憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

大御心   奴奈宣破姫・21

2022-12-05 22:53:25 | 奴奈宣破姫

どう見ても兵ではない。

ぬながわひめを護ろうと決起した奴奈川の民である。

胸に携えた鏡を高く掲げ恭順の態をみせながら

にぎはやひの胸中は複雑なものになっていた。


すでに、おおなもちの訃報は伝えられている。

と、考えてよいだろう。


当然、アマテラスが奴奈川を掌握しにやってくる。

翡翠の霊力をあやつる巫女はいまや、

どれほどの兵力を結集できるか。

わずかながらも尽力しようと民・百姓までが

竹やりを手にもつ。


だが、それこそが、

アマテラスの怖れなのだ。


なによりも恐ろしいのは人心である。


ぬながわひめのためならば、

命もいらぬと信服する民をアマテラスは

どうするだろう。


みほすすみとて、刀の露にしてしまうアマテラスが

アマテラスに逆らう心をみすごすだろうか?


逆らわなければ、それでよしと

出雲の民にみせつけるために

おおなもちとスサノオに死を与えた男が

反逆の徒をどうするか。


恐れをしらぬ民をつくるぬながわひめをどうするか。


「みほすすみの無事をぬながわひめにおしらせしたい」

事実と違う言葉をくりだす口を不思議とおもいながら

なぜ、嘘をいうかと考えながら

にぎはやひの手は鏡を掲げ続けていた。


目の前の竹槍がしんとしなだれ

にぎはやひの前に

ひとりの男がぬかずいた。


「もしや、にぎはやひさまでは?」

なぜ、知っているのか。

にぎはやひの疑問に答えるかのごとく

男の口をついてでてきた言葉は意外でもあった。


「もし、そうであらせられるのであれば、姫からのお心をおつたえいたします」

すでに翡翠の霊力によって

にぎはやひがくるとよんでいたということであろうか。

ならば、みほすすみの死もよみとっているということになろう。


「確かに、わたしがにぎはやひである」

何の確証もない男の言葉に真実をみたか。


「ならば・・」

男は突如、にぎはやひの前に土下座した。

頭をじべたにすりつけ、振り絞る声がふるえていた。


「どうぞ、このまま、大和におかえりください」

耳を疑う言葉ににぎはやひが尋ねた。


「それは、そなたたちの願いでもあるのか」

すりつけた頭がもちあげられると

男のほほにまで伝うしずくがあった。


「はい」


「なぜ、そういうのか?」

ぬながわひめのお心と

男の泪。


そのわけがわからぬ以上は引き下がれぬと思った。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