首相官邸や自民党のホームページにも一切出ていない。主要新聞やTVに政府から非公式に流されたものが、そのまま記事になったようで、知り合いの記者に聞いても知らないし文書も見ていない。
例えば、13年以上のクルマをスクラップして新車に替えときは、25万円(軽自動車は12.5万円)、環境車に乗り換える場合は、10万円補助という数字が新聞にはあるが、一体「環境対応車」とは、どんな基準をさすのかも明確でなかった。結局、10日の夕刻、輸入車組合や自動車販売連合会から入った文書で、ようやくそれの内容が判明し、
1)13年以上のクルマを廃車し、さらに2010年燃費基準を満たしたクルマを買う際は、この25万円が補助される。
2)環境対応車の追加助成は、排ガス基準で4つ☆を獲得し、さらに燃費が2010年基準に対し15%以上を達成している車種に適応、
ということが判明したわけだ。
これがどういうことかというと、現在販売されている輸入乗用車では、1)のスクラップ減税の対応車種は、全体の3分の1程度にとどまる(輸入車組合調べ)、2)の助成については、既に4月から始まったエコカー減税と同様に、輸入乗用車は適応車種なし、という事態になる。
4月に始まったエコカー減税は、ハイブリッドやクリーンディーゼルが、取得税と重量税を100%減免されるほか(対応11車種)、低排ガス4つ星および2010年燃費基準を25%以上クリアしている車種に、同じく取得税、重量税が75%減免。排ガス4つ星と燃費基準15%以上クリアが、50%の減免で、国産のガソリン乗用車合計90車種が適応をうける。 ハイブリッドカーのプリウスでは購入時に17万~20万円、レクサスLS600hでは50万円以上。ヴィッツやフィットといったコンパクトカーでも、7万円以上の減税となる。
なぜこれが問題か。
ひとつは、輸入車に適当車種が皆無ということで、まず国産車との競争に不利になるということ。環境車を推進することは結構だが、経済対策を主眼に行う助成において、環境基準に拘る余り、輸入車を疎外する結果となっている。エコカー減税に加えて、今回の追加対策ではこの不平等が更に拡大し、仮にプリウスとVWゴルフを購入比較すると、プリウスは、27万円から40万円近い減税となるのに、ゴルフは0円もしくは、13年以上のクルマをスクラップする場合おいてのみ25万円の補助となる(プリウスは同じ条件の場合、約40万円。) また現在のクルマの平均寿命は約11年だから、元来13年以上の車齢のクルマ自体が少なく、ドイツの9年以上のスクラップ減税などに較べて効果は限定的なのはあきらかだ。 ドイツの場合は、適応を受けているクルマの約半分はドイツ車以外の外国車である(もちろん日本車も含まれる。)
また、国産車の中でも、排気量の小さいコンパクトカーとミニバンに偏って減税が適応される点だ。これは、日本の燃費目標が重量カテゴリーごとに設定されているからで、例えばトヨタアルファードという2トンを超えるミニバンは、カタログ値でもリッター10キロも走らないのに、重量カテゴリーで目標値が8km/l程度だから、15万円以上の優遇を受けることになる。 真剣にCO2を減らしたいなら、小さくて軽くて燃費のいいクルマを奨励すべきなのに、重い車が有利になっている。 もちろん、クルマに経済性だけでなく、走りの良さを求める人もいるのに、そうした消費者の選択肢を狭めていることは言うまでもない。
しかし、より根本的な問題は、日本で「エコカー」といわれるクルマは、言われるほどエコではないということだ。 まずは燃費。プリウスの燃費は、カタログ値(10/15モード)では35km/lだが、実際の走行では、20km/lがせいぜいであり、これは、50万人の会員をもつ「e燃費」のデータでも裏付けられている。さらに、ヴィっツやフィットといったカタログでは、22-24km/lの燃費をうたう最近人気のコンパクトカーでも、実際は、13-15km/l程度である。