山の天気予報

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猪熊隆之の観天望気講座148

2020-02-28 21:04:43 | 観天望気

黒斑山で見られた雲partⅡ ~雲海と日射による上昇気流~

前回に続き、日本山岳ガイド協会更新研修中に黒斑山(長野県・群馬県)及び、長野県小諸市の安藤百福記念自然体験活動指導者養成センターから見られた雲についての解説です。プロ(登山ガイド)向けの講習ですので、中~上級者向けの内容になっています。

まずは、この日の天気図を見ていきましょう。

図1 11月26日午前6時の地上天気図(気象庁提供のものに猪熊が作図)

この日は高気圧が日本海北部に進み、黒斑山の北側にある状況でした。高気圧周辺では時計周りに風が吹きますので、高気圧の南側にある黒斑山付近では東寄りの風が吹きます。

26日の朝、小諸市南側の高台から見た雲の様子が写真1です。

写真1 小諸市から北側の空を見る

写真を見ると、低い雲が右(東側)から左(西側)に向かって帯状に延びていることが分かります。高気圧が関東地方の北側にあるときに、関東平野では太平洋からの湿った東風の影響で低い雲が広がり、この湿った空気が関東山地を越えて軽井沢方面から小諸方面に入ってきます。雲の厚さは右側(東側)の方が厚く、左(西側)に行くにつれて薄くなっています。これは関東山地を越えて下降気流となったため、雲が次第に蒸発していることを現しています。また、③の所では山の斜面を空気が上昇して雲が再び、成長していることが分かります。図2と併せてご確認いただくと、地形によって雲のでき方が大きく変わることが分かります。

図2 長野県東信地方周辺の地図と湿った空気の入り具合

写真2 高峰高原から南側を見ると、雲海が広がる

さて、千曲川流域の低地からチェリーパークラインを上がって高峰高原へ。高原ホテルの前からは眼下に雲海が広がっています(写真2、図4の④)。この雲海は、関東側から佐久盆地に流れ込んできた湿った空気(図2の②)が夜間の冷え込みで雲になり、安定した層に抑えられてできたものです。雲海のできる仕組みについては、jROの「雲から山の天気を学ぼう」第42回 https://www.sangakujro.com/%e9%9b%b2%e3%81%8b%e3%82%89%e5%b1%b1%e3%81%ae%e5%a4%a9%e6%b0%97%e3%82%92%e5%ad%a6%e3%81%bc%e3%81%86-42/ 

をご参照ください。この雲海の上には、別の雲の帯があるのが分かります。さらにその上に、もう一つ雲の塊があります(写真3)。

写真3 写真2に説明を加えたもの

これらは、それぞれ雲ができている高さに湿った空気が流れ込んでいることを現しています。また、雲海の上端には安定した空気の層があり、それに蓋をされる形で雲がそれ以上、上昇できず、横に広がっていることも分かります(図3)。つまり、下から順に湿った空気、安定した層、乾いた空気、湿った空気、安定した層・・・と空気の層がサンドイッチのような状態になっていると想像できます。美味しそうに見えてきましたか(笑)?

図3 雲海の雲が安定した層に抑えられている様子

写真4 高峰高原から見た北西側の空

今度は、反対側(北西側)の空を見てみしょう。遠くに妙高・火打から高妻山が望めますが、その手前に雲海が広がっています。この雲は、関東平野からの湿った空気が吾妻川に沿って流れ込み、嬬恋付近の盆地に溜まって夜間の冷え込みによって雲になったものです(図2の⑤)。やはり雲海の上には安定した層があり、雲がそれより上に行くことができなくなっています。

写真5 佐久平からの谷風で発生した雲

日中になると、この雲海が姿を変えていきます。雲の頂が平らだったものが、写真5のように、上方へ盛り上がっていったのです。これは、日射によって南斜面で気温があがって上昇気流が発生し、安定した層が破壊されて雲海の下の湿った空気が雲海の上に飛び出してきたためです。佐久平の湿った空気は、写真5の右手前側の山を越えられませんが、山と山の間の谷を湿った空気が通ってきて、それが写真の左側にある浅間山に向かって上昇して再び雲ができています。一時は、この雲が黒斑山を多い、視界が悪くなりましたが、湿った空気の流れ込みは次第に弱まってきました。そのため、写真6のように山頂のみ雲が残る光景が見られました。

