山の天気予報

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猪熊隆之の観天望気講座94

2017-04-08 17:02:54 | 観天望気

今回は、疑似好天を観天望気から予想する方法についてお話しします。

疑似好天とは、一時的に天気が回復した後、天候が急変して風雨や風雪が強まるなど天候が回復したように見えて、実は一時的な回復にしないような天気のことを言います。

過去には1989年10月連休の立山での大量遭難や、2012年GWの北アルプスでの大量遭難など、疑似好天によって起きているものが少なくありません。

山麓の予報(無料サイトでは、山の天気予報と書かれていても実際には山麓の予報であることが多いので注意)では予想できないことが多く、山頂の精度の高い予報を発表している所でも、悪天となる時間が早まったりすることがあります。

したがって、最終的には現場で天候悪化を予兆させる雲が現れないか確認することが大切です。疑似好天は日本海側の山岳で多く発生します。そこで、ここでは北アルプスや白山、谷川連峰、越後三山、飯豊・朝日連峰、月山など日本海側の山岳で疑似好天の前に見られる雲の変化について説明します。

1.登山口で山にかかっている雲を確認

登山口で山に雲がかかっているかどうか確認しましょう。たとえ、山麓で晴れていても下の写真のように山にベッタリ雲が張り付いている場合、山では荒れた天気になっていると思ってください。

 

下の写真は、上の写真と同じ日の1時間後のものです。このように時間とともに、山に張り付いている雲が大きくなり、次第に中腹以下を覆うようになってくるときは、天候が悪化していきます。

ここまでの写真は白馬村振興公社提供(八方池山荘のライブカメラより)

別の疑似好天の日の雲変化を見ていきましょう。今度は、山の上にも雲がない場合です。

稜線でも青空が広がり、中腹に雲が湧いている程度です。この後も好天が続くと思ってしまいそうな空ですね。

ところが・・・。

山の上に雲が張り付いてきました。さらに・・・。

ここまで白馬村観光局提供(http://www.vill.hakuba.nagano.jp/livecam/livecamera.php?id=1より)

山全体を雲が覆うようになってきました。この時点で山は猛吹雪となりました。

このように、山に張り付く雲について観察することが、疑似好天を判断する際に大切です。

2.日本海の方向にある雲を確認

日本海側の山岳で天気が大きく崩れるときは、日本海の方向から雲が接近してきます。稜線や、日本海の方向が見渡せる尾根上にいるときには、日本海(多くの山岳では西や北西側)の方向の空を頻繁に観察するようにしましょう。

下の写真は、あるGWの日の空です。この日は山麓の天気予報では好天を予想しており、山頂の予報でも午後からの崩れを予想していましたが、予想より早く、午前中から崩れてきました。この天候悪化などの影響により、北アルプスでは遭難が相次ぎました。

写真は燕山荘から燕岳、立山方面を見たものです。つまり、北~北西方向にあたり、日本海の方向になります。白い盛り上がった雲と灰色の雲がうねったように連なっています。

これはレンズ雲と言い、上空の風が強いときにしか発生しません。既に稜線では風が強まっているか、今強まっていなくても今後、急速に強まっていくことを示しています。

さらに時間が経つと、雲は厚くなり、レンズ雲は灰色に変わっていきます(下の写真)。こうなると、悪天になるのに時間がかかりません。この状態で撤退するのは遅すぎます。上の写真の状況から、今日の天気が予想より早く崩れることを察知し、表銀座方面の縦走を取りやめ、燕岳の往復に切り替えたり、合戦尾根を下山するという判断をすることが大切です。

ここまでの写真は燕山荘さんにご提供いただきました。

また、日本海の方向に下の写真のような雲が現れたときは要注意です。

もくもくとした雲が帯状に連なっています。また、雲底が暗くなっています。この雲が違づいてくると、天気が急変し、落雷や強雨、強い雪、突風などの激しい気象現象をもたらします。

上の写真は右側が日本海の方向です。右側から真っ黒な雲が近づいてきています。すぐに、森林限界内など安全地帯まで避難する必要があります。

登山前には山の上の雲を、登山中には日本海の方向や上部にかかる雲をチェックして、天候悪化を察知しましょう。

 ※図、文章、写真の無断転載、転用、複写は禁じる。

写真、文責:猪熊隆之

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猪熊隆之の観天望気講座93

2017-04-08 17:02:32 | 観天望気

今回は先日、三峰山&美ヶ原など、これまで実施してきたお天気ハイキング中に見られた、光学現象についての解説です。

最初は日暈(ひがさ、にちうん、英名ハロ)です。こちらは比較的よくみられる現象です。

写真1 ハロ(栂池より)

日暈は、雲を構成している氷の結晶を太陽の光が通るときに、光が氷の結晶で屈折することによってできます(下図参照)。上の写真で光の環ができている周辺はぼやっとした薄い雲が広がっています。

このような雲を巻層雲(けんそううん)または薄雲(うすぐも)と呼び、高い高度にあるので、水滴ではなく、氷の粒でできています。この粒が六角形で、なおかつ結晶が色々な方向を向いているときに、この光の環ができます。

色が分かれて見られるのは、プリズムの原理と同じです。太陽の光が氷の結晶に入ったときに、色によって光の屈折の仕方が違うからです(下図参照)。

図1 プリズムによって光が分かれる原理

 

日暈には上の写真のように太陽を中心とした半径22度の円としてできる内暈(ないうん、うちがさ)とそれより外側にできる半径46度の円、外暈(そとがさ、がいうん)があります。太陽の光が六角形の氷の結晶をどのようにして屈折していくかによって、どちらになるかが変わってきますが、普段見ることができるのは、圧倒的に内暈が多いです。外暈が見られあなたはラッキーです!!

続きまして、三峰山で見られたブロッケン現象です。

写真2 三峰山で見られたブロッケン現象

この現象は、太陽の光の波長と、粒子の大きさが同じ条件でないとみられません。したがって、太陽の波長よりも大きすぎる雨粒や、小さすぎる雲粒では発生しません。霧の粒が同じ位になりますので、霧が出ていることが条件になります。

なおかつ、霧を正面に見て背後から太陽光線が入らないとみられません。太陽の光が霧の粒によって散乱(散りばめられて)、そのうち見ている人の方に跳ね返ってくる光が色によって跳ね返り方が違うことによって見られます。

こちらも、山の稜線を境にして片方が霧で、片側が晴れているときによく見られます。

最後に、割と珍しい現象をご紹介します。先日、美ヶ原高原の山本小屋で見られた太陽柱です。

こちらは、太陽の光が薄い氷晶や横に寝た形の長い氷晶に反射して、太陽の虚像として見られる現象です。

写真3 山本小屋からの太陽柱(サンピラー)

太陽柱は①雲粒(薄い氷晶や横に寝た形の長い氷晶)に反射してできる

②ダイヤモンドダスト(空気中の水蒸気が昇華して氷晶になったもの)

のいずれかで見られます。①の場合は日没や日の出の際に見られることが多く、②の場合はダイヤモンドダストが氷点下15℃以下にならないと出現しにくいことから、寒冷地でよく見られます。

図2 太陽柱のできる仕組み

写真3は日の出の際に見られた太陽柱です。一方、写真4はダイヤモンドダストによる太陽柱です。

写真4 ダイヤモンドダストで見られた太陽柱

写真5 同じくダイヤモンドダストの太陽柱

 

こうした、思いもかけぬ光景が見られると嬉しくなりますね。山に登っているとき、時々空を見上げてみてはいかがでしょう?

※図、文章、写真の無断転載、転用、複写は禁じる。

写真、文責:猪熊隆之

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