憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

ー銀狼ー 1  白蛇抄第17話

2022-09-10 13:47:01 | ー銀狼ー   白蛇抄第17話

業火を背負うか。
揺らめいた影のうしろから、鬼火が立ちのぼる。
澄明は歩む暗影を見つめ続けた。
畳のへりから陽炎の如き沸き立ち集まる影がまたひとつの人型になると
やはり、先の暗影と同じ鬼火が立ち上り、まとわりつく。
「どこへ?」
澄明の声にわずかに耳をそばだてたようであるが、
立ち止まりもせず、ふりむきもせず、答えようともしない。

その夜はそんな怨亡が六体現れた。
まんじりともせず、夜が白むを待つと澄明はまず、怨亡が歩んでいった方角を眺めた。
透かしみた東の空は紫色の雲がたなびく、異変を叫ぶ烏が紫雲のなかで楔に見えた。

「烏・・」
雲が湧き上がるのは、森の木立の中からに見える。
澄明は眼を閉じた。
不穏な気配が流れ込んでくる。
それが、なんであるか、はっきりと掴み取るためだった。

澄明の瞳の裏に哀しい咆哮を上げる猩猩の姿が立ち上ってきた。
猩猩の群れは行き所をなくし、森の木々にすがり付いている。
食うものがなく、烏どもの巣をあさり、卵や雛はむろんのこと、成鳥まで捕食している。

「それで・・」
やむなく、ねぐらにおりたった烏たちは、夜明けともどもに、猩猩たちをおいたてようと、
攻撃を繰り返している。
いくら、おいたてても、猩猩は木々からたちさろうとしない。
雛を卵を同胞を食らわれた烏の怨恨がうずまき、空の気までかえ、紫雲を生じさせていた。

しかし、なぜ、猩猩たちも哀しい咆哮をくりかえしながら
烏たちの追撃に耐えながら、木々にとどまるのであろうか?

それが・・・、怨亡となにか、関連があるのか?
澄明は烏の怨恨と猩猩の悲情の念を取り払い、底にまだ、なにかあらわれるものがないか、
思念を飛ばしてみた。

『助けてください。どうぞ、一思いに・・』
猩猩でもない、烏でもないなにものかが、命を潰えたいと願っていた。
「おまえは・・なにものだ?なぜ、死にたがる?」
澄明の念に気がついたのか、死にたがるものが、静かになった。
澄明の存在をさぐり、量っている。
『人間・・か・・』
人間ではとうてい、願いをかなえる力はもてないとあきらめた思いがながれこむと、
苦しいうめき声だけが澄明の耳にとどまった。

なにものか、判らないが、かなりの妖力あるいは、法力、もしくは神通力をもつ存在であることと
人間でないことだけは、澄明にわかった。
「病か?怪我か?」
問いかける澄明にいくばくか心をひらいたのは、わが身を案じてくれる存在へ親近の情がわいたにすぎない。
だが、いいかえれば、役にもたたぬ存在でしかない人間の言葉に、刹那、心をほぐされるのは、
それだけ、なにものかが、瀕死の状態にあるといえる。
『死ぬに死ねない・・のだ』
「死ぬに死ねない?それはどういうことだ?」
『私は不死身・・の身体・・・なのだ』

不死身の身体を持つ存在とは、いかなるものであるか・・。
澄明は考えをめぐらしていた。

不死身の存在といえば、澄明には、白峰大神がすぐに、浮かぶ。

白峰大神同様、おそらく、なんらかの神・・。

澄明に浮かび上がった白峰大神の存在をーなにものかーが、逆に読み下していた。

「おまえになら、はなせそうだ。そのまま、東の山へ・・」

来いといいかけた声が沈んで、周りにいる誰かに指図を与えると

「今から、使いをよこす、そのものにあないされてくるがよい」

人間の足でここまで、来るはいとまがかかりすぎるというのだろうが、

使いなるものが、澄明をつれていくほうが、たやすいとなるのなら、

それだけの能力をもつ使いを下にしいているーなにものかーはいかなる存在であるのだろうか?

澄明が考え込んでいるその目の前に黒い塊がわーんと沸いた。

疾風のごとき速さで駆けてきたせいだとわかったのは、

黒い塊が微動だにせず澄明の前に座ったからだった。



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