すっかりご無沙汰しております。著書の執筆やら何やらで落ち着いて書ける時間がなかなかなかったもので、申し訳ございません。
さて、今回は松本空港から千歳空港に向かう機窓から見られた雲について説明します。partⅠは松本空港から見られた雲についてです。
昨日(11月3日)は日中、冬型の気圧配置となりました。冬型といえば、日本海に出現する筋状の雲を思い浮かべる人が多いかもしれません。あるいは、冬場に良く気象予報士が使う「北陸から北の日本海側では雪、太平洋側では晴れ」という言葉を思い浮かべるかもしれませんね。松本空港からは雪と晴れの境界を見ることができました。
下記が3日の天気図(図1)です。北海道の南海上に低気圧があり、中国大陸には高気圧があって、「西高東低」の冬型となっています。等圧線も東日本で縦縞模様となり、やや込み合っています。
図1:11月3日12時の地上天気図(気象庁提供)
このようなとき、北西風が吹き、中国大陸からの冷たく、乾いた空気が日本海を渡る間に水蒸気の補給を受けて下から湿った空気に変わっていきます。また、日本海はこの時期、海水温が18℃以上と高いので、上空の冷たい空気との間で温度差が大きくなり、対流雲と呼ばれる積雲や積乱雲が発生します。これらの雲が北西風によって日本列島に上陸し、北アルプスなどの山にぶつかって上昇し、さらに発達するのです。
しかしながら、風がある程度強いと、山を越えて吹き降ろす下降気流となり、雲は山を越えると次第に蒸発して弱まるのです。北アルプスや谷川連峰など高い山脈が連なるときは、山を挟んだ両側で天候が大きく変わります。まさに、「トンネルを抜けると雪国だった」の世界が体験できる訳です。
さて、下の写真(写真1)を見ていただきますと、左から右へと山が連なっているのが見えます。これは北アルプスの前衛の山で、画面の左奥が北西方向、右手前が南東方向です。その山の奥は雲に覆われています。これが北アルプスの山々になり、雪雲が山にかかっているのが見えます。赤い囲みの部分は、雲から落ち着いている雪です。しかしながら、山を越えると雲は弱まり、空港上空では青空が広がっています。
写真1 信州まつもと空港から北アルプス方面(北西側)を望む
一方、緑色で囲まれた雲は、北アルプスにかかる大きな白っぽい雲とは別の雲です。これはどうしてできたのでしょうか?
要因のひとつは、地面付近の温まった空気と上空とで気温差が大きくなり、対流が発生しやすくなったことです。
まつもと空港一体は松本盆地、安積野と呼ばれる広い平地となっています。山を越えて温まった空気が日射でさらに温まり、気温が上昇しました。図2をご覧いただくと、松本付近で15℃近くまで気温が上がっています。
図2:気温アメダスデータ(3日12時、気象庁提供)
図3:700hPaの気温(ヤマテン専門天気図より)
一方、図3を見ていただくと、700hPaという高度約3,000mでは松本付近に-6℃以下という強い寒気が入っています。
この温度差によって対流が生じ、上昇気流が起きたところで積雲ができたというのが一つの要因です。
もう一つは、風の収束による上昇流によって積雲が発生したというものです。
写真で緑色の囲み部分の積雲は列をなしています。これは梓川など谷に沿って吹き降ろした水蒸気をやや多く含んだ風が安曇野を吹いている北風とぶつかって(収束して)上昇流が発生したことによるものです。図4を見ると、松本付近で北風と西風がぶつかり合っているのが分かります(赤い囲み部分)。
図4:3日13時のアメダス風向・風速(気象庁提供)
特に、風が広い範囲で収束しているところでは雨雲に発達しているところがあります。図5の雨雲レーダーにある赤い囲み部分の雨雲がそれです。
図5:3日13時解析雨量(気象庁提供)
このように、山で発生した雲と山を越えて発生した雲は発生要因が別になります。二つ同時に見られると勉強になりますね。
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写真、文責:猪熊隆之