9月9日夜から10日にかけて、関東地方北部を記録的な豪雨が襲い、鬼怒川や渋井川が決壊するなど大きな被害が出ました。被害に遭われました皆様におかれましては、心よりお見舞い申し上げます。この災害を気象庁は「平成27年9月関東・東北豪雨」と名付けました。現在は、大きな河川は堤防が張り巡らされており、堤防が決壊するということは少なくなってきております。従って、「予想外の決壊」と言えるのではないでしょうか?
このような大きな災害から身を守るためには、2つのことが重要です。
1.ハザードマップで堤防が決壊した場合の浸水地域と浸水した場合の水深をチェック。
以下の国土地理院のHPで確認できます。
http://disaportal.gsi.go.jp/viewer/
2.自分の地域に被害をもたらす可能性のある河川の状況を調べる。
以下の気象庁HPで確認できます。
http://www.jma.go.jp/jp/flood/103.html
「ちょっと雨の降り方が心配だな。」と思ったときは、これらの情報を確認しておきましょう。
次に、こうした状況を予想したい気象マニアの方へ、当日の気象状況の解説をおこないます。
栃木県でもっとも雨が激しく降った時間帯の天気図です。台風18号から変わった温帯低気圧が日本海を北上しており、一見、台風の影響はなくなったかのように見えます。一方、台風17号は関東地方にゆっくりと接近してきています。この台風は関東に接近する恐れはなく、台風本体の雨雲もかからなかったため、この台風の影響もないように見えます。ところが、今回の豪雨には、この2つの台風が深く関係しているのです。
上図は相当温位予想図です。相当温位とはあまり聞きなれない言葉だと思いますが、水蒸気と温度を併せ持った指標です。ケルビンという単位が使われますが、数字が大きいほど(色がピンクや赤色)温かく湿った空気であること示しており、数字が小さいほど(青色や水色など)冷たくて乾いた空気であることを示しています。集中豪雨などをもたらすのは温かく湿った空気で、特に赤い線のように楔状に暖湿な空気が入るところでは豪雨の恐れがあります。上図は10日00時の予想図ですが、まさに、関東地方の南海上から新潟方面に楔状に相当温位が非常に高い空気が入ってきていることが分かります。
また、その東側の相当温位が低い場所をはさんでさらに東側には、台風17号からの暖かく湿った空気が入ってきていることが分かります。この空気が南東の風(矢羽の向きから判断)に乗って福島県付近にも温かく湿った空気が入っており、記録的な大雨となった訳です。
9日夜のレーダー降水合成図です。東京湾から栃木県にかけて活発な雨雲がかかっています。通常はこのような非常に活発な雨雲は数十分で移動していきますが、今回は同じ場所に停滞してしまいました。
上図はウィンドプロファイラによる上空の風向きと風の強さの観測データです。高度1km上空では関東地方で南東風が、それより上空では南風が卓越しています。雨雲はこの風に乗って東京湾から北上し、日光連山にぶつかって風上側の栃木県で強制的に上昇させられ、雨雲がさらに発達したことが分かります。
上図は今回の大雨の総雨量を示したものです。栃木県から宮城県にかけて雨量が特に多くなっており、宮城県では台風17号からの南東風の湿った空気が山にぶつかって上昇した風上側で、栃木県では南風が山にぶつかって上昇したエリアで記録的な大雨となっています。
今回は8日21時を初期値とした相当温位の予想図で、楔状の温かく湿った空気が長時間停滞することが予想されてました。つまり、前日には記録的豪雨の可能性が明らかになった訳です。夏場の天気の予想は地上天気図のみでは難しいのが実情です。特に局地豪雨は相当温位予想図を必ず見るようにしましょう。
※相当温位予想図はヤマテン「山の天気予報」の専門天気図より、他は気象庁ホームページより
※図、文章、写真の無断転載、転用、複写は禁じる。
文責:猪熊隆之