つまり、日本の現在の排ガスと燃費計測モードである10/15 モードは、平均車速(22.4km/h)やエンジン負荷が低すぎて、現代のクルマの性能や実際の交通状況に対応していない。 これに対して、基本的に欧米のクルマは、より実際の運転状況に近いモードでの試験を前提に開発されているので、カタログ燃費と実燃費の差が小さい。例えば、ゴルフの1.4 TSI(旧型)の場合は、カタログ値は15.4km/lだが、e燃費の2008年の値は13.2km/lで、カタログ値に対して86%の達成率を示している。 プリウスや多くの国産車の場合、これが6割ー7割にとどまる車種が多い。 TSIエンジンは、2-2.4L並みの動力性能を持ちながら、燃費は1.5Lクラス並というのは、e燃費でも実証されているのであり、現在のガソリンエンジンとしては、このエンジンは大変優れた熱効率を持つわけだ。
問題はもう一つある。新型ゴルフなども減税の燃費基準は満たしていながら、低排ガス4つ☆の縛りがあるために、減税措置を受けられないということだ。 4つ☆というのは、2005年の新長期排ガス規制に対して、NOxやCOといった有害な排ガスを75%低減していることを証明する認定で、しばらく前から実施されているが、これまでは減免措置はあっても、ハイブリッド車などへの20万円補助を除けば、ガソリン車に対しては、せいぜい2万円程度の減免でそれほど大きなインパクトはなかった。 だから、輸入車は、4つ☆獲得ために特別にエンジンや排ガスのチューニングはやってこなかったのである。 実際は、低排ガス3つ☆や4つ☆のポテンシャルを持っている車種も少なくなく(ベンツやボルボには、4つ星認定車種がある)、最初からその前提で開発すれば、それほどコストをかけずに達成できるものだ。
この排ガス基準については、日本のガソリン車の基準は、既にアメリカのBin5や欧州のユーロ5〔ともに2008年実施)と、数値的には同等のレベルまで厳しくなっており、これをさらに75%低減させるというのは、あくまでnice to haveという意味合いだった。 それに、実燃費が悪いということは、4つ星ラベルをつけている多くの国産車も、実際は倍近い量の排ガスを出しているということであり、さらに日本の10/15モードは、排ガスに不利な冷間始動や、エンジン負荷の高い100キロ前後の高速走行を含まないので、例えばアメリカのEPAの基準などに較べれば、実際ははるかに緩いものだ。需要喚起の対策に、この4つ星の縛りをかけたものだから、実際は排ガス性能においても、それほど差がないと思われる欧米のクルマを排斥する結果となっているのである。
もちろん、日本の燃費排ガス基準向けに開発すべきではないのか、という意見もあろうが、現在の10/15モードが実情に合わなくなっていることは政府もわかっていて、2011年からは、よりエンジン負荷や車速がより高く、冷間始動も含んで排ガスにも厳しいJC08モードへの移行が決まっているのだ。
結論としては、今回の減税で燃費が良いエコカーとされているクルマの多くが、実際はそれほど低燃費、低排ガスではなく、輸入車との実力の差はあまりないのに、不当に優遇される結果を生んでいるわけだ。
残念なのは、週末のメディアの報道を見ても、各政策に対するこうした検証作業がほとんど行われていないことだ。 10日の麻生総理の記者会見でも、10分足らずの質疑応答の中で、追加対策の具体的な中身に関する質問は皆無であり、これでは対策が本当に良い物なのかどうかメディアや世論による検討と議論が全く行われないまま、家電量販店や自動車販売店では、まだ国会に提出されてもいない法案の特典について、お客の問い合わせの対応に追われるという不思議な現象が生じていることである。(因みに、こうした優遇助成の内容は、事前に業界団体には諮られているようだ。)
政府、与党からの一方的な情報の通達を、専門的知識に欠ける記者とマスコミは官製情報を垂れ流しにし、それに踊らされる国民、消費者。今回の追加経済対策の発表ほど、この国のガバナンスの不在を、見事に現出して見せたものはあるまい。
