以前、俳句のことでいろいろ話したことがあるが、日本人はどうも「権威」や「形式」に弱い。今は民主主義社会だから、昔のように「お上」にひれ伏すことは少なくなったが、権威に弱い風習は未だに残っているようだ。 そこで、以前取り上げた俳句の話を、もう一度書き直しながら論じていきたい。
松尾芭蕉像(葛飾北斎の画)
「松島や ああ松島や 松島や」という句がある。素人や俳句を始めたばかりの人がこういう句を作ったら、俳句の専門家や批評家は何と言うだろうか。たぶん「何だ、こりゃあ。こんなものが俳句か!」と一笑に付すのではないか。
ところが、これは俳聖・松尾芭蕉の句だとなると、「こんなものが俳句か!」とはまず言わないだろう。つまり、素人が作ったか俳聖が作ったかで、評価が変わる可能性が高いのだ。これを「権威主義」と言う。
実はこの句は、後世の狂歌師が作ったという説がある。真偽ははっきりしないが、その話は後でしよう。ここで言いたいのは、最も自由であるべき芸術の分野で、意外に権威主義的な面が色濃く残っているということだ。
いま芸術と言ったが、戦後すぐに桑原武夫というフランス文学者が、俳句を「第二芸術」と呼んで排撃したことがある。(末尾に参考資料を添付しておく)
これに対して、高浜虚子や水原秋桜子といった俳壇の大御所らは無視したか、ほとんど反論できなかったようだが、「家元俳句」の実態が露呈されたと言ってよい。これも全く権威主義そのもので、お茶やお花と同様の“お俳句”という芸事(げいごと)、お稽古事でしかないということだ。
そういうこともあって、私は俳句などに興味も関心もないまま今日に至ったが、芭蕉や蕪村、一茶ら有名な俳人の句は学校で教わったこともあり、勿論いろいろ覚えている。第二芸術であろうとなかろうと、俳句は短歌と同様に、日本特有の“文化”であることは間違いない。しかし、日本特有のものであるからこそ、「家元俳句」ではないが、極めて権威主義的な面が残っているのだ。それが嫌いである。
正岡子規が「写生」を説いて、明治の俳壇に一大旋風を巻き起こしたのは有名な話だ。明治という新時代にふさわしい理論だと思うが(背景に、自然主義文学の興隆があったのだろう)、彼は江戸時代末期の俳句を「月並俳句」と呼んでこき下ろした。有名な加賀の千代女(ちよじょ)まで攻撃された。
しかし、子規の権威が俳壇に確立されたとはいえ、彼の俳句などは少しも面白くない。例えば「鶏頭の 十四五本も ありぬべし」などの句を読めば、「だから一体、何なの?」と思ってしまう。写生、写生と言ったって、中身がちっとも面白くないのだ。もとより、正岡子規が立派な人物であったことは知っているが、だからと言って、その俳句の良し悪しを吟味するのは個人の自由である。
子規に攻撃されたであろう小林一茶の「やせ蛙 負けるな一茶 これにあり」や、千代女の「朝顔に つるべ取られて もらい水」などの方が、自由な感性が表われていて、はるかに素晴らしいと思う。
私は俳句の素人だから、俳壇の人たちからは勿論相手にされないだろう。しかし、一言だけはっきりと言っておく。「権威主義、形式主義に振り回されるな!」と。
冒頭の「松島や ああ松島や 松島や」は、インターネットで調べるてみると、不可解な話が出ている。この句は芭蕉のものだと言われているのに、実は芭蕉の作品ではなく、後世の狂歌師・田原坊のものだというのだ。田原坊が「松島や さてまつしまや 松島や」と作ったものが、芭蕉の句として伝えられたというのだ。
勿論、真偽のほどは分からないが、私が勝手に憶測すると「偉大な芭蕉がこんな下らない句を作ったとすれば、芭蕉の名誉に関わる。だから、狂歌師の作にしてしまえ」という風になったのではないか。(田原坊が、芭蕉の句を真似た可能性もある。)
芭蕉が偉大な詩人・俳人であることは間違いない。しかし、どんな天才であっても、つい“愚作”をつくることもある。それもかえって人間的で面白いではないか。 芭蕉は、絶景の松島を見て言葉にならず「ああ松島や 松島や」と詠嘆したとすれば、むしろ、その方が人間感情が素直に出ていて楽しいではないか。 また逆に言えば、松島の“素晴らしさ”が伝わってくるような気がする。
ただし、我々のような素人がこんな愚作をつくってはいけない。芭蕉だから許されるのではないか・・・オッと、これこそ権威主義である(笑) (2010年10月23日)
桑原武夫の「俳句・第二芸術論」・・・http://www1.odn.ne.jp/~cas67510/haiku/kuwahara.html
会の上層部の作品がどんなであろうと良しとみなす・・・私などでも物の良しあしが解らなかった時代には「はぁ~、会長、部長の作品なのだから良いに違いない」と。
でも感覚としては「?」がいつも胸に残りました(笑)
私の手違いでワードパッドに記載したおキヨ様のURLを消してしまいました。すみません。すぐに教えて下さい。
特に日本では、どこの分野でも「権威主義」が存在していますね。伝統を大事にするのは良いのですが、それが行き過ぎて弊害を起こすのがよく見られます。
俳句の世界はよく分かりませんが、やはり権威主義が残っているのではないでしょうか。
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今後ともよろしくお願いいたします。