霧ヶ峰空見ハイキングでの天候判断partⅡ ~午後から雷雲が発生する?~
前回に続き、「霧ヶ峰の空見ハイキング」の天候判断について書きたいと思います。前回は、天気図から登山前に行った天候判断についての記載でしたが、今回は登山中に見られた雲からの判断、つまり観天望気(かんてんぼうき、雲や風からその後の天候を予想する技術)についてです。
ハイキング2日目の7月19日(日)は、1日目と日程を入れ替えてヒュッテみさやまから車山の山頂に向かう計画に変更しました。このコースは、前半は樹林帯ですが、途中からは草原状の尾根を歩く形になります。したがって、想定される気象リスクは、1.風雨による低体温症 2.落雷 ということになります。今回は天気図から1の可能性はほとんどありませんでしたので、2の落雷が起きるような気象条件になるかどうかが問題でした。
落雷や強雨は、積乱雲(せきらんうん、別名雷雲)と呼ばれる雲で発生します。この雲は、わた雲(写真3)がやる気を出して(成長して)入道雲(写真1)となり、さらにやる気を出してできる雲です(写真2)。雲がやる気を出す条件については、jRO“雲から山の天気を学ぼう10回” https://www.sangakujro.com/%E9%9B%B2%E3%81%8B%E3%82%89%E5%B1%B1%E3%81%AE%E5%A4%A9%E6%B0%97%E3%82%92%E5%AD%A6%E3%81%BC%E3%81%86%EF%BC%88%E7%AC%AC10%E5%9B%9E%EF%BC%89/ をご覧ください。
この日の出発時(8時30分頃)、東の方角に入道雲が見られました(写真1)。
写真1 “ヒュッテみさやま”から東の方角を見た空
雲の底は暗い色になっており、高さはまだそれほどではありませんが、この時間としては、雲はやる気を出している感じです。雲は地上付近と、上空との温度差が大きくなるほどやる気を出して、上へ上へと成長していきます。朝のうちは地上付近の気温が低いので上空との気温差が小さく、あまりやる気を出せませんが、日中は気温がどんどん上昇していくため、やる気を出していき、午後になると地上付近が熱されて上空との気温差が大きくなるため、やる気を出して成長していきます。
写真2 入道雲がさらに成長し、雷雲に発達
朝のうちから雲がやる気を出しているときは、午後にはもっとやる気を出してしまい、雷や強雨をもたらす積乱雲に成長する可能性が高いのです。一般的に午前9時より前に、写真1のように、入道雲が成長してきているときは、午後から雷雨になりやすいと言えます。
しかし、このとき、私は午後から雷雨になる可能性は低いと見ていました。それは、高度約5,800m付近にある冷たい空気が日中は次第に抜けていく予想だったためです。上空に冷たい空気が入ると、地面付近との温度差が大きくなり、雲はやる気を出していきますが、反対に上空に温かい空気が入ってくると、地上付近との温度差が小さくなり、雲がやる気を出せないからです。
図1 7月19日(登山2日目)午前9時の5,800m付近の気温予想図
図2 7月19日(登山2日目)午後3時の5,800m付近の気温予想図
図1と図2をご覧いただくと、午前9時には霧ヶ峰付近(△印)は、マイナス6℃以下の中に入っていますが、午後3時になると抜けています。上空の気温が上がるということは、地上との温度差が小さくなり、雲がやる気を出せなくなります。
予想通り、午後になって雲はむしろ、やる気を失って入道雲はわた雲(積雲)に衰弱していきました(写真2)。
写真3 車山山頂から見られたわた雲(積雲)
このように、天気図と観天望気を併せて利用することで、今後の気象リスクを想定することができます。
さらに実践的な内容については以下の講座をご覧ください。
jRO“雲から山の天気を学ぼう39回「丹沢・鍋割山での落雷事故」
猪熊隆之の観天望気講座132回「天気図、雲から落雷、強雨を予想しよう前編」
https://blog.goo.ne.jp/yamatenwcn/e/8c5c72e621dacb03809863c923ff4c71
猪熊隆之の観天望気講座133回「天気図、雲から落雷、強雨を予想しよう後編」
https://blog.goo.ne.jp/yamatenwcn/e/80881da68c1ee738abb8dfc3df1b18a2
文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)
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