~丹沢空見ハイキングで見られた雲partⅡ~
前回に引き続き、12月23日~24日にアルパインツアーの丹沢・塔ノ岳登頂ツアーの際に見られた雲と気象状況についての解説です。24日は23日とは一転、塔ノ岳山頂では朝からガスに覆われました。
写真1 24日朝の塔ノ岳山頂(栗山利男さん撮影)
なぜ、1日でこうも天気が変わってしまったのでしょう(山ではよくあることですが)。その答えを得るために、天気図を見てみましょう。
図1 24日6時の天気図(気象庁提供)
天気図を見た限りでは、丹沢付近は高気圧に覆われているように見えます。しかし、よく見てみると、高気圧の中心は丹沢より東側にあります。つまり、partⅠで説明した②のパターンです。
今回のハイキングでは、23日の状況は⑤の状況(partⅠ参照)、24日は②の状況になります。ただし、24日の天気図を見ると、③じゃないかと思われる方も多いでしょう。③か④かの判断は地上の天気図では難しいこともあるので、850hPa風+相当温位予想図を見ると良いでしょう。
この天気図は、高度約1,500m上空の風の強さや向き、相当温位を現わしたものです。相当温位とは簡単に言えば、温度と水蒸気量を併せた指標で、
相当温位が高い・・・温かく湿った空気
相当温位が低い・・・冷たく乾いた空気
ということになります。予想図では相当温位が高い所は赤や桃色など暖色系で表示され、低い所は紫色や青、水色など寒色系で表示されます。相当温位は温度に左右されるため、夏場は高くなり、冬場は低くなります。それで、冬は寒色系の表示となりますが、重要なのは高いか低いかではなく、周囲に比べて高いか低いかなのです。
当日の朝(図5)の相当温位予想図を見ますと、関東地方では相当温位が低い寒色系の色が広がっていますが、良く見ると、南東の方向から周囲より相当温位がやや高いエリアが侵入しています。また、能登半島沖の日本海から東北地方の日本海側へも周囲より高いエリアが侵入していますね。また、丹沢は高気圧の左側(西側)に入り(図1)、南風が吹く気圧配置です。南側には相模湾があり、そこからの湿った空気が入りやすくなります。その湿った空気が丹沢の山で上昇させられて雲が発生した訳です。
図2 24日6時の850hPa(高度約1,500m)の風と相当温位予想図
図:山の天気予報専門天気図 https://i.yamatenki.co.jp/より
もうひとつこの天気図から見ておきたいのは風の向きと強さです。風の向きは矢羽で示されています。風の強さは矢羽の羽根の本数を見ます。低体温症や転滑落のリスクが高まる平均15m/s以上の風速は羽根が3本以上の場合です。見方は下図をご参照ください。
図3 風の強さと向きの見方(山岳気象大全「山と渓谷社」より)
実は、2016年4月16日におこなった塔ノ岳での空見ハイキングでも同じような気圧配置となりました(図4)。
図4 4月16日6時の天気図(気象庁提供)
丹沢は高気圧の中心近くにありますが、中心がわずかに東にあるだけで、同じようにどんよりと曇ってしまったのです。詳しくは観天望気講座83(下記URL)をご参照ください。
http://blog.goo.ne.jp/yamatenwcn/e/6951b4542d9cf69887ddf487c8239c33
さて、話を12月24日に戻しましょう。この日は濃霧でスタートしましたが、少し下ると雲の下に入りました(写真2)。また、相模湾では陽が射しているところもあります。
写真2 表尾根縦走路からの相模湾と三ノ塔
このようなときは、雲底の高さの変化を見ると、今後の天気が予想できることが多いです。雲底がどんどん下がっていき、塔ノ岳の山頂付近を覆っていた雲がさらに下がってくるようであれば、天気は崩れていきます。しかし、このときは時間とともに次第に上昇して昼前には塔ノ岳も雲から脱し、昼過ぎには塔ノ岳より標高の高い丹沢山でも雲から脱しました。こうしたときは天気が持つことが多いです。
さらに霧に覆われたときには、上空を見上げてみましょう。霧が濃くて暗い感じのときは雲が厚い証拠です。雨が降り出してもおかしくない状態です。一方、霧が明るいときは、上空では晴れています。そこで、空が段々明るくなってくるようなときは、霧が晴れてくる可能性が高いので、今後の状況に期待しましょう。
24日はこのように天気が回復していき、富士山も再び顔を出してくれました。また、上空には青空が広がっていき、暈(かさ)を見ることができました。暈については観天望気講座93をご参照ください(下記URL)。
http://blog.goo.ne.jp/yamatenwcn/e/3f8e6696c91739f680fe1f447cf2236a
写真3 日暈
さて、このように天気が回復した理由を天気図から見ていきましょう。
図5 24日15時の予想天気図
図:山の天気予報専門天気図 https://i.yamatenki.co.jp/より
天気図を見ると、高気圧は朝よりも東に去っていき、等圧線の間隔も少し狭い領域に入って、南からの風がやや強まっていくことが想定されます。それなのに天気が回復したのはなぜなのでしょう。こちらも地上天気図では分かりにくいので、1,500m上空の相当温位と風の予想図で見ていきましょう。
図6 24日15時の850hPa(高度約1,500m)の風と相当温位予想図
図:山の天気予報専門天気図 https://i.yamatenki.co.jp/より
相当温位自体は6時のもの(図2)より少し高くなっていますが、周囲との状況を比較すると、周囲より高いエリアが東へ抜けて、低いエリアに覆われてきていることが分かります。ということで、湿った空気の入り込みが弱まったことが原因だと思われます。
このように、相当温位を活用して地上天気図では分からない天気を予想することができま
す。見慣れないうちは見方が難しいですが、慣れてくると、段々使えるようになっていきます。特に、梅雨期や秋雨の時期には大雨を予想するうえで必須のアイテムになってきます。ぜひ、ご活用ください。
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写真、文責:猪熊隆之