憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

小枝・・・6

2022-12-11 10:00:23 | 小枝

男の腕の中にとらまえた生き物は
たとえて、言えば
傷をおった小鹿のようなものであった。

うちふるえる女の息はとまどいと惧れをみせながら、
文治にすがるしかない。

手負いの小鹿はふるえながら、
手を差し伸べる人間に
身を任せる。

観念したといえる。
すくわれたいという。

自然は、一瞬のうちに
命の駆け引きをする。

いちか、ばちか。
身をゆだねることしか、
活路が無いと悟ると小鹿は文治の手の中にすべりこむ。

小枝の姿はそれと似ていた。

文治とて、小枝のおそれをみぬけなかったわけではない。

『生娘だな』
男の勘が小枝を見定める。

と、同時に小枝の返した言葉にも
語るよりも多くのものがあった。

おとっつあんの助けでようようにいきております。
女はそういった。

『おとっつあんに迷惑をかけてばかりいる』
それは、文治にすぐに小枝の境遇を悟らせる言葉であった。

目がみえないばかりでなく、
女親がいない。

文治はそう気がついた。

気がついたことを
改めて女に確かめる事はしたくなかった。

不幸な境遇に念を押すようなものでしかない。

かわりに・・・。

文治は女の着物のすそをさばき、
下半身に手をのばした。

逃げ出しそうになる小鹿はもはや、逃げるすべの無いことを悟りながら、
文治が寄せてくる欲に
やはり、ふるえる。

「こう・・・」
人差し指の先に鋭敏な部分をのせる。
教えられてゆく感覚に抗う事を忘れそうな
女が出来上がる。

「もう・・じき・・・おとっつあんが、かえってきます」
男から逃れるためか、
惧れが勝ったか、
小枝は文治の手を引かせる言葉をもらした。

「俺がこわいか?」
文治は小枝が本意でこばんでいるのか、
たしかめたかった。

暫くの沈黙の後、
小枝は
「いいえ」
と、それだけを応えた。

目が見えない女が
いっぱしに男とかかわりをもとうということさえ、
罪であり、おろかである。

だけど、それ、以前に男が本気なわけがない。

きまぐれの、かりそめ。

だったら、そのほうがいい。

そのほうが、いい。

ほんの少しのやさしさをかたむけられ、
それをうけとめることができるだけでいい。

小枝には・・・それでさえ、もったいない。
一生、だれにも、
気にかけてもらえる自分ではないのだから。
気にかけてもらえても、
なにもかえすことができない自分なのだから。

男が
小枝の「女」に興をひかれてくれる事さえ、
自分の一生には無いことだと思っていた。

自分の中の「女」を飼い殺しにするしかない。

それは嫁になぞいけないという事実と一緒に
小枝の中にうずめた息吹だった。

その息吹が蠢く。

それだけで、充分過ぎる。
小枝にとって、
それは「恋」と呼ぶことも許されない鼓動。
知る事も許されない鼓動。

欲でもいい。
男は小枝を「女」としてみている。

文治の手の中でじっと動こうとしない女の
鋭敏な場所をなであげれば、
女の口からは、切ないうめきがもれてくる。

「また・・くる」
手に入れることの出来る女とわかれば
ゆっくりと手はずを踏むのも一興である。

小鹿と思ったものが
若い牝であったことが、
文治のほむらをあおりたてていた。



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