写真6 浅間山にかかる笠雲

浅間山がこの日、もっとも姿を現してくれた瞬間です。雲の帽子をかぶったような姿ですね。こんなお山もいいもんです。

文、図(気象庁提供を除く)、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

 

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猪熊隆之の観天望気講座147

2020-02-28 16:42:06 | 観天望気

黒斑山(長野・群馬県)で見られた雲partⅠ ~寒冷前線と寒気による雲~

今回は、先日、黒斑山(長野県・群馬県)及び、長野県小諸市の安藤百福記念自然体験活動指導者養成センターで行われた、日本山岳ガイド協会更新研修時に見られた雲です。プロ(登山ガイド)向けの講習ですので、中~上級者向けの内容になっています。

まずは、この日の天気図を見ていきましょう。 

図1 11月25日午前9時の地上天気図(気象庁提供のものに猪熊が作図)

この日は寒冷前線が日本海から南下していく状況でした。図1を見ると、午前9時頃、黒斑山(図中△印)の辺りを通過している模様です。

そのときに、長野県小諸市から見た雲の様子が写真1です。

写真1 小諸市から北西方向(図2のアングル参照)

写真を見ると、北から北西方向(写真の奥の方)に白くて、雲頂がモコモコした雲があります。これは積乱雲で、寒冷前線に伴って発生した雲です。この雲に覆われると、短時間に激しい雨や雪が降り、雷を伴うこともあります。落雷や沢の増水など、気象リスクが高まる危険な雲になります。 

天気図3から4への変化を見ると、前線が北から南へ南下してくるため、この雲が山を越えて小諸市上空にも接近してきそうですが、実際には山を越えることはありませんでした。それは、前線に伴う雲が山を越える間に弱められたことと、前線の南側にそれほど湿った空気が入らなかったため、雲が成長できなかったからです。冬場に、日本海から南下する寒冷前線は、山を越えていく間に弱まるため、太平洋側の山岳では天気が崩れないことが良くあります。図2を見ると、現場付近は千曲川に沿って上田盆地から佐久平につながる低地にあります。北側には浅間山から四阿山方面に続く2,000m級の山があり、この高い山を越えるときに下降気流が起きて雲が弱められた可能性があります。

図2 長野県東信地方周辺の地図(グーグルマップより)

図3 11月25日15時の地上天気図(気象庁提供のものに猪熊が作図)

午後になると、前線は関東の南海上に抜けて、等圧線が北東から南西方向に寝た形の冬型になっていきます。等圧線がこの向きだと前回(150回)学んだように、地上付近では北から北北東風になります。このときに見られた雲が写真2になります。

写真2 午後になって現れた層積雲(そうせきうん)

細い帯状の雲は、層積雲(そうせきうん)と呼ばれる下層の低い雲です。雲の高さは地上から2kmより低い所にあります。この雲は、地上付近と上空2km付近との狭い範囲で温度差が大きくなるときにできます。大抵は上空1,500m~2,000m付近に冷たい空気が流れ込むことで、地上との温度差が大きくなって発生します。畑の畝(うね)のように見えることからうね雲とも呼ばれます。

図4 上空1,500m(850hPa)付近の気温と風予想図(25日6時)

山の天気予報 https://i.yamatenki.co.jp/ より

図5 上空1,500m(850hPa)付近の気温と風予想図(25日15時)

山の天気予報 https://i.yamatenki.co.jp/ より

図4と5をご覧いただくと、上空1,500m付近で朝のうち、黒斑山付近で9℃~12℃だった気温が15時になると、0~3℃位になっていることが分かります。等温線も込み合って冷たい空気と温かい空気が黒斑山付近で接しています。風向(図6参照)も朝のうちの西風から15時には北風に変わっており、午後は北からの冷たい空気が流れこんできています。この冷たい空気の流れ込みと千曲川に沿って入ってきた水蒸気(写真①と図2の①)が層積雲を作りだしたのですね。

図6 風向と風速の見方

写真3 夕方になって層積雲が大きく広がる

夕方になると、さらに冷たい空気が入ってきて層積雲の幅が広くなってきました。しかしながら、北側からの湿った空気は北側の高い山に堰き止められるため(図2の②)、撮影地点の上空では雲が弱められ、大きな天気の崩れはありませんでした。

このように、天気図と地図、雲の様子から空気の状態を読み取ることができます。読めるようになってくると、空を見るのが楽しくなってきます!

文、図(気象庁提供を除く)、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

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