例えば、13年以上のクルマをスクラップして新車に替えときは、25万円(軽自動車は12.5万円)、環境車に乗り換える場合は、10万円補助という数字が新聞にはあるが、一体「環境対応車」とは、どんな基準をさすのかも明確でなかった。結局、10日の夕刻、輸入車組合や自動車販売連合会から入った文書で、ようやくそれの内容が判明し、
1)13年以上のクルマを廃車し、さらに2010年燃費基準を満たしたクルマを買う際は、この25万円が補助される。
2)環境対応車の追加助成は、排ガス基準で4つ☆を獲得し、さらに燃費が2010年基準に対し15%以上を達成している車種に適応、
ということが判明したわけだ。
これがどういうことかというと、現在販売されている輸入乗用車では、1)のスクラップ減税の対応車種は、全体の3分の1程度にとどまる(輸入車組合調べ)、2)の助成については、既に4月から始まったエコカー減税と同様に、輸入乗用車は適応車種なし、という事態になる。
4月に始まったエコカー減税は、ハイブリッドやクリーンディーゼルが、取得税と重量税を100%減免されるほか(対応11車種)、低排ガス4つ星および2010年燃費基準を25%以上クリアしている車種に、同じく取得税、重量税が75%減免。排ガス4つ星と燃費基準15%以上クリアが、50%の減免で、国産のガソリン乗用車合計90車種が適応をうける。 ハイブリッドカーのプリウスでは購入時に17万~20万円、レクサスLS600hでは50万円以上。ヴィッツやフィットといったコンパクトカーでも、7万円以上の減税となる。
なぜこれが問題か。
ひとつは、輸入車に適当車種が皆無ということで、まず国産車との競争に不利になるということ。環境車を推進することは結構だが、経済対策を主眼に行う助成において、環境基準に拘る余り、輸入車を疎外する結果となっている。エコカー減税に加えて、今回の追加対策ではこの不平等が更に拡大し、仮にプリウスとVWゴルフを購入比較すると、プリウスは、27万円から40万円近い減税となるのに、ゴルフは0円もしくは、13年以上のクルマをスクラップする場合おいてのみ25万円の補助となる(プリウスは同じ条件の場合、約40万円。) また現在のクルマの平均寿命は約11年だから、元来13年以上の車齢のクルマ自体が少なく、ドイツの9年以上のスクラップ減税などに較べて効果は限定的なのはあきらかだ。 ドイツの場合は、適応を受けているクルマの約半分はドイツ車以外の外国車である(もちろん日本車も含まれる。)
また、国産車の中でも、排気量の小さいコンパクトカーとミニバンに偏って減税が適応される点だ。これは、日本の燃費目標が重量カテゴリーごとに設定されているからで、例えばトヨタアルファードという2トンを超えるミニバンは、カタログ値でもリッター10キロも走らないのに、重量カテゴリーで目標値が8km/l程度だから、15万円以上の優遇を受けることになる。 真剣にCO2を減らしたいなら、小さくて軽くて燃費のいいクルマを奨励すべきなのに、重い車が有利になっている。 もちろん、クルマに経済性だけでなく、走りの良さを求める人もいるのに、そうした消費者の選択肢を狭めていることは言うまでもない。
しかし、より根本的な問題は、日本で「エコカー」といわれるクルマは、言われるほどエコではないということだ。 まずは燃費。プリウスの燃費は、カタログ値(10/15モード)では35km/lだが、実際の走行では、20km/lがせいぜいであり、これは、50万人の会員をもつ「e燃費」のデータでも裏付けられている。さらに、ヴィっツやフィットといったカタログでは、22-24km/lの燃費をうたう最近人気のコンパクトカーでも、実際は、13-15km/l程度である。つまり、日本の現在の排ガスと燃費計測モードである10/15 モードは、平均車速(22.4km/h)やエンジン負荷が低すぎて、現代のクルマの性能や実際の交通状況に対応していない。 これに対して、基本的に欧米のクルマは、より実際の運転状況に近いモードでの試験を前提に開発されているので、カタログ燃費と実燃費の差が小さい。例えば、ゴルフの1.4 TSI(旧型)の場合は、カタログ値は15.4km/lだが、e燃費の2008年の値は13.2km/lで、カタログ値に対して86%の達成率を示している。 プリウスや多くの国産車の場合、これが6割ー7割にとどまる車種が多い。 TSIエンジンは、2-2.4L並みの動力性能を持ちながら、燃費は1.5Lクラス並というのは、e燃費でも実証されているのであり、現在のガソリンエンジンとしては、このエンジンは大変優れた熱効率を持つわけだ。
