろうとも大きな亀裂を作る。
運命と言う糸にこより切れない端糸を作る事になる。
「まじめ、じゃの・・」
女子との結びを堅い物とかんがえておれ。
女子は男の片割れだ。
それを、知らぬ男にきのえは宝の持ち腐れでしかない。
―あとでうらむなよー
「どうしても、きのえの心にこたえてやれぬか?」
「なんどいったら・・わかる?」
「かわるというか?」
「ああ」
きのえの心はいずれ変わる。
「そうだの」
きのえの心が変わらせる相手がたとえ、わしであろうとて、その言葉、うらむなよ。
白峰の奥底にきずきもせず、言霊を確実な物にさせられているとも知らず、
黒龍は己の底を偽った。

 



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