憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

ー銀狼ー 10  白蛇抄第17話

2022-09-10 13:44:22 | ー銀狼ー   白蛇抄第17話

「おまえは、いづなだった頃に、雷神の傍らに随身のごとく、はべっていたのだが・・・。

雷神は、こともあろうに、若狭から、京の都までつづく、三十三間山、息吹山、比叡山、近江富士・・これらを総括する山の主の妻女に想いをよせた」

「雷神がですか?いづなだった私でなく?」

因縁が同じ事を繰り返すというのなら、山の主の妻女に懸想したのは、前世のいづなであるべき、気がする。

だが、銀狼には、見えない前世の世界である、まずは、繕嬉を信じて聞く以外ない。

「そうだ・・。もちろん、成らぬ恋であることは、雷神も承知していただろうが、

いづな・・おまえがの、随分、しゃしゃりでて、雷神の密かな想いもなにもかも、山の主に知れることに成ってしまった。

もちろん、おまえが雷神の想いを阻むにも、わけがある。

雷を帯びる雷神が水におちたら、雷神が死ぬか、水の精霊が死ぬか・・。

どちらにしろ、ただではすまないことになる。

雷神を案じ、雷神から片時もはなれなかったのだが、雷神もおまえの目を盗み、

一目だけでもと、菅の湖にしのんでいくことになる。

こうなると、おまえも、不安一方から、先手まわりして、菅の湖を徘徊する。

当然、山の主におまえのことが知れ、雷神の懸想もあからさまに成る。

水の精霊も湖から姿を現さなくなる。

そっとしておいてくれれば、良かったものをと雷神が荒れ狂い、

激しい怒りの中、おまえに呪詛をかけた。

もちろん、雷神も意識して呪詛をかけたわけではない。

だが、「この気持ち、おまえにわかるか。

そっと、物陰から見つめるだけでも、それでも苦しい。

そんな心を押してでも、想う。その人に避けられることになる・・

この想い、おまえにわかるか・・」

そんな雷神の怒りが知らずのうちに因を結んでしまったのだ。

だから、おまえは、今生、雷神の怨念をうけて、成らぬ恋、思う人に避けられる。

想う人の暮らしまで壊していく。

と、同じ想いにたたされて、「おまえにわかるか」を知らされているのだ。

だが、おまえは、今の今まで、前世をしらずにいたわけだから、いくらくるしもうとも、

雷神に対して、「こんな想いだったのか、すまなかった」と、詫びる事が無かった。

雷神にしても、いくらお前が苦しもうとも、意趣返しのすさびに自分が虚しくなるばかりに成る。

それでも、いくらか、おまえの苦しみをみれば、雷神も「ざまあみろ」と、なって、

いくばくか、気が済むはずだったのだが、

ところが、雷神はまもなく、榛の木の精霊に二つにわかたれ、閉じ込められ、お前の苦しみをみて、気を済ますことも叶わなくなった。

そして、榛の木からすくいだされたとき、雷神は、怨念も憎しみも悲しみも榛の木の中においてきてしまった。

そんな負の感情がつまった榛の木に精霊がもどると、同時に榛の木が浄化されはじめる」

繕嬉は、銀狼から目をはなし、澄明が頷くを見届けると

「雷神の怨念が具象化し、浄化されようと地の中をつたい、澄明の屋敷からはいあがってきていたのだ」
「と、いう事は・・・」

やっかいである。

通常ならば、

鏡の理、あるいは、反古の理で怨念を派生させた雷神に怨念を返すことが出来る。

ところが、銀狼にとって、雷神は前世の朋友とも言える。

あげく、今なら、それも良いが、20年前の怨亡が沸いてきているのである。

雷神に返すことも出来ず、怨亡は銀狼のもとを目指す。

目指すがこれが、また、いづなで無くなっている。

昇華されぬまま、怨亡が土にもぐる。

いわば、呪縛霊といってもよい。

「やはり、まずは、雷神を探すか・・」

腕を組んだまま白銅は銀狼を見つめた。



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