山の天気予報

ヤマテンからのお知らせや写真投稿などを行います。

猪熊隆之の気象考察 ~西日本の山岳遭難partⅡ~

2022-02-14 15:20:07 | 観天望気

西日本の山岳遭難partⅡ

今回は、2022年2月5日~6日にかけて西日本の山岳で気象遭難が発生したときの状況について解説していきます。

新聞などの報道によると、2022年2月5日に大山を登山中の登山者2名が強風によって八合目付近で動けなくなったと119番通報があり、翌6日に1名が救助されたものの、1名は死亡したという事故がありました。また、2月6日には氷ノ山で男性1名が下山予定時刻に下山せず、翌7日に無事救助されるという事故がありました。

いずれも悪天候による行動不能や、視界不良による道迷いが原因で発生した事故です。それでは、どの位の悪天候になったのかを観測データなどを元に推測していきます。

表1 鳥取市上空のウィンドプロファイラによる風速データ(気象庁提供)

表1は、ウィンドプロファイラの観測による鳥取市上空1kmと2kmの風速です。大山8合目は標高1,550m付近、氷ノ山の山頂が1,510mですから、1kmと2kmの間付近の風速と考えられます。5日は平均で午前中は15~17m/s、午後は16~18m/s前後、6日は16~17m/s前後の西よりの強風が吹いていることが分かります。

さらに、5日から6日にかけて断続的に雪が降り、大山山麓(標高875m)では5日に18cm、6日27cmの降雪を観測しました。氷ノ山東麓の兎和野高原(540m)では5日に61cm、6日に19cmの降雪を観測し、5日は大雪になりました。強風に降雪を伴うと、吹雪になります。平均15m/sを超える状況では猛吹雪となり、数メートル先すら見えない状況になることがあります。悪天はイメージできても視界が見えないことの怖さを想像できる登山者は少ないと思います。雪山は、雪に覆われて斜面の凹凸が分かりにくく、雪庇が張り出している所があります。夏山以上に、視界が悪くなったときのリスクは大きいと認識することが大切です。

さて、こうした大荒れの状況は予想できたかと言いますと、山の天気予報をご利用いただいている方は予想されていたと思いますが、天気図からも想定することができました。PartⅠで地上天気図(予想図)から見分けるコツをお伝えしましたが、覚えていますか?

図1 2月5日12時の地上天気図(気象庁提供)

本州で4本以上、等圧線が走っているときは要注意でしたね!

図1は要注意の天気図ということになります。特に、大山、氷ノ山付近では等圧線の間隔が狭くなっています。

また、シベリアに高気圧、オホーツク海に低気圧があり、日本付近で等圧線が縦縞模様となっていることから、冬型の気圧配置になっています。このようなとき、シベリアから北西の季節風が吹き、それが日本海で温められ、さらに水蒸気の補給も受けて大気が不安定になり、雪雲が発生します。その雪雲が大山や氷ノ山など中国山地にぶつかると、さらに発達して大雪を降らせることがあります。

本州で4本以上等圧線が走っているときの冬型を、強い冬型と言います。そのようなとき、山陰地方や近畿地方北部の山岳では猛吹雪となりますので、猛吹雪による行動不能や低体温症、視界不良による道迷いや雪庇踏み抜き、雪崩、大雪によるラッセル、テント埋没や倒壊、凍傷などのリスクが高まります。自分の行くルートでどのようなリスクがあるのかをしっかりと見極めて、そのリスクに対応できないようであれば、登山計画を変更することを決断しましょう。それが雪山で事故を起こさないもっとも確実な方法です。

文、:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

山の天気予報は、ヤマテンで。

https://lp.yamatenki.co.jp/


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 猪熊隆之の気象考察 ~西日... | トップ | 山の天気を学ぶオンライン講... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。