白銅が一番最初にここに降り立つのも無理は無い。
朝から姿をくらました澄明の気配を追って、東の山に向かっていたからだ。
「白銅・・・この前から沸いてきている怨亡の正体が判ってきた」
「ふむ・・・」
式神の口伝から、澄明が灰色の狼の傍らにいることはわかっていたが、それがことが、怨亡に結びつくとは思っていなかった。
瓢箪から駒とはいわぬが、思わぬ糸口が見えたようだと得心する白銅に銀狼が訝しい声をかけた。
「怨亡が沸くというのか?」
声の主が式神が伝えてきた狼だろうとあたりをつけて、白銅は澄明と銀狼の傍らにぐいと足を進めた。
「あ?」
大きな岩の下に灰色の狼が押しつぶされ身動きが取れない、は、判っていた。
が、それが、木乃伊のごとき有様である。
「ふむ・・」
一目見ただけで、大きな呪詛が架かっていると感じ取られると同時に白銅の思念に沸いてくる思いがある。
「犬神か・・」
「知っておるか・・・」
銀狼いや、犬神みずからが白銅に問いただすと白銅から何を読み取ったか、銀狼の瞳からいっそう泪があふれた。
「ひのえ・・あ、いや・・澄明・・。この岩にかかっている呪詛は山の主のものだな・・。この呪詛を外さないと・・」
おそらく、犬神を岩の下からさえもすくいだせまいとそれだけは判る。
「どうやって?」
白銅に、わからない呪詛の解法を、澄明は掴み取っているように見える。
あるいは、それが、怨亡に関ることなのかもしれない。
「繕嬉がくるのを待ちましょう。不知火は関藤兵馬のときで、よくわかっているでしょう」
本物の木乃伊を成仏させた不知火であれば、見えてくるものがあろうと澄明は思う。
「ふむ・・・」
泪のしずくが見る見るうちに肉まで蘇生させている様は干物を水に戻すに似ている。このようりょうで、犬神を救い出せたら、泉に身を浸してやればよいのかもしれない。
まるで、棒鱈のようであると笑いがこみ上げてくるのを、こらえながら、白銅は犬神に声をかけた。
「もう・・悔やむことはあるまいて・・・なんとか、してやろうて・・」
白銅にかけられた言葉に犬神がぎょっとした。
「おまえ?私のことを読めるというか?」
「どうも・・。白峰大神のおかげで・・・」
添い遂げることが出来なかった悲しみ、護り切れなかった苦しみは、白峰大神も白銅も互いにくぐっているといってよい。
「立場が違うが似たもの同士のせいだろう。不思議とおまえの気持ちも伝わってくる」
おそらく、銀狼が白銅を読んだとき、澄明への必死な思いを知ったに違いない。
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