著者は、朝日新聞ロンドン支局特派員の現役記者。今やギリシアからイタリアに飛び火し、欧州のみならず世界を揺るがす不安定要因になっているユーロ危機について、EU各国の状況をこの2年間現地に足を運びながらまとめた本だ。 日本での報道だけだと断片的になりやすい知識を補い、現在の状況を把握する意味で助けになる。
ギリシア、スペイン、ポルトガル、イタリアといったPIGSやアイルランドは、いずれもユーロバブルに踊り、リーマンショック後は銀行の不良債権と政府の財政赤字で資金繰りが悪化し、ECBやIMFの緊急支援を受けたり管理化に入ったりしている。 これに対し、当初国内世論の反発からギリシアへの支援に消極的だったユーロの盟主であるドイツと、ラテンから遠ざかりドイツ化し始めたフランス。 特にドイツは、ユーロ安で輸出が好調で一番恩恵を受けているのだから、苦しむユーロ諸国に支援するのは当然という論理にも抗いきれず、何よりユーロを崩壊から救うためには、支援を受け入れざるを得ない。しかし、各国に連鎖する危機に際限なく支援することも不可能だ。
2008年夏、20年ぶりにポルトガルのリスボンを訪れたときに、建設ラッシュと物価の高さに驚いたが、この本でも、乗客がおらず閑散としたスペイン ラマンチャ地方に出来たドンキホーテ空港の様子などが紹介されている。 それらはユーロバブルが経済的弱小国にもたらした一時的な繁栄に過ぎず、2008年のリーマンショックで資金は一斉に引き上げ、あとは巨大な不良債権と債務が残った。
また、ユーロに参加していないイギリスでは、前ブレア政権の「第三の道」から転じて、大胆な財政赤字削減に着手したキャメロン連立政権は、消費税のアップ、行政サービスの縮小など改革を進めているが、やはり各地で軋みを生んでいる。 少子高齢化、膨らむ医療費と年金支払い、政府財政赤字の増大など、欧州各国が抱える問題は日本と共通だ。
発足して10年が経つ通貨同盟ユーロはどこに向かうのか。 最後の章ではこの問いが投げかけられる。 ギリシアなど危機に瀕している国々がユーロを離脱することは、通貨切り下げによって債務が膨大になるので実際は不可能という。 一方、EUをさらに強化しEU財務省を作ってユーロ共同債を発行するという構想も、そこまで各国を政治的に連結することは難しいとされる。 そして一番現実的なシナリオは、ドイツがユーロを離脱するしかない、というブレア元首相のブレインの説が紹介されている。 それはドイツ、フランス以外の国の本音かもしれないが、ドイツは通貨切り上げとなり大きな損失を被るし、折角ここまで築いたユーロ圏を離脱するとは到底思えない。 いずれにしても、ユーロが今の形では持続不可能だという認識は既に共有されているようだ。
バブルは、その渦中にいるときは、わからないものなのか。日本は20年前にいち早くそれを経験した。不良債権を完全に処理するには、小泉政権まで10年以上かかった。 2008年の金融バブル崩壊の傷跡は深く、アメリカも欧州も未だに出口が見えない。 そして、中国でも大都市の不動産の下落が始まっているようだ。 その中で、大震災と原発事故に遭遇した日本の円が買われ続けている。 日本の累積財政赤字は、GDPの200%に及ばんとしているのに、海外の純資産額は世界一、国内の貯蓄高は1500兆円におよび、国債はほぼ100%国内で消化している。 ギリシヤやイタリアの状況を見ると、これだけの経済力を持っていることは、やはりすごいことだと思う。 この本のあとがきで著者も書いているように、日本は必要な改革を行い、産業はこれまでどおり国際競争力を持って、世界で稼いでいかないといけない。 成長も福祉も、というトニーブレアが描いた「第三の道」はイギリスでは行き詰ったとしても、日本はその理想を追うべきである、と筆者は締めくくっている。