憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

―理周 ― 26 白蛇抄第12話

2022-09-04 12:36:31 | ―理周 ―   白蛇抄第12話

夜半すぎ寝苦しさに寝返りを打つ不知火が
触れた者は理周の背だった。
『おい?』
理周がいつの間にか不知火の布団の中にもぐりこんでいた。
「どうした?」
背中の震えが、理周の涙を語っていた。
「・・・・」
判らぬでもない。
父との邂逅がどうなるか?
おそろしくもある。
かなしくもある。
普通の娘であれば、
こんな思いに降られる悲しみも知らない。
不知火はそっと理周の背中を抱いた。
「おうてみようぞ」
「はい」
なくしたくないものこそは、
精一杯堪えて堪えて生きてきた自分かもしれない。
わしがおる。
いってやれぬ言葉を飲み込んで
理周の背中を引き寄せ不知火は胸を当てた。
暖かい。温もりが理周を包むと理周はさらに泣いた。
こんな、温もりがほしかっただけだ。
望んではいけない。
堪え続けた理周をいともたやすく
不知火はいだきこんで、温もりをあたえてくれる。
『望んでも・・いいのですか?』
たとえ、父がおのれをしらなくても、
それがあたえられるものでなくても、
理周がのぞんでもいいのですね?
声を上げ泣き出した理周を不知火は自分に向けた。
自分に向けると、もう一度しっかりと、理周を包んだ。
『不知火三十二。男というより父であるべきかの』
娘のか細い声が、
理周は愛しいと確かに不知火に教えていた。



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