冬型の天気 ~八ヶ岳~
冬によく現れる冬型の気圧配置。モンゴルやシベリア方面に高気圧、千島列島やオホーツク海、三陸沖に低気圧という“西高北低型”の気圧配置で、天気図上では等圧線が縦縞模様になっている形です。冬型の気圧配置になると、「日本海側では雪や雨、太平洋側では晴れ」といった天気となりますが(実際にはそんなに単純ではない)、真ん中にある八ヶ岳はどのような天気になるでしょうか?多くの登山者にとって八ヶ岳の天気はイメージが掴みにくいと思います。
そのようなとき、取りあえず出発してみて八ヶ岳にかかる雲を見て判断するのもひとつの方法です。稜線で天候が荒れていても赤岳鉱泉や行者小屋、黒百合ヒュッテなど森林限界を超えなければ、風がそれほど強まらず、歩くことができます。山に入ってみて、山にかかる雲の変化から翌日の行動を決めてもいいでしょう。また、雪がシンシンと降る八ヶ岳もメルヘンチックです。
冬型の気圧配置といっても、冬型が強いとき、弱いとき、風向き、上空の寒気の強さによって、山の天候は大きく変わります。それは、八ヶ岳に限ったことではありませんが、今回は八ヶ岳について取り上げていきます。強い冬型と弱い冬型の違いは、地上天気図に書かれている等圧線が何本走っているかで見分けることができます。
●地上天気図で、冬型が強いか弱いかを見分ける方法
強い冬型・・・本州から九州、または北海道から本州にかけて等圧線が5本以上
並の冬型・・・本州から九州、または北海道から本州にかけて等圧線が3~4本
弱い冬型・・・本州から九州、または北海道から本州にかけて等圧線が3本または2本以下
それでは、まず並の冬型のときに現れる雲から。
写真1 並の冬型のときの雲
標準的な冬型のときには、山麓では晴れますが、山の上には雲がかかっています。雲のてっぺんは、水平になっており、この上に安定した空気の層があることを示しています。安定した層があると、雲はこれ以上、上昇できず横に広がっていくからです。この雲がかかっているとき、稜線では霧に覆われますが、降雪はあっても弱く、本降りになることは少ないです。稜線では風が強く、気温も低いので、防寒、防風対策は万全にしていく必要があります。また、上空の寒気が強まっていくと、写真2のように雲がやる気を出していき(上方に成長していき)、吹雪になります。
写真2 上空の寒気がやや強まったときの雲
写真3 冬型が強いときの雲
冬型が強くなると、山麓でも雲が多くなり、雲底(雲の底)の高度と雲頂(雲の上端)の高度の差(写真3、4の白い矢印の幅)が大きくなります。つまり、雲が厚くなるということです。そうなると、太陽の光が通らなくなり、雲の底は暗い色に変わってきます。雲が厚みを増すと山全体を覆い、雲の下に降雪が見られるようになります(緑色のカコミのもやっとした部分)。このような雲の特徴が見られるとき、山の上は吹雪となっています。見通しが悪く、低体温症のリスクもありますので、森林限界より上部の行動は控えた方が良いでしょう。
このようなとき、南アルプスでも稜線では雲に覆われることが多く、ふぶくこともあります(写真5)。北アルプスでは猛吹雪となっており、大雪になることもあります。
写真4 上層に強い寒気が入っているときの雲
上層に寒気が入ってくると、大気が不安定になり、雲がやる気を出して上の写真のように、もくもくと上方へ発達していきます。夏の入道雲と同じですね。このような雲に山が覆われているときは、雪が強まり、突風や落雷の恐れもあります。冬型が強まっているときに、このような雲が見られるときは、山の上では暴風雪の大荒れの天気になります。もっとも注意が必要な雲です。
写真5 甲斐駒、鳳凰三山付近の雲
東京方面から「特急あずさ」に乗車して茅野、松本方面に向かうと、韮崎を過ぎる頃から車窓の左手に鳳凰三山~甲斐駒の山並みが見えてきます。上の写真のように山が雲に覆われているようなときは、南アルプスの稜線でも吹雪いています。冬型のときには普通、八ヶ岳より南アルプスの方が天気は良くなりますから、このようなときは八ヶ岳では暴風雪の大荒れの天気になっていると思った方が良いです。そのため、北八ヶ岳の樹林帯のコースや、入笠山など山頂は開けていてもすぐに樹林帯に下りられるような、風の影響を受けにくいコースに変更した方が良いでしょう。
写真6 冬型が弱いときの雲
一方、冬型が弱まっていくと、標高の低い茶臼山から高見石付近から雲が取れてきて、上の写真のように、雲は天狗岳~権現岳上空に広がるのみになってきます。やがて天狗岳や権現岳も雲が取れて阿弥陀岳が見えてくると、最後まで残っていた横岳~赤岳の雲が取れるのももう一息です。冬型が弱まってくれば、天気が回復していき、稜線の風も弱まっていきます。午前中に写真6のようになれば午後は全域で好天が期待できますし、午後に写真6のようになっていれば翌朝は好天が期待できます。
このようなとき、南アルプスでは快晴です。ただし、稜線では西寄りの風が強まることがあります。また、北アルプス南部でも常念山脈や上高地など信州(長野県)側の山麓から次第に天気は回復していきます。
このように雲を見ることで、山の上の天候の荒れ具合を想定することや、冬型の強さを推測することができます。空からのサインを読み取って、安全な登山を心がけてください。
文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)
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