永常の所である。
不知火がつれてきた女性をふむふむと頷いてみていた永常である。
「雅楽師ですか?」
あれから比佐乃と一樹は落着した。
大きなおなかを抱えた比佐乃を連れ戻ると
つい、この間玉のような男の子を生んだ。
大輝と名づけたと不知火に聞かせたが
「あ。澄明がかかわったのだ。うまくゆく」
と、すんだことでしかない。
「それよりも、たのみがある」
長浜の陰陽師が女子を連れて、頭を下げる。
弥勒が池の法祥ではあるまいが、ならぬ恋に出奔をはかったか?
判らぬものは、本に男と女のなれそめである。
どう見ても、親子ぐらい歳が離れている。
不知火が惚れるも無理はない。
浮世離れした美しい女性である。
それがよくもまあ。
風采が上がらぬ。一言で言えばそう。
もさもさ。そんな男に・・・。
選んでも選びはしない。
蓼食う虫も好き好き。
げに判らぬものは、男と女よのお。
憶測に過ぎない事をとくとくと感心しているというか、
あきれているというべきか。
「何を考えおる?」
不知火の声に永常は我に返った。
「さて?たのみとは?」
「雅楽師にあいたい」
「だれ?どこの?」
そんな事くらいなら自分でいけば良いでないか?
難しい顔をしている不知火をみると、
そうもいかぬかと、半ば得心させられた。
「この女子のてて親なのだが」
永常はこの女子を見詰た。
「雅楽師ですか」
親探しか。
かけおちではないのか。
不知火には残念であったろうが女子にはよかった。
こんなむさくるしい男にはもったなさすぎる。
もったなさ過ぎる女子の顔をよくよくとみつづけていた。
「まさ・・か?」
よく似た瞳。細い体つきも、寂しげにも見える口元も。
「おもいあたるものがいるか?」
不知火にも見当はついているという事である。
「ああ・・ああ」
「我らではつてがなかろう?
かといって、屋敷に娘で御座いと名乗るわけにもいかぬ」
「むこうはしらぬのか?」
おなごのことをである。
生まれた事もしらぬということもあるまい。
どういう、いきさつで子をすてたか、判らぬ事である。
おもてだって、会えぬということなのだろう。
「わからぬ」
理周の胸元の袋をださせると、
「これを見れば娘だとわかろう」
怪訝な顔になった永常である。
「笛をなさるか?」
おなごにじかにたずねたが、不知火が答えた。
「長浜の雅楽師、理周をしらぬか?」
「女子の雅楽師がおるときいたことがある」
それが。これか。血のなせる業(わざ)であろう。
「あの方に会う法をかんがえておったが。
娘さんが、いや、理周さん?・・が、雅楽師ならよい案がある」
つと身を乗り出した不知火の耳にとどきだした言葉が、
理周の顔を暗くしずめていった。
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