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yasuの「今日もブログー」

日々に感じ、考えたことを記していきます。読書、メディア、時事などイロイロです。

雪の休日

2013-01-14 | 読書(芸術、文学、歴史)

昨日の快晴はどこへ行ったのか、今日は昼前から本格的な雪となった。べちゃべちゃのボタン雪だから積もるまいと思っていたが、その後気温も下がった のか、午後3時には7~8センチの雪が道路や家の屋根を覆った。 二軒どなりのポルシェ乗りのご夫婦が、共有の敷地の雪かきを始めたので、河童と長靴を履 いて加わった。「明日の朝は間違いなく凍結するし、スタッドレスなしのクルマは動けないだろうが、これで少しは歩きやすいだろう」などと話しながら、いっ とき作業した。

 

それが終わってから、読みかけていた村上龍「55歳からのハローワーク」という中編のアンソロジーを読んだ。 村上龍はもう長いこと読んでいない が、先週末、Book1の新刊コーナーに積み上げてあった本書を手に取った。あと数年もすれば、この本のタイトルにある年齢に達するのだと思うと、どんな 人生が書かれているのか知りたくなった。 

 

70ページ程度の中編が5つ。いずれも各地の地方紙をネットして掲載されたものだ。  震災の後に書かれており、登場人物はいずれも50歳後半から 60歳前半、男性と女性、ホームレスから比較的裕福な年金生活に入った中流の夫婦など、まさに今の日本にどこにでも居そうな設定だから、リアリティーがあ る。

 

子育ても終わり、夫が退職してから妻から言い出して離婚する話から始まる。リストラされて工事現場の交通誘導の仕事に就き、次第に貯金を食いつぶし て困窮しながらも、ホームレスに落ちぶれた中学の友人を山谷から引き受ける男の話。 退職金でキャンピングカーを買って夫婦で全国を旅する計画に妻に反対 されプライドを打ち砕かれる元管理職の男。 そして、ペットの死を通じて、お互いのコミュニケーションを取り戻す夫婦の話など。

 

村上春樹と違い、村上龍は90年代以降、社会や時事の問題に密接に絡んだ題材を小説にしてきた。 それが疎ましく感じられたこともあって、90年代 以降の作品はほとんど読んでいなかったが、この小説集は不思議と腑に落ちた。 暴力や空想的なプロットなど、かつての著者の定番の装置はない。成熟した日 本社会で、老いゆく人間を真っ直ぐに見つめ、将来が見通せず不安を抱えるシニア世代に寄り添い、下山の人生を如何によく生きるかを提出しているといっても いい。そういう意味で、多分に倫理的な作品といえる。

 

この小説を読んで、自分にも当てはまるものを感じる人は、存外に多いのではないだろうか。自らが信じてきた価値や、積み上げてきた経験が、もう社会 では必要とされないと宣告されたり、安定していると思っていた夫婦関係が実は脆く形骸化していると気付いたりする主人公たち。その危機に際して、引きこ もったり自暴自棄にならずに、平穏に人生を全うすることの尊さを作者は伝えようとしているようだ。 高齢者の生き方が今の社会に最大のテーマになりつつあ り、何人も老いから逃れられないからこそ。


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