問題はもう一つある。新型ゴルフなども減税の燃費基準は満たしていながら、低排ガス4つ☆の縛りがあるために、減税措置を受けられないということだ。 4つ☆というのは、2005年の新長期排ガス規制に対して、NOxやCOといった有害な排ガスを75%低減していることを証明する認定で、しばらく前から実施されているが、これまでは減免措置はあっても、ハイブリッド車などへの20万円補助を除けば、ガソリン車に対しては、せいぜい2万円程度の減免でそれほど大きなインパクトはなかった。 だから、輸入車は、4つ☆獲得ために特別にエンジンや排ガスのチューニングはやってこなかったのである。 実際は、低排ガス3つ☆や4つ☆のポテンシャルを持っている車種も少なくなく(ベンツやボルボには、4つ星認定車種がある)、最初からその前提で開発すれば、それほどコストをかけずに達成できるものだ。
この排ガス基準については、日本のガソリン車の基準は、既にアメリカのBin5や欧州のユーロ5〔ともに2008年実施)と、数値的には同等のレベルまで厳しくなっており、これをさらに75%低減させるというのは、あくまでnice to haveという意味合いだった。 それに、実燃費が悪いということは、4つ星ラベルをつけている多くの国産車も、実際は倍近い量の排ガスを出しているということであり、さらに日本の10/15モードは、排ガスに不利な冷間始動や、エンジン負荷の高い100キロ前後の高速走行を含まないので、例えばアメリカのEPAの基準などに較べれば、実際ははるかに緩いものだ。需要喚起の対策に、この4つ星の縛りをかけたものだから、実際は排ガス性能においても、それほど差がないと思われる欧米のクルマを排斥する結果となっているのである。
もちろん、日本の燃費排ガス基準向けに開発すべきではないのか、という意見もあろうが、現在の10/15モードが実情に合わなくなっていることは政府もわかっていて、2011年からは、よりエンジン負荷や車速がより高く、冷間始動も含んで排ガスにも厳しいJC08モードへの移行が決まっているのだ。
結論としては、今回の減税で燃費が良いエコカーとされているクルマの多くが、実際はそれほど低燃費、低排ガスではなく、輸入車との実力の差はあまりないのに、不当に優遇される結果を生んでいるわけだ。
残念なのは、週末のメディアの報道を見ても、各政策に対するこうした検証作業がほとんど行われていないことだ。 10日の麻生総理の記者会見でも、10分足らずの質疑応答の中で、追加対策の具体的な中身に関する質問は皆無であり、これでは対策が本当に良い物なのかどうかメディアや世論による検討と議論が全く行われないまま、家電量販店や自動車販売店では、まだ国会に提出されてもいない法案の特典について、お客の問い合わせの対応に追われるという不思議な現象が生じていることである。(因みに、こうした優遇助成の内容は、事前に業界団体には諮られているようだ。)
政府、与党からの一方的な情報の通達を、専門的知識に欠ける記者とマスコミは官製情報を垂れ流しにし、それに踊らされる国民、消費者。今回の追加経済対策の発表ほど、この国のガバナンスの不在を、見事に現出して見せたものはあるまい。
次の世代に有益かどうかという長期的なビジョンがないまま、次の世代に更なる借金を背負わせるのはあまりにも無責任と言う他ない。早く選挙で、ばらまきという目くらましにだまされない選択をしたいと切に願う。