さらに三日。
若い身体はああも細いというのに見事に元に戻る。
理周が家事をよくこなす。
「てなれたものだの?」
十三のときから・・・何もかもを一人でこなした。
なれどころではない。
声をかけてみるものの、不知火が落ち着かない。
女っ気のないところに突然、女がすまいだす。
不知火にとって、
目下、女は新町で特別な事をいたす相手だけが女であったのだから、
見た目が同じ女であれば、不知火の意思に反して、
男が騒ぐのも無理がない。
「いかぬのう」
呟いたひとりごとにさえ、女がふりむく。
「どうなさいました?」
「なんでもない」
とは、いったものの、これが自分かと思うほど、女子を意識させられる。
「夕刻に出かけてくる」
どうも、たまっておる。
たまったものを始末せねば、これはこれで、理周に向ける目が汚くなる。
「理周もゆきます」
陰陽事とおもったのであろう。
てつないと倣いをかねて、ついてくるという。
「い・・いや」
「じゃまになりますか?」
「そうでない」
「ならば・・」
しかたない。
「し、新町にいくから・・・」
欲がたまったのは、理周のせいもあると気がつかれてはいけない。
まして、どこになにをしにいくかなぞ、知られたくなかった。
が、仕方ない。
「ぁ・・失礼しました」
いや。失礼というのとは・・・。
余計な弁解はやめた。
「遅くなるから、きちんと、戸締りをして、先にねておればよい」
ここ三日。不知火よりあとには眠らぬ。
無意識のうちに男である不知火を恐れるのか?
弟子か何かに成ったつもりの敬意からなのか?
不知火がおきておればいつまでも、針仕事を捜してでも起きている。
これはいかぬと、ふとんにもぐりこむこともしたが、
布団の中でねつけれぬのは不知火である。
ふすま一枚向こうの部屋の理周の寝息が聞こえれば聞こえたで寝苦しい。
聴こえねばきこえぬで、生きているのだろうのと心配になる。
寝息が聞こえて安心しているのやら、いらついているのやら、
さっぱり判らぬ。
どうも。いかぬ。
妙に女を意識させられていた。
「お妙ならふさがってるよ」
ここしばらくのなじみの女に先客がいると、遣手婆がいう。
「いや。お妙でないほうがいい」
お妙は店で一番若い。
年のころも理周とおなじ。
なんだか、やましい気分になる。
「節がおろう?」
「はあん?」
どうおもったのか、不知火は年増女郎の名を口に出す。
だけど。
「そりゃあいい。お節が喜ぼう」
節はそろそろ、年季も明ける。苦界暮らしもおさらばである。
「あたしゃ。小料理屋でもやりたいんだけどね」
お節がいうのに、
「で、そこでなにをくわすんだ?」
いいかえして、節をくらったおぼえがある。
「いまさらになって、抱かれた男が懐かしいなんていってやがるんだよ」
遣手婆の声を背中に受けながら、それで、喜ぶか、と苦笑する。
女郎はかなしいものである。
死ぬほど辛かったお商売が、からだになじむ。
馴染んだ体は堅気に戻ったところで元に戻りはしない。
折角年季が明けたというのに、古巣に舞い戻ってくる女も多い。
借金のかたに身を売られ、年季を終え、
やっと掴んだ堅気の生活も既に肌にあわぬものになっている。
男の仕掛けた手管はむごいものである。
その酷い事をするために不知火はここにきたのである。
酷いほどにこころよい逢瀬を求めに来たのである。
「わしも悲しい男じゃの」
つぶやく不知火は後ろから手を取られた。
「ぬいさん。おみかぎりだったじゃないかえ?」
久方ぶりに呼ばれた男のあだ名をよんでみせ、
はやくと、弐階の節の部屋をめざして不知火をひっぱってゆくと、
もう、二人は部屋の中である。
「やだよ。せっかちだねえ」
肌襦袢から紅い御こしがみえると、もう不知火は節をひいていた。
胡坐で座り込んだ不知火の腰をまたいだ節を
不知火の芯棒にむけて引き落とす。
「ひさしぶりだよお」
不知火の肉塊をのみこむ。
節の身体はすでに不知火のいきなりの直情を
すんなりのみこむしたたりがある。
硬い肉の侵入を味わうと節の身体が動き始めた。
「あ、あ・・どうしちまったんだよ?」
酷く張り詰めているくせに不知火はうごこうとせず、
節の巧拙にまかせている。
「いやだ・・よ」
身体の芯が火照り、肉棒がほとに触れる部分の
小さな感触がたかまってくる。
その感触をたかめるためか。
すでに高まったものをあじわいつくすためか。
止められぬ動きを恥じ入る事もなく
節は不知火の腕に支えられながらゆれうごいた。
「こころよいか?」
たずねてみせるが、節の声は陶酔にふれるばかりだった。
しばらくは、節が自在に泳ぐ事を許していた不知火だったが、
節の足を背方でくみあげさせた。
接触をゆるませぬようにして、節をくみしくかたちにかえる。
節もいよいよ、不知火に与えられる蠢きが大きなものにかわるとしると、
組んだ足をはずさぬようにして、不知火にしがみついた。
ふとんが節のせにあたり、あお向けに成った節の胸のさきを
不知火の指がつまみあげると、
ぐうとちからをこめた。
鋭い疼痛はほとにとどく。
「ああああ」
疼痛さえ中空彷徨うような快さとして
受け止められるような身体になってしまっている。
堪えられずに声をもらし始めた節に不知火の動きは遠慮会釈なかった。
しばらくは痴態のままに節を堪能していた不知火が果てそうになる。
「いかぬわ」
不知火はうごきをとめて、高揚をやり過ごした。
不知火らしい。
さっさと己の欲だけをぬぐえばよさそうなものであるが、
それでは女が苦界に身を沈めた甲斐がなかろうというのである。
できうるかぎり、共に楽しもうではないかというのは
女郎に精通した男の粋なのか?
はたまた、お商売の煩わしさを少しでも取り除いてやりたいという、
妙なやさしさなのか?
いずれにしろ、今度は不知火が仰向けにねころがりはじめた。
馴れ合った仲のいわずもがなである。
寝転んだ不知火の上に重なると節はゆくりとうごめきだしていた。
ゆるい動きは浅い快さを不知火に返していた。
不知火の上で節は、それでもあがってくる高揚にたえかねている。
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