今回は、2023年4月16日(日)に鳥取・岡山県境の三平山(1,010m)で見られた雲についてです。この日は、午後から上空に強い寒気が入ることが予想されていました。このようなとき、大気が不安定になり、雷雲が発生しやすくなります。雷雲は、登山者にとって大きなリスクとなる落雷や局地的な大雨をもたらすことがあります。これらのリスクから身を守るためには、
1.登山前に積乱雲が発達しやすい(雲がやる気を出しやすい)気象状況かを天気図から確認 2.登山中に、積乱雲が発達する兆候が見られないかを、雲の種類、動きや風の変化から確認 |
1.については、500hPa面(高度約5,500m)や850hPa面(高度約1,500m)の気温予想図を確認することが大切です。雷雲は、雲がもっともやる気を出した(上方に成長した)状態で、雲がやる気を出すかどうかの指標は、500hPaと850hPaの気温を比較することで、ある程度分かります。
“雲のやる気”の指標
- 850-500の気温27℃以上・・・雲が非常にやる気を出す(落雷、局地豪雨のリスクが非常に高い)
- 850-500の気温24℃以上・・・雲がやる気を出す(落雷、局地豪雨のリスクが高い)
- 850-500の気温21℃以上・・・雲が少しやる気を出す(落雷、局地豪雨のリスクがやや高い)
図1 500hPa面(高度約5,500m付近)の4月16日15時の気温予想図(ヤマテン「山の天気予報」専門天気図 i.yamatenki.co.jp/ より)
図1は、太い線が6℃ごと、細い線は3℃ごとに500hPa面(上空5,500m付近)の気温を示しています。三平山付近(△印)では500hPaでマイナス24℃以下の寒気に覆われており、その北側の細い線、マイナス27℃以下の寒気が迫ってきています。つまり、5,500m付近でマイナス26℃前後の気温になります。
図2 850hPa面(高度約1,500m付近)の4月16日15時の気温予想図(ヤマテン「山の天気予報」専門天気図 i.yamatenki.co.jp/ より)
図2は、太い線が6℃ごと、細い線は3℃ごとに850hPa面(上空1,500m付近)の気温を示しています。三平山付近(△印)では850hPaで6℃以下になっており、北側に細い線、3℃の線が迫ってきていますので、おおよそプラス4℃程度ということになります。
つまり、500hPa面と850hPa面の気温は、それぞれマイナス26℃、プラス4℃なのでその気温差は30℃になります。この温度差は、雲が非常にやる気を出す条件になります。つまり、落雷や強雨(雪)のリスクが高まるということです。このようなときは、早い時間から雷雲が発達する可能性があり、昼前には安全な場所に下山するように、計画を変更した方が良いでしょう。
さて、天気図で確認した後は、リスクを減らす方法の「2.登山中に、積乱雲が発達する兆候が見られないかを、雲の種類、動きや風の変化から確認」します。
写真1 平地では低い雲の下に入ると、雲の高さが分からない
この日は朝から低い雲、層積雲(うね雲)に覆われていました。うね雲については、前回(193回 http://sora100.net/course/kantenbouki/2929)をご参照ください。うね雲は高度が低い雲で、このような雲に覆われると、その上がどうなっているのか、どこまで雲がやる気を出しているのかが分かりません。そこで、雲の隙間から見られる雲を確認しましょう。写真2のように晴れ間が広がってきたときがチャンスです。
写真2 南東側でもくもくとわき出した雲
三平山は日本海に近く、日本海からの湿った空気が入りやすい位置にあります。その湿った空気が山にぶつかって上昇して雲を発生させます。このとき、雲がどの位“やる気”を出しているのかを確認することが大切です。雲のやる気の判断は、雲のてっぺんを見ていきます(写真2の赤いワク線内)。雲はやる気を出すほど、モクモクと上方に成長していき、初めはシュークリームのような雲が次第にソフトクリームのような雲になっていきます。写真2の場合、赤い線で囲んだ雲が3つあります。左側はまだ、シュークリーム状でそれほどやる気を出していないので、落雷や強雨をもたらすような雲ではありませんが、一番右側の雲はソフトクリーム状になっていて、少し危ない高さまで発達してきています。今後、さらに成長するようだと雷雨をもたらす可能性があります。右側ほど雲がやる気を出しているのは、写真の右側が日本海の方向になり、右側ほど日本海からの湿った空気が入りやすいからです。
写真3 雲がやる気を出してきた様子
さて、しばらく登っていくと、雲の隙間から見られた雲は、どんどんやる気を出していき、写真3のように、ソフトクリームのような雲がぐんぐんと成長していきました(赤いワク線内)。また、雲の底が真っ暗になってきました。このように、雲の底が真っ暗で上がソフトクリーム状になっている雲は、落雷や強雨をもたらす可能性のある危険な雲です。こうした雲が1.日本海側の山では日本海の方向 2.全ての山で風が吹いてくる方向 のいずれかの方角に現れたら落雷や強雨、激しい風雨から身を守れるような場所に避難を開始しましょう。1については、日本海がどの方角かを地図で調べていきましょう。三平山では北東~北~北西の方角になります。また、風向は開けた場所や尾根上ではその場で吹いている風からコンパスや方位を測れる時計で確認し、そうでない場合は、雲の流れから判断していきます。このときは、西北西から風が吹いていましたので、そちらの方角を確認しました。
写真4 強い雨をもたらす雲
さて、山頂に着いた頃、西側の方角に写真4のような雲が見られました。白いワク線の中のように、暗い感じの雲が帯状に連なっていて、上方がソフトクリーム状になっている雲は危険な雲になります。この距離ですと、この雲が手前側に向かってくれば、30分位で激しい雨となる恐れがあります。
写真5 降水雲(こうすいうん)
さらに数分後、その雲の下にモヤっとしたものが見られました(写真5の白いワク線内)。これを降水雲と呼び、雨が地上に達していることを示しています。写真4,5の雲は、風上側の方向(西側)にありますので、やがてこの雲は三平山にやってくることになります。そこで下山を開始することにしました。
写真6 頭上でやる気を出してきた雲
下山中に、この雲が迫り、頭上でやる気を出してきましたが(写真6)、幸い、山を越えるときに弱まり、登山口までは降られずに済みました。しかし、この日の午後は大山北麓や周囲の山で雷雨となり、怖い思いをされた方もいらっしゃるかもしれませんね。
なお、周囲で入道雲(ソフトクリーム状の雲)がやる気を出し始めたとき、いつ避難を開始するかについては、171回の「積乱雲の見極め方」 https://blog.goo.ne.jp/yamatenwcn/e/eba7368921e74e62b2034b2df665d8ac も併せてお読みいただくと、理解が深まります。
文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